2023年09月08日 10:30 弁護士ドットコム
ラーメン店で背脂多めで注文したら、会計時に追加料金として計上されていた——。ラーメン好きのインフルエンサーがSNSでそんな投稿をして話題となっている。
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X(旧ツイッター)での投稿によると、背脂が大好きな投稿者が「背脂多め出来ますか?」と店員に尋ねたら「出来ます」と言われたため、「多めでお願いします」と注文。その後食事中に店員が持ってきた勘定書(伝票)を見たところ、ラーメン代のほかに「背脂増しの料金」として100円が追加で計上されていたという。
「背脂多めって100円取るんですか?」と店側に問いただすと「はい!」と返された投稿者は、メニューに追加料金の表記がなく、注文時に確認もなかったとして「イラッときました」と不満をあらわにしていた。
これらの投稿を他店のラーメン店主が引用して、「注文したら加算されるのはおかしな事ではない」「注文の都度説明なんかしない」「なんでもかんでも記載するわけないだろ」と投稿者を批判。さらに店主に対する批判がSNS上で飛び交うなど“荒れ模様”となった。
インフルエンサーの件は「店側の落ち度という形で背脂分はサービス」となりトラブルまで発展しなかったようだが、仮に店側が本気で追加料金を請求した場合は支払いに応じないといけないのだろうか。自身も飲食店を経営する石崎冬貴弁護士に聞いた。
——メニュー表記がなく、注文時に口頭での説明もなかった場合、今回のような追加料金を支払う法的義務はあるのでしょうか。
かなり難しい問題だと思います。「暗黙の了解」という言葉もあるように、契約自体は黙示でも成立しますが、そのためには、「言わなくてもお互いに認識している」という前提が必要です。
たとえば、居酒屋の「お通し」などは、頼んでいなくても出て来ますし金額も明示されていませんが、代金が発生しますし、そのことに疑問を抱くことは通常ないはずです。もちろん、お通しは通常数百円程度でしょうから、それが1000円もしたら合意していたとは言えないと考えられます。
「背脂多め」というのが、一般的にどのような認識かといえば、確かに「無料サービス」という店も多くありますが、卓上のコショウやごまとは違いますから、必ずしもすべての店で同じように無料ではないと思います。
他方で、店側としても、仮に「有料だ」という認識を双方が持っていたとして、その金額について明示的に合意していなければ、「100円」という金額を果たして請求できるかは難しいところです。
——今回のようなケースで、店側としてはどのように対応・対策すればよいのでしょうか。
予防の観点で言えば、有料なもの・サービスに関しては必ず明示しておくべきでしょう。
今回の件も「有料なのは普通に考えれば分かるし、だいたい100円くらいだろう」というのではなく、誤解を招かないように「100円かかります」とはっきりと伝えればよかったと思います。
コロナ禍も落ち着き、人の流れも増えています。外国人観光客なども増える中で、飲食店としてはできる限りルールを明示しておくという姿勢がやはり重要だと思います。
【取材協力弁護士】
石崎 冬貴(いしざき・ふゆき)弁護士
東京弁護士会所属。一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会代表理事。自身でも焼肉店(新丸子「ホルモンマニア」)を経営しながら、飲食業界の法律問題を専門的に取り扱い、食品業界や飲食店を中心に顧問業務を行っている。著書に「なぜ、一年で飲食店はつぶれるのか」「飲食店の危機管理【対策マニュアル】BOOK」(いずれも旭屋出版)「飲食店経営のトラブル相談Q&A―基礎知識から具体的解決策まで」(民事法研究会)などがある。
事務所名:法律事務所フードロイヤーズ
事務所URL:https://food-lawyer.net/