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保育園の保護者向け写真販売サイトに「子どもの全裸」、被害園児の母親「認識が甘すぎる」 相談窓口の課題も

2023年09月18日 08:30  弁護士ドットコム

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都内の認可保育園で、子どもの全裸や下半身が露出した写真が販売サイトに約8カ月間掲載された。被害園児のうちの1人の保護者である都内在住の女性が、弁護士ドットコムニュースの取材に応じた。


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サイトは園の保護者だけがみられるものだったが、女性は驚き、すぐに園に削除をお願いした。園側から謝罪はあったものの、「撮影と公開だけでは被害とは言えない」と主張され、半年にわたって他の保護者に共有されることもなかった。



女性は全国で相次ぐ不適切保育の事例も踏まえて、「事故や事件の本質を理解できず、体質改善ができない母体が運営をつづけることは、子どもたちにとって危険でしかないと思います」と憤る。



●認識の低さに驚き

女性は2022年3月、園で撮影された子どもたちの写真を購入できる写真販売サイトを見ていたところ、自分の子ども(当時3歳)を含めた3人の園児が、着替えで全裸になったり下半身があらわになったりしている写真を見つけた。他にもトイレトレーニングの様子をうつした写真もあった。



「写真は保護者に子どもの成長を伝えるためだったそうですが、大人だったら撮らないのに、子どもなら撮っていいわけではないですよね。園では子どもたちにプライベートゾーンについて話していました。性教育はやるけれど、職員は本質的には理解できていなかったのかと認識の低さに驚きました」(女性)





数日後、園から報告書を受け取った。「子どもの人権擁護、プライバシーゾーン(原文ママ)の認識が欠けていた。認識の甘さがあり、確認が漏れ公開をしてしまった」職員と研修をおこない、再発防止を徹底していくと謝罪された。



ただ、裸の写真の購入者はおらず、現在は写真を削除していることから、園は「一緒に写っていた園児2人の保護者には報告しない」とした。



質問に対する回答ももらえず、園の対応に納得できなかった女性は、区の保健福祉サービス苦情調整委員制度を使って、苦情を申し立てた。委員が調査した結果、「保護者限定とはいえ、サイト上に公開したことは、不適切であったと言わざるを得ない」という評価がされた。



さらに、他の園児2人の保護者に報告しないことについては、「今回の調査において合理的な説明がなされたとはいえず、かかる対応が適切であったか疑念が残る」とも指摘された。





この指摘を受け、園はようやく他の園児2人の保護者に報告と謝罪、園全体への報告もおこなった。ただ、代理人弁護士を通じた不誠実な対応は続いており、女性は今も和解に至っていない。行政や園に対して、個人で訴え続けている女性は、今回の件についてこう話す。



「区や都の保育園を管轄する課にも相談をしましたが、『指導する立場にない』と積極的な介入や調査がなされませんでした。園に対する強制力を持った指導やペナルティがない状態なので、保護者に何か言われても流しておけばいい、と園側が優位になってしまっていると感じます」



●相談する場所はどこ?

子どもを預ける保育施設でトラブルや気がかりなことがあった場合、どこに相談すれば良いのか。



「保育を考える全国弁護士ネットワーク」の藤井豊弁護士は「基本的には園に相談することになるが、日常的に虐待等がおこなわれているようなケースでは、いきなり行政等の外部に相談するほうが良いこともある。ただ、トラブルが園内で解決できるものかどうかの見極めはなかなか難しい」と話す。



自治体が運営する保育施設であれば、そこで働く保育士・保育教諭などは公務員であり、行政が保育現場に直接指示ができ、懲戒処分の対象にもできる。一方、私立の場合、自治体は経営母体の社会福祉法人(民間企業)等に対して間接的に指導する形になる。



藤井弁護士は「運営法人がしっかりしていれば一定の解決までは望めるが、そこが機能していないと、行政が強く介入しない限りなかなか園の状況は変わらない。行政側の関与を強められる仕組みがあっても良いかもしれないが、それをするためには行政側のマンパワーが必要になる」と説明する。



●横浜市は専用窓口を設置

子どもの人格を尊重せず、乱暴したり罰を与えたりする「不適切保育」が全国で問題になっている。そんな中、横浜市は今年4月から、園児の保護者や職員がより相談しやすいように、専用窓口を設置した。



これまでも区役所などで随時相談を受け付けていたが、相談ダイヤルの実績がある外部の専用業者による聞き取りをおこなう。内容に応じて、市は弁護士の助言を受け、運営施設の調査や指導をするという。



不適切保育に関する専用相談窓口フロー図
(https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/hoiku-yoji/shisetsu/hoikusyotoiawase.html)



4月から8月上旬までに累計100件の相談が寄せられており、「不適切保育」に当てはまるものは4分の1程度だという。横浜市の担当者は「不適切な保育について見聞きしたものの、施設に言うのも違う気がするし、どこに相談したらいいのかわからないというときに活用してもらえたら」と話している。



行政が不適切保育についての専用窓口を設ける事例はまだ少ないという。横浜市の取り組みについて、藤井弁護士は「保護者や職員が、どこに相談に行けば良いのかはっきりわかる。実際にどこまで機能するのかという問題はあるが、園との関係でも抑止力になるのではないか」と評価している。