2023年09月16日 09:11 弁護士ドットコム
高齢者を狙う悪質な訪問買取業者が横行している。平日の午前10時ごろ、神奈川県の一軒家に一人で住む90代のカズコさん宅に「庭にあるハサミやナタは不要ですよね?」と若いサラリーマン風の男性が訪ねてきたという。
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カズコさんも置いていたこと自体を忘れていた。無料で持っていってもらえるなら…と頼むと、男性たちは「昔のコインなど他にも不要なものがあったら持っていくので、夕方また取りに来ますね!」と立ち去った。
彼らが残していったチラシには買取業者の社名、住所、古物商許可番号が書かれていたが、その後家族が調べたところ、ホームページは存在せず、住所はレンタルオフィス、許可番号リストにもその社名はなかった。
不用品買取を名乗って、高齢者宅から「お宝」をいっさいがっさい持っていく目的だった可能性がある。国民生活センターによると、2019~2022年度は5000~6000件の同様の相談が寄せられている。
法的な問題はないのだろうか?売ってしまった場合の対処法は? 消費者被害に詳しい今泉将史弁護士に聞いた。
ーー業者の狙いは何でしょうか?
業者の狙いは、高齢者宅の「庭にあるハサミやナタ」ではなく、高齢者宅にある貴金属等の廉価での買取りなどにあると思います。
ーー鉄屑の無料引取りだったとしても、アポ無しの訪問買取は違法になりますか?
無料での引取りだけを目的とした訪問の場合は、「訪問購入」の適用対象とはなりませんが、実際のケースでは不用品の無料引取りを装って訪問し、その後に別の物品の買取を求めてくることがあります。その場合、当該別の物品の買取に関する勧誘を要請していないことから、特定商取引法に違反するといえます(同法第58条1項)。
ーー庭や物置に勝手に入って不用品を持っていく行為は、不法侵入にならないのでしょうか?
庭や物置は、住居侵入罪(刑法130条前段)の客体となりますので、管理者の意思に反して立ち入れば同罪が成立することになります。
ーーアポ無し訪問や、売ってしまった場合の対処法を教えてください。
訪問してくる業者に対しては、明確に断ることが必要です。断ったにもかかわらず、しつこく居座る場合には、警察へ通報しましょう。
売ってしまった場合でも、クーリングオフができる可能性があります。通知の書き方等がわからない場合には、最寄りの消費生活センターに相談してください。
なお、不用品の処分は市区町村が行なっていますので、基本的には市区町村が定める手続きに従って行うことをおすすめします。
ーー自宅を訪問して不動産を売らせる「押し買い」商法も、関東地方を中心に広がっていると聞きます。対策はないのでしょうか?
現在の法制度のもとでは、ひとたび不動産を売却する契約を締結してしまうと、手付の倍返しあるいは違約金等の一定の経済的な負担をしなければ、原則として当該契約を取消すことができません。登記まで移転してしまうと、そもそも解約自体が困難となり、自宅等の不動産を取り戻すことができなくなります。
また近時では「リースバック」といって、自宅を売却するものの、その後は毎月賃料を支払う必要があるものの、それまでと同様に自宅に住み続けることができるサービスが広がっています。このサービスを利用する際には、売買契約の内容とともに賃貸借契約の内容も慎重に吟味しなければ、たとえば数年で自宅からの退去を要請されるなどの思わぬ被害にあってしまう可能性があります。
所有不動産、特にご自宅を売却することは慎重になるべきです。業者の訪問当日あるいはそれに近接した日に契約を締結することは避けましょう。また当該売買契約を行うか否かについては、ご親族や弁護士等の専門家に相談することを強くおすすめします。
ーーカズコさん宅には、その後、入れかわり立ちかわり別の人間が訪問してきたといいます。強盗の下見などの犯罪の可能性はないのでしょうか?
その可能性もないとはいえません。
近時、事前に下見を行なったうえで空き巣や強盗に及ぶ犯罪グループが摘発されており、同種の犯罪のおそれがあり得ます。戸締まり、鍵掛け等の基本的な対策のほか、不審者をみかけたら通報するなどの対応が必要だと思います。
【取材協力弁護士】
今泉 将史(いまいずみ・まさし)弁護士
立教大、上智大法科大学院卒。岐阜県での修習経験を機に消費者問題に取り組む。2013年、弁護士登録。東京投資被害弁護士研究会に所属し投資被害をはじめとする消費者問題全般に力を入れている。現在、第二東京弁護士会消費者問題対策委員会の法律相談・消費者法部会部会長。
事務所名:リンク総合法律事務所
事務所URL:http://linklaw.jp/