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トム・サックスが来日、“消費主義の大聖堂”と評価する伊勢丹新宿店での展覧会開催を記念して

2023年09月20日 14:41  Fashionsnap.com

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展示会場に登場したトム・サックス

Image by: FASHIONSNAP
 現代アーティストのトム・サックス(Tom Sachs)が、伊勢丹新宿店90周年を記念した展覧会「トムサックス:店舗体験」をスタートした。同展は2020年以来2回目の開催となり、会期は10月23日まで。展覧会開幕前日の9月19日には会場内でプレスプレビューが行われ、来日中のトム・サックス本人も出席した。

 2回目の開催となる「トム・サックス:店舗体験」は、前回同様、展覧会を通して日常生活や住まいにアートやデザインを取り入れる方法を提案。展示作品の全てを「彫刻」と位置付け、全て手作りで制作した絵画や彫刻、サウンドシステム、陶器、家具などを展示するほか、Tシャツ(5500~1万7600円)やキャップ(1万1100~1万6500円)といったアパレルや、ZINE(4070円)、ジュエリー(7万1500~12万3750円)、スケートボードデッキ(3万3000円/全て税込)などのアイテムを展示販売する。細部まで実際のスタジオの規定に則って作られたインスタレーションは、訪れる人がまるでサックスのスタジオを訪れたかのように感じられる空間となっている。また10月10日までは、伊勢丹本館1階のウィンドウにも作品をディスプレイしている。
全作品を“彫刻”とする理由とは
 来日するのは今年4月ぶりだというトム・サックス。会場に到着するなり周りを見渡すと、展示をとても気に入った様子で、満足気な表情を浮かべていたのが印象的だった。そんなトムに、自身の作品の背景にある想いや価値観、今回の伊勢丹での展覧会や日本の印象について話を伺った。

—伊勢丹と再び協働しようと思った理由は?
 伊勢丹は、日本一であり世界一の”消費主義の大聖堂”だと思っているので、ここで展覧会をできるのはすごく特別なこと。前回はコロナ禍で私は来日できなかったのですが、非常に好評だったと聞いて、来られずとても残念でした。だから、伊勢丹から2回目をやらないかと声を掛けられた時は「日本に行けるならやるよ!」という気持ちでした。前回が好評だった分少しハードルは上がるけど、私のスタジオチームや協働した伊勢丹チーム、そしていつもクオリティの高い設営をしてくれる東京のスタジオチームや小山登美夫ギャラリーの皆さんのおかげで、無事に実現することができました。
—ここに展示されているあらゆる種類の作品すべてを“彫刻”と定義しているのは、どのような理由からなのでしょうか?その理由と彫刻の定義を教えてください。
 私はいろいろなものを作ってはいますが、やはり「自分は彫刻家である」という意識が前提として強くあります。そして、全てのものに関して手仕事の痕跡を必ず残すようにしているという点も、一つ一つの作品を彫刻として成り立たせている要素だと思っています。美術の文脈で言えば、マルセル・デュシャン以降は全てを彫刻として捉えざるを得ない状況というのがまずある。そして、いわゆる“プロダクト”と呼ばれるような、一般的には彫刻とは捉えられないものを“彫刻”として発表していくことが、私の実践の一つでもあります。
—普通は彫刻とされないものを“彫刻”として打ち出すことによって、何を達成しようとしているのでしょうか?
 私は「絵画が最も重要で、その次が彫刻で、茶道の『見立て』のようなものはその下」といった美術界のヒエラルキーは、でたらめだと思っていて。絵画よりも質素だけど美しいものはたくさんあるし、それは何世紀も前の作家が作った素朴な茶碗を見ることなどからも学んできました。そういった価値を拡大していくことに、私は非常に興味があるんです。今回の展覧会は、その点において成功しているのではないかと思っています。たとえば、ここに木でできた絵画があるけれど、その上にある竹のランプも同じくらいに素晴らしい。たしかに絵画は思索の対象になるから、より高い精神的価値があるのかもしれない。でも私は敬虔(けいけん)な消費主義者だから、そういうジャッジはしないし、したくないんです。

—今回は新作も含め絵画作品も多く展示されていますが、平面である「絵画」とそれ以外の立体的な作品に何か違いはありますか?
 違いはありません、同じです。どちらも、それがどうやって作られたかが分かるような手仕事の痕跡を残しています。たとえば絵画だったら筆跡や、間違えたところを“ブラックアウト”(修正液で消すことを英語で「ホワイトアウト」と言うのにちなんで)して消しているのが見えるようになっているし、側面には合板も見える。だから、絵画であっても彫刻と同じように制作しているんです。

—サックスさんは茶道に造詣が深いですが、それ以外に日本や日本文化のどんなところに興味をお持ちですか?
 私は、質素なものや精緻なものに美しさを見出す日本の価値観にとても共感しています。また、丈夫で自分より長生きするものを作ることに意味を感じていて。「私が生まれる前から存在し、私が生きている間や私の子供たちが生きている間にも存在していて、我々はあくまで長い連続体の中の一部にすぎない」、そういった概念や価値観を私も持っています。それ以外にも、何から話したらいいかわからないくらい、日本の大好きなところはたくさんあるんです。たとえば、いつもニューヨークで何かを買うと、気づいたら無意識のうちに日本製のものを買っていますし。文房具にしても車にしても、他とは比べられないものづくりの素晴らしさがあると思います。

—最後に、今回の新作で特に注目してほしい作品があれば教えてください。
 この「Stitches」という作品は、「ランダー(lander/着陸船)」と呼んでいる宇宙船に見立てた茶碗のシリーズなのですが、宇宙船は私たちの身体を他の惑星に運ぶ器であり、茶碗もまた水を大地から私たちの体内に運ぶ器でもあります。それぞれのランダーには、古代ギリシャ神話に登場するディオニュソス神とその恋人たちにちなんだ名前を付けているんです。ぜひじっくり見てみてください。


◾️「トムサックス:店舗体験」会期:2023年9月20日(水)~10月23日(月)会場:伊勢丹新宿店 本館2階 イセタン ザ・スペース所在地:東京都新宿区新宿3丁目14-1 詳細ページ