2023年09月12日 10:11 弁護士ドットコム
依頼者トラブルを抱えた弁護士のサポートなど「士業レスキュー」に取り組む伊藤諭弁護士(神奈川県弁護士会)がこのほど、新著『懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得』(共著・北周士弁護士)を上梓した。
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最悪、資格を失うこともある懲戒制度は弁護士にとって不安の種。しかも量定は懲戒委員会の広い裁量に委ねられている。近年は処分が重くなっていると感じる弁護士も多いのではないだろうか。
しかし、「過去の懲戒事例をまとめた本はあっても、いざ懲戒請求されたとき、どう対応すべきかについて書かれた本は見当たりませんでした」と伊藤弁護士。
「懲戒処分は懲戒委員会の議決に基づいてすぐに効力が発生するにもかかわらず、手続き保障は十分ではなく、普段の訴訟のように思っていると足元をすくわれます。現に懲戒請求をされて悩んでいる弁護士に向けて書きました」とアピールする。
執筆のきっかけの1つは、過酷な懲戒請求を受けた弁護士をサポートしたことだったという。
その弁護士は、事務所のボス弁から数年にわたり、暴行や暴言などのパワハラを受けていた。知り合いだった伊藤弁護士らの支援もあり、なんとか退所したものの、元ボス弁はその弁護士に対して損害賠償請求訴訟を提起し、ほぼ時期を同じくして元依頼者から10件以上の懲戒請求が届くようになったという。
懲戒請求の多くは共同受任の代理人がいたにもかかわらず当該弁護士1人のみを対象にする不自然な内容だったそうだ。しかし、見るからにあやしい懲戒請求でも、「非行」について書かれている以上、綱紀委員会としては一件一件中身をチェックしなくてはならない。
「すべて懲戒不相当に終わりましたが、代理人の高木亮二弁護士らが弁明書作成などの対応に追われていました。仮に本人だけで対応していたら作業負担的にも精神的にも無理だったと思います」
伊藤弁護士は、高木弁護士とともに元ボス弁相手の民事訴訟で代理人を務めていた。元ボス弁は関連事件で刑事裁判にもかけられており、9月に判決が予定されている。
こうした経験から伊藤弁護士は2021年5月、トラブルに巻き込まれた弁護士らを支援する「士業サポート」をスタート。懲戒請求や依頼者とのトラブルなどについて想像以上の相談数があったという。
「身近な人には話しづらい内容もあるので、知らない人のほうが相談しやすいんでしょうね。懲戒請求にしても、他人の意見が入ったほうが冷静に対処しやすい。みなさん、異口同音に『弁護士のありがたみが分かりました』とおっしゃいます」
誰か弁護士に相談すること、場合によっては代理人になってもらうこと、は本書でも取り上げた対応策の1つ。他人にはうまくアドバイスできても、いざ自身が当事者になったとき、適切にふるまえるとは限らない。
「当然、弁護士側に非があるケースもありますが、事案の重大性以上にへりくだった態度をとってしまったり、自身が他人を弁護するときにはとらないような対応をとってしまったりーー。単位会の懲戒委員会に4年いましたが、誰かに相談していたら違う結果になっていたかもしれない、と感じるケースは少なくありませんでした」
本書では、士業レスキューでのノウハウも踏まえ、依頼者や相手方、第三者、弁護士会と懲戒請求ごとに、答弁書のサンプル書式も付して、対応法などをまとめている。