タワーマンションのウリと言えば、窓の外に広がる景色だ。しかし都会の絶景を楽しめるのは上層階だけで、低層階では近隣の建物が並ぶ何の変哲もない光景を見ることになる。それでも憧れのタワマンに住めることに変わりないと喜んで入居したものの、見えたのがまさかのお墓だったら、どんな気分になるのか。都内在住の男性は42歳の厄年に購入したタワマンで、目下「お墓ビュー」を味わっている。(取材・文=広中務)
ビルとビルの隙間に見えるお墓
タワマンに入居したら「お墓ビュー」だった……という話を聞いて、まず考えたのは、この男性は購入前に気づかなかったのかということである。
「新築だったので、入居するまではまったくわかりませんでした」
男性はそう言うものの、マンションを決める前に近隣を歩いて見て回り、環境を確認するのは必須であろう。近所に墓地があれば気づきそうなものだが……。
「確かに敷地内に古い墓地を持つ寺がいくつかある地域です。とは言え、マンション周辺に寺があるわけではないので、お墓ビューになるとはまったく予想もしていませんでした」
男性によると、タワマンの周囲は最高でも8階建てのマンションやビルだという。男性の部屋は7階。バルコニーからはそれらのビルが見えると考えていた。ところが、いざ入居してバルコニーに立ってみると、予想とは違っていた。
「確かにメインはビルなのですが、ちょうどビルの隙間になっている部分があって区画の先まで見通せるようになっているんです。そこにちょうどお墓が見えていたんです」
いささかわかりにくいが、バルコニーに出てみるとまず目に飛びこんでくるのが、ビルとビルの隙間に見えるお墓ということだ。まったく意図しなかった「お墓ビュー」である。
「絶妙な角度で、自分の部屋だけがお墓ビューのベストポイントになっていたんです。目の前がお墓だったならともかく、これでは文句も言えません」
それでも、男性はさほど気にしていなかった。
「だって、目の前がお墓ならともかく、少し離れたところですからね。それに、後から知ったのですが江戸時代の墓石も残る古い墓地だそうで『鬼平犯科帳』とか好きなので、歴史があっていい土地だな~と感動しましたよ」
外干しを嫌がる妻、乾燥機利用で電気代が嵩む
ところが男性の妻はそうではなかった。
「妻は低層階とは言え、タワマンに住めることを非常に喜んでいました。それに7階だったら、外に洗濯物も干せるので安心だと。ところが、洗濯をするたびに向こうに見える墓地がどうしても気になってしまったようで、外干しをやめてしまいました。自分はお墓ビューを結構気に入っていたんですが、妻は真逆だったということです」
その後、妻からの要望で乾燥機の機能が強力なドラム式洗濯機を購入したという男性だが、ここで再び災難に遭っているという。
「乾燥機ばかり使うので、ただでさえ高くなっている電気代は増える一方です。それに、どんなに優秀な乾燥機能でも衣類が傷むのは早くなりますよね」
さすがに電気代の高さに驚いたのか、男性の妻は今後の解決策を模索中だという。
「この夏はバルコニーで朝顔を育てて墓地のビューを隠そうとしていました。そこまでしなくても……と思うんですが」
そんなにお墓は気になるものか。こればかりは、住んでみないとわからない。