2023年09月07日 21:01 弁護士ドットコム
故ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、ジャニーズ事務所は9月7日、都内で記者会見を開いた。9月5日の取締役会で、藤島ジュリー景子社長と白波瀬傑副社長が引責辞任し、東山紀之さんが新社長に就任した。その他の新体制については、10月1日に発表する。
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今後、被害者の救済をどのようにしておこなうかが焦点となるが、現時点では「提言にしたがって実行する」とし、具体的な内容や体制についてはこれから検討するとした。
東山さんは「法を超えて救済、補償が必要だと思っている。時間を区切るということはない。大変に長い道のりになる」と覚悟を語った。
ジャニー氏の性嗜好を知ったときの思いについては、「自分の根本であったものが、すべてなくなった思いでした。自分の人生の中でも、これほどの落胆はなかったですね。生きてる意味とか、そういうのも含めて、本当に考えました。こういう思いをさせないこと、それが大事なのかなと今は考えています」と打ち明けた。
東山さんは8月初頭、藤島さんから新社長の打診を受けた。その際、「二足のわらじは難しいと思うので、(引退する)その覚悟を持ってお願いできないか」と言われたという。
東山さんは「藤島が苦労しておりましたので、話を聞いて一晩考え、引き受けることを決めた」。年内を持って表舞台から引退する。
この決断について「やはり、悩みました。できるできないではなく、やるかやらないか。これは自分の運命だと思って、引き受けることにしました。人生を賭けてやろうかなという決断に至ったわけです」と語った。
今回の問題について、藤島さんは「当時のジュニアのみなさんと経営陣との間に溝があったことも大きな原因の一つだった」と振り返り、「長くジャニーズ事務所に所属してタレントの気持ちがわかる人が立つ方が、みんなとの溝を作らないという意味で重要ではないかと思い、東山に依頼いたしました」と話した。
ジャニー氏の性加害の噂を知りながらも、事務所内で調査などをしてこなかった背景についても語られた。
藤島さんは、直接被害について聞いたことはなかったというが、暴露本や雑誌で特集が組まれていたことは知っていたという。「当時、確かめなかったところが私の責任であり、罪悪感がないなんてことはまったくない」と繰り返し謝罪した。
「親族であっても物を申せなかったということが、弊社の歪なところだった。親族だからこそ、もっとできることがあったのではないかというのは、もちろん反省しておりますが、当時は何もできなかったです。
当時は、そのことについて、自分の行動を起こすということが、考えられなかったです。申し訳なかったと思います。ジャニーが亡くなっている中で、どのように調査すればいいかわからなかった」(藤島さん)
東山さんも同様に「喜多川氏に物申すことはあの時代では難しかったなと思います」と振り返った。
「私自身は被害を受けたことがなく、被害を受けている現場に立ち会ったこともなく、先輩たちからも後輩たちからも相談もなかったので、噂という認識はありましたけど、自ら行動することはできずにいました」(東山氏)
井ノ原快彦さんはジュニア同士で「そうなのかなあ」「そうなったら(加害されたら)どうしよう」と噂はしていたものの、「小学生か中学生くらいでしたから、デビューしたいとかそういう気持ちのほうが強かった。言い訳になるかもしれませんけど、なんだか得体の知れない、それには触れてはいけない空気というのはありました」と話した。
報告書ではジャニー氏の"絶対的な強い立場"が指摘されたが、東山さんは「喜多川氏と藤島氏の絶対的な存在、僕らはそれを正しいと信じておりました」と振り返る。
「今となっては恥じておりますが、エンターテイメントの世界で絶対的な存在、下の者たちはそれを信じ、行動していかなければいけない状況下にあった。それが被害の拡大を生んだのではないか」(東山さん)
現時点でのジャニー氏に対する思いを問われると、東山さんも井ノ原さんも厳しい姿勢を見せた。
東山さんは「やっていることは鬼畜の所業。今は愛情はほとんどありません」と断じた。今伝えたいことについても「かける言葉はありません」と述べた。
井ノ原さんは今の思いを問われると、「なんて事してくれたんだと思っています。いい加減にしてほしいです」。
「ジャニーさんを崇めるのではなく、どこかジャニーさんだったらどうしただろうかという思いってみんなの中にあったと思うんです。だけどジャニーさんだったらどうしただろうか、と考えることが一番危険だと思います。自分が信じていること、培ってきたこと、周りに何人も信頼できる人たちをおいて、同じ思いはさせたくない」(井ノ原さん)
藤島さんは「みなさんの前で謝罪してほしい」と述べた。
東山さんは「被害者の方々の救済、補償、それを誠心誠意取り組ませていただくこと、それこそが、すべての出発点」と話した。補償の状況については、なんらかのかたちで公表する予定だ。
東山さんは「実際、何ができるのか探っているのは事実」としたうえで、「みんなで一歩を踏み出し、歩み始めなければ何もスタートできない。そこで初めて見えることもある。それをみんなで探しながら、探りながら、まずは踏み出していきたいと考えております」とした。
報告書では、ジャニー氏以外にも事務所の社員による性加害があると確認された。藤島さんは「性加害はあってはなりませんので、厳しく対応する、それ以外に方法はないと思います」とコメント。
事務所の代理人をつとめる木目田裕弁護士は「スタッフの言われている疑惑、被害の申告があれば、当然事務所として調査し、対応してまいります。別途、第三者委員会を作ることは考えていないが、自分の手で厳しく対応しなければならないと考えております」と話した。
東山さん自身が後輩に対して、性的なものを含むハラスメント行為をおこなっていたという疑惑についても、繰り返し質問が出た。
当初、性加害について「僕はしたことがないです」と断言し、冗談やいたずらについても「したことがないです」「その本を読んでいないのできちっとはわかりませんが、事実ではないと思っています」とコメントしていた。
しかし、その後「覚えてないことも本当に多くて、多分いろんなことやってるんだと思います。向こうはよく覚えていて、したかもしれないし、してないかもしれない」と表現を変えた。
新社長としての資質を問われると、「僕に資格があるかどうかは、これからみなさんに判断していただければいいと思います。大事なのはこれからだと思っています。まずは向き合うこと。そして踏み出すことが大事だと思います」と生涯かけて救済に取り組む姿勢を示した。
東山さんは「過去は変えられない。裏切られたと思っているファンの方々もたくさんいると思います。その信頼を勝ち取るというのは至難の業だと思っています」と述べ、何をすべきかについて以下のように語った。
「僕らが作るエンターテイメントの世界を信じていただくために、やはりタレント一人ひとりが自覚を持って取り組んでいくというのは最終的には近道かなと思いますし、その信頼を勝ち取るのは、個人の力、グループの力、そういうものが合わさって初めて結実すると思いますので、まずは努力を続けること、信頼を取り戻すこと、それしかない」(東山さん)
藤島さんは「まったく変わらずタレントを応援してくださっているファンのみなさまには、本当に感謝の気持ちしかございません」と気持ちを述べた。
そして「ご理解いただきたいのは、みんながそういうこと(性加害)があってスターになっているわけではなく、一人ずつのタレントが本当に努力して、そしてそれぞれの地位を勝ち取っているので、そこだけは失望していただきたくないですし、誤解もしていただきたくないですし、安心してこれからも応援してやっていただきたいと心から思います」と声を詰まらせながら訴えた。