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"古い"技術が災害時に最も新しい - 通信事業者とラジオ局が協定する理由

2023年09月05日 09:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
○情報をいち早く届けるために



8月23日、NTT東日本 神奈川事業部はラジオ日本と「災害時等における情報発信連携に関する協定」を結び、協定締結のセレモニーを開催した。


情報通信が生活に欠かせないインフラとなった現在、災害や事故などで通信障害が発生した際に、その詳細や復旧状況を知らせることは、安全を確保する上で極めて重要である。



本協定は、NTT東日本がラジオ日本と連携することにより、該当地域に素早く情報を知らせることを目的としている。



具体的には、通信サービスの障害状況や復旧見込み、災害伝言ダイヤル(171)や特設公衆電話の運用について、料金減免の対象エリアと申請方法、故障状況診断(Web113)利用方法などの情報がNTT東日本から提供され、ラジオ日本の臨時ニュースや災害情報などを通じて周知される。



こうした情報は、NTT東日本のWebサイトやSNSなどでも広報されてきたが、「専門的でわかりにくい」「速報性に欠ける」といった点が指摘されてきた。



そこで、NTT東日本 神奈川事業部からの声がけにより、該当地域に分かりやすく情報を伝えられるメディアとして、ラジオ日本と連携する運びとなった。



NTT東日本 執行役員 神奈川事業部長 兼 神奈川支店長 関内関外街づくり推進部長 相原朋子氏は、協定締結の意義を次のように語る。



「我々の責務は、通信事業者としてインフラ環境を良好に維持することです。そして災害や事故が起きてしまった場合は、速やかな復旧に努めることはもちろんのこと、その状況を素早く伝えなければなりません。本協定により、ラジオという災害に強いメディアで案内できるようになったことを嬉しく思います。協定を通じて、災害時だけでなく平時でも安心・安全なまちづくりに貢献して参ります」


○日本の災害文化とラジオの役割



相原氏が言うように、「災害時にはラジオが役立つ」と知っている日本人は多い。災害大国であるこの国において、ラジオの重要性は100年前から知られていた。



今を遡ること100年前の1923年9月1日。神奈川県の相模湾北西部を震源とする地震は、関東地方に甚大な被害をもたらした。関東大震災である。



当時の主要メディアであった新聞は、社屋が軒並み壊滅したため、発行・配達もままならない。このとき活躍したのが、当時最新のICTである「無線」である。



無線電波を通じて関西圏や諸外国に被害情報が伝えられた結果、支援が早急におこなわれた。無線の有効性を認識した政府は、震災発生の2年後、1925年に東京放送局(現・NHKラジオ第一)を開設し、ラジオの本格放送を始める。



その後、幾度とない災害に襲われた日本では、ラジオの重要性は常識となっていった。テレビやインターネットが普及した現在でも、それは変わらない。2018年に発生した北海道地震においても、「地震に関連する情報を得るのに利用したメディア」としては、ラジオという回答が多数を占めている。


なぜ災害時にはラジオなのか。

大きな理由は、受信にほとんど電気を消費しないため、停電時でも情報を入手可能なことだ。スマホは1日程度で使えなくなってしまうが、ラジオならば1週間は保つ。



また、アナウンサーが読み上げてくれるので、受信機が1台あれば複数人に情報が伝わる。そして、地域性が高いため被災地へ細かい情報を提供することができる。



ラジオ日本においても、こうしたラジオの特性を強く意識して運営されている。



「私たちラジオ日本は、1958年の開局時からさまざまな情報を届けてきました。横浜に本社を置くラジオ局として、ライフライン情報を含む正確な情報を地域住民の皆様に伝え続けることが、私たちの使命です」(アール・エフ・ラジオ日本 常務取締役 西村泰男氏)


○平時から防災に大切なことを学ぶ



本協定では、災害時の情報連携の他に「安心・安全なまちづくりに向けた平時の連携」も強調された。実際、両社は平時における防災の啓蒙・教育活動にも力を入れている。



2023年9月2~3日には、ラジオ日本と横浜市主催の「横浜防災フェア」が開催。消防局による救助訓練のデモンストレーションや、専門家によるトークショー、さらには「地震体験」などのブースが設置され、遊びながら学べるイベントだ。本イベントにはNTT東日本も協賛している。



そしてNTT東日本 神奈川事業部が東日本大震災以降、毎年実施しているのが、「公衆電話の体験会」だ。


災害時には固定電話や携帯電話の利用が跳ね上がるため、うまくかからない場合がある。しかし公衆電話は「災害時優先電話」であるため利用制限がなく、停電時でも交換局から電気が供給されるため、硬貨があれば利用できる。



しかし、携帯電話・スマートフォンを持つことが当たり前になった今、公衆電話の使い方を知らない子どもたちが大多数だ。



そこでNTT東日本神奈川事業部では、幼稚園や小学校、学童施設に本物の公衆電話を持っていき、電話のかけ方や災害用伝言ダイヤル(171)の使い方をレクチャーしている。


講師を務めるNTT東日本 神奈川事業部 の辻忠男氏は、体験会の様子をこう話す。



「最近のゲーム機やスマホとは操作感が違うせいか、中にはなかなかボタンが押せずに苦戦する子どももいます。それだけに、電話が鳴ったときには歓声が上がりますね。体験会の中では『子ども手帳』を渡して、スマホが使えなくなってしまった時のために、自宅やお父さんお母さんの電話番号を思い出せるようにしておこうと伝えています」


ラジオと公衆電話。いずれも古い技術ではあるが、だからこそ、災害時のようにインフラが寸断されてしまう状況下では力を発揮する。激甚災害がますます増えていくだろう日本社会において、その存在を忘れてはならない。



瀬戸義章 1983年5月16日生まれ。神奈川県出身。物流会社で新規事業のマーケティングを担当後、フリーランスに。ITにより途上国の防災力を強化する国際支援活動も展開している。著書に『「ゴミ」を知れば経済が分かる』(PHP出版) この著者の記事一覧はこちら(瀬戸義章)