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安倍氏国葬の日に「ウエディング撮影」「辺野古座り込み」 “あの日の日常”を撮った大島監督の意図

2023年09月10日 07:51  弁護士ドットコム

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2022年9月27日に何があったか、どれほどの日本国民が記憶しているだろうか。


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その日、安倍晋三元首相の国葬が東京の日本武道館で執り行われた。国葬は、国に特別な功労があった人物の死去に際し、国費で実施される。戦後日本における首相経験者の国葬は、吉田茂氏以来2人目だった。



各報道機関が実施した世論調査(2022年9月)ではいずれも反対が半数を超える結果だった安倍氏の国葬そのものではなく、「国葬のあった9月27日」にスポットを当てた映画『国葬の日』が2023年9月16日から順次公開される。



監督は、衆議院議員・小川淳也氏の17年を追った「なぜ君は総理大臣になれないのか」、第49回衆議院選挙を与野党両陣営の視点から捉えた「香川1区」で注目を集めた大島新さん。「みなさんがモヤッとする作品になりましたね」と苦笑する。



全国10都市に取材班を送り出し、国葬当日の人々と声を記録したドキュメンタリーをなぜ制作しようとしたのか。大島さんに話を聞いた。(ライター・小泉カツミ)



●「非常に日本人的な声が多かった」



取材班は赴いた10都市で、カメラを様々な人々に向けた。



北海道・札幌の木立の中でウエディング写真を撮る家族
福島・南相馬市で原発から20キロ圏のすぐそばで暮らす女性
沖縄・辺野古で新基地建設に抵抗し、座り込みをする人たち



大島さんは東京での撮影を担当した。各地のスタッフが撮影してきた膨大な映像を見た感想について「予想はしていたけど、非常に日本人的な声が多かったなと強く思いましたね」と話す。



「賛成・反対、安倍さん支持・不支持のばらつき、確固たる意見を持って賛成・反対を言う人もいましたが、『どっちつかず』の人が多くて驚きました。そのあいまいさに日本人の気質が現れているんだなと思いましたね。つまり、周りの人の顔色をうかがっているような、同調的な日本人の姿が現れていました」



●根底にあった思い「日本人って何だろう?」



大島さんの過去の作品では、メインの被写体を追いかけて、そこに監督自身が介入していくスタイルが多かった。



「今回の映画にはストーリーがありませんからね。(ネガティブな感情を開放するような)カタルシスはあまり感じられないことがわかっていました。たった1日でただただスケッチしようという企画でした」



監督自身で印象に残った証言は何だったのか。



「奈良の大学生ですね。安倍さんに向けた熱い思いを切々と語るんです。スマホを取り出して、安倍さんとのツーショットを見せてくれて。こちらをまっすぐ見て、安倍さんへの思慕を語る彼の言葉に、正直たじろぎ、衝撃を受けました」



「(国葬に)反対するなら昨日まで。いざ始まってからでは反対したらみっともない」と言う長崎の男性。「物価も上がっていてロシアとウクライナは戦争をしている。そんな時に税金を使う国葬なんていらないじゃないか」とつぶやく南相馬の女性も印象的だったという。



作品のタイトルを『国葬の日』としたのには、理由があった。



「この作品のテーマは『国葬』ではなく『その日の日常と日本人の意識』なんです。国葬があった1日を切り取りたかった。だから、新宿の喫煙所や上野のパチンコ屋の朝の行列、台風による水害に見舞われた清水市の高校生ボランティアと住民とのやりとりなどを切り取ったんですね」



大島さんはなぜ「日本人の意識」について作品にしようと思ったのか。



「私は『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』を手がけて、日本の政治風土や社会のあり方に意識が傾いていきました。有権者を見ていてどんどん『日本人って何だろう?』と考えるようになっていった。安倍さんが亡くなるという出来事があって、その答えを解き明かしたいと思った。



でも、国葬で『映画を作る』ことには正直ピンとはこなかった。そんな時に、83歳の足立正生監督が銃撃犯(山上徹也被告人)をモデルにした映画を撮り、国葬の日に緊急上映するということが報じられたんです」



足立監督の映画「REVOLUTION+1」に非難が集まり、上映を決めていた劇場が抗議を受けて中止するという騒ぎが起きた。これがきっかけで「気持ちに火がついた」という。



「私はドキュメンタリーの作り手として何かできないか、と。そして国葬3日前の9月24日、『全国10カ所で国葬の日当日を撮影した映像だけで映画を作る』というアイデアが突然浮かびました」



●「安倍さんを支持していなかった人に観てもらいたい」

作品の中で話をしてくれたのは数十人だったが、大島さんはそれ以上のものを感じたと話す。



「背後にあるマジョリティを感じて正直ビビりました。若い世代の保守化とはよく言われますが、長崎の大学生の『仲のいい友達と議論して気まずくなりたくない』という言葉に、やっぱりそうなんだと思った。保守性、現状維持、安定志向は確かにありますね」



大島さんは完成版を見て「大変困惑した」という言葉をプレス資料に書いた。



「国葬前の世論調査は、賛成4割、反対6割でした。だから日本国内には『分断』があるのかなと思っていた。ところが、あったのは多くのあいまいな答えや『関心がない』という声でした。それにものすごく困惑し、安倍さん不支持の言葉がまったく届いていないことにも困惑しました。



この映画を本当に観てもらいたいのは、『安倍さんを支持していなかった人』なんです。そんな人たちに安倍さんへの熱い思いを切々と語った奈良の大学生を、そして現実を見て欲しいです」



【プロフィール】大島 新(おおしま あらた):1969年生まれ、神奈川県出身。ドキュメンタリー監督・プロデューサー。早稲田大学第一文学部を卒業後、フジテレビに入社し「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」といったドキュメンタリー番組のディレクターを務めた。退社後はフリーランスとして「情熱大陸」「課外授業 ようこそ先輩」などの演出を担当。2009年には映像製作会社ネツゲンを設立。監督作には第17回日本映画批評家大賞のドキュメンタリー作品賞を受賞した「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」、衆議院議員・小川淳也の17年を追った「なぜ君は総理大臣になれないのか」、第49回衆議院選を与野党両陣営の視点から捉えた「香川1区」など。父は映画監督の大島渚。