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入居希望者が殺到!大人気の「猫専用アパート」仕掛け人に聞いた“誕生秘話”と猫ファーストな工夫

2023年09月06日 07:40  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

木津さんプロデュースのアパートでは、猫たちがのびのびと暮らす(写真提供/木津イチロウさん)

 週刊女性にて好評連載中の漫画『ハイツ祐天寺へようこそ』(画:柏屋コッコ/原作:小林のえ)は、東京の祐天寺が舞台。その街にリアル「ハイツ祐天寺」ともいえる、猫と共生できる賃貸アパートがあるという情報をキャッチ! 

 バラエティー番組『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系)でも話題になったアパートで、つくったのはGatos Apartment代表で猫専用賃貸プロデューサーの木津イチロウさん。一体どんなアパートなのか、お話を伺った。

1匹の野良猫との出会いで人生が激変

「もともとは普通のサラリーマンだったんです。でも2008年、1匹の野良猫と出会ったことで人生が変わりました。当時妻と住んでいた東京都内の賃貸物件の庭に野良猫が来て、チーと名づけて可愛がっていたのですが、ある日、目がふさがっている子猫を連れてきちゃいまして」

 木津さんは子猫を病院に連れていき、ウーと名づけて、母子ともに一時的に保護することにした。しかし1か月後、さらに木津さんを慌てさせる出来事が発生する。

「妻の呼び声で駆けつけたら、チーが3匹の子猫を産んでいた。当時の僕たちは無知で、猫が年に平均3回、1回につき平均6匹も出産するなんてまったく知らなかったんです」

 かくして計5匹の猫を抱えることになってしまった木津さん。住んでいたのはペット不可の物件だったこともあり、良心の呵責を感じてペット可賃貸への引っ越しを決意。しかし、猫と暮らせる希望どおりの物件はまったく見つからなかった。

「途方に暮れていたところ、不動産屋さんから『ペット共生型物件が見つかった』との連絡が届きました」

 あまり聞き慣れない言葉だが、「ペット共生型物件」とは単なるペット可物件とは異なり、人とペットが共に暮らしやすい工夫がなされた物件のこと。『ハイツ祐天寺へようこそ』に出てくる「ハイツ祐天寺」もそうで、脱走防止柵、防音設備、ペットドア、出窓など、建物の随所に工夫が凝らしてあるという設定だ。

「そのとき初めてそういう物件があることを知りました。でも、当時僕が見に行ったペット共生型物件は完全に犬向けのもので。犬と猫ってまったく違う生き物で、それぞれ必要なものも異なりますよね」

 そして、木津さんは決意する。「ないなら、自分でつくってしまえばいい!」と。しかも自分たちだけでなく、他の人も住める住まいにしようと。

「僕たちだけでなく、他にも困っている人は絶対にいて、つくったら喜んでくれると思ったんです。そして家賃収入も入ってくれば、それは事業になるなと。でもある意味、猫たちに人生を狂わされて、住宅を建てるための借金を背負わされることになったともいえるんですけどね(笑)」

猫たちを救うため「ノラネコ割」を考案

 それからの木津さんは、日中はサラリーマンの仕事をこなしながら理想の土地を探し続けた。1年半後、ようやく運命の土地を発見。なんとそこは、木津さんが住んでいる賃貸のすぐ近く。売主さんも猫好きとあり、とんとん拍子に話は進んだ。

 建物については、世界初の猫専用というコンセプトが面白かったのか50組近い建築会社から応募が殺到。その中の1社と打ち合わせを重ね、2011年、最初の物件である『Gatos Apartment』が竣工した。

「おかげさまで入居者もすぐに決まって。このときは、これまでやってきたことは必要とされることだったとわかって本当にうれしかったですね」

 その後は全国から見学希望者や問い合わせが相次ぎ、木津さんは会社を辞め、猫専用賃貸アパートのプロデューサーに転身。猫のための物件を次々とプロデュースしていくこととなった。

「僕が手がける物件は、まずは完全室内飼いと複頭飼いが大前提。猫のためというとキャットウォークさえ作ればいいと考える人も多いですが、実は猫にとって大事なのは上下の動きなんです。あと日当たりがよく、外の景色が見られる窓があり、風通しがよいことも大切ですね。トイレも複数置けるスペースを洗面所にしっかり取っています」

 そして木津さんが何より大事にしているのは、猫にとって安全な環境であるということ。とにかく猫を脱走させない。2階以上の場合は落下防止に気を配る。柵はすべて猫が上れないよう高く、幅が狭い縦組みにし、外の柵の先にはL字型の猫返しをつける念の入れようだ。そのようにさまざまな配慮がし尽くされた物件は猫好きの間ですぐに評判となり、物件の完成お披露目会には朝から内見希望者の行列ができてすぐに成約する盛況ぶりだという。

 祐天寺のアパート『Necolat』は、そんな木津さんが6棟目にプロデュースした物件。シックな外観が祐天寺の街によくなじんでいる。部屋は基本40平方メートル以上の1LDKで、賃料は15万円~だ。

「縁あって祐天寺の物件が6棟目となりましたが、すごくいい街ですよね。都心なのに下町感とおしゃれ感がほどよくミックスしてて」

 ちなみに漫画には、捨てられて野良になった猫を保護する話が出てくるが、木津さんの物件にも保護猫を迎えると1匹につき5000円キャッシュバックされる「ノラネコ割」という制度がある。

「この仕事を始めてから猫が置かれている状況にも詳しくなりました。今、飼い猫はどんどん長生きするようになって、20年以上生きる猫も珍しくありません。となると、人間もある程度若くないと猫を飼い始めることができない。でも20代、30代の人は飼おうと思っても飼えないことが多いんです。その理由は断トツで『住んでいる部屋がペット不可だから』です」

 中にはペット可物件もあるが、その多くは犬猫1匹までで、オーナー側は「ペットショップで犬を1匹買う入居者」をイメージしていることが多いのだそう。だが猫の場合は、拾うなどして突然飼うことになってしまう人も多く、さらにそのうちの6割は親子猫や兄弟猫を保護して複数頭抱えることになり、ペット可物件といえども入居できないことも多いのが現実だ。

「そうやって人間側の条件が整わないまま、死んでしまう野良猫もとても多い。なので特に若い人に、猫が複数頭飼える賃貸で保護猫を迎えられることを知ってほしく、ノラネコ割を設けています」

 今年6月、そんな仕事ぶりと愛猫家ぶりが注目され、木津さんは『坂上どうぶつ王国』で「世界初の猫専用賃貸アパートをつくった人」として取り上げられた。反響は?

「視聴した猫好きの方から『うちの土地を好きに使ってほしい』とお申し出をいただきました。関心を持っていただけてありがたいことです」

 最後に、猫と今後の仕事への思いを伺った。

「ウーは死んでしまいましたが、きっかけをつくってくれたチーは18歳になりました。少しボケてはきましたけれども、今も大切な家族です。今後は全国に1棟でも多く人が猫と暮らせる物件ができて、できればそのお手伝いをさせていただき、不幸な猫を1匹でも減らしたいですね」

 人と猫が共に幸せになれる環境が、これからも誕生しそうだ。

お話しを伺ったのは……木津イチロウさん●Gatos Apartment代表。1971年東京都生まれ。大手企業のサラリーマンだったが、野良猫のチーとの出会いがきっかけで2011年、世界初の猫専用賃貸「Gatos Apartment」を東京・杉並区に竣工。以降、猫専用賃貸プロデューサー、コンサルタントとして活躍中。


gatos-apartment.com

(取材・文/小林延江)