2023年09月09日 09:10 弁護士ドットコム
大手家具小売店「イケア・ジャパン」が、従業員の着替え時間に賃金を払っていなかったと報じられました。
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毎日新聞(8月28日付)によると、イケア・ジャパンは、従業員に対して、始業時は着替え後にタイムカードを打刻し、終業時も打刻してから着替えるよう求めていたとのことです。
制服の着替えにかかる時間は、労働時間なのでしょうか。これまで、弁護士ドットコムにも同様の相談が多く寄せられています。
「会社で制服の着用を義務付けられているものの、更衣室が遠く離れているため、1回の着替えに30分もかかるけれど、労働時間として計算されません。会社に請求することは可能でしょうか」
「アルバイトをしているが、制服に着替える時間は2分しかもらえない。実際には5分ほどかかるが、労働時間として扱ってもらえないのでしょうか」
働くために必要な制服への着替えですが、どのように扱うのが適切なのでしょうか。島田直行弁護士に聞きました。
——イケア・ジャパンは9月から着替え分の賃金も支払っているそうですが、そもそも、制服に着替える時間は、労働時間に含まれるのでしょうか?
今回の報道を受けて「やはり外資系企業はしっかりしている」という声を耳にしました。ですが、日本の労働法が適用される場面では、外資系企業かどうかは関係なく、すべての企業がルールに基づき賃金を支払う必要があります。
前提として、労働基準法には、"着替え時間が労働時間にあたるのか"について明記されていません。そこで「労働時間とはなにか」から紐解いてみましょう。
三菱重工業長崎造船所事件の最高裁判決(2000年)は、労働時間について「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義しました。そのうえで、労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などで決まるのではなく客観的に定まるものとしています。
この判断に基づけば、会社が制服の着用を義務付けている場合には、原則として着替え時間も労働時間となります。これは会社の事業規模に関係なく適用されるルールです。
——着替えの時間を労働時間に含める場合、気を付けることはありますか。
制服の着用に要する時間が、あまりにも人によって違うというのも不自然です。たとえば、同じ制服を着用するのにAさんは5分、Bさんは20分となれば、周囲からしても「なぜ」という不信感の火種にもなります。
会社としては、着替えに要する時間について社員とコンセンサスを取っておくべきでしょう。とくに特殊な制服で着用に時間を要する場合や、更衣室が離れているために移動時間も要する場合などは1つの基準をもっておくことで、労使双方の認識の相違を回避できるでしょう。
——会社が着替え時間を労働時間として扱ってくれない場合にはどうすればいいのでしょうか。
そのような場合には、労働審判や訴訟といった司法的救済手続を検討するのも1つです。ですが、着替えの問題はたいてい、職場全体に関わるものです。抜本的な問題解決を目指すのであれば、労働基準監督署への相談や、労働組合による団体交渉も有効な解決方法と言えるでしょう。
編集部注:弁護士ドットコムニュース編集部ではイケア・ジャパンに電話で取材を申し込んだが、広報担当者につないでもらえなかった。
【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/