50歳近くなると誰もが不安になるのが、老いてゆく親のことだ。もしも離れて暮らす親が要介護となれば、時間もお金も負担は大きくなる。
その後、亡くなって葬式となれば、これまた平均費用は200万円近くになるという。両親併せて400万円。いま、50歳を迎えようとする就職氷河期世代に、おいそれと出せる金額ではない。都内在住の40代男性は、常に不安が尽きないという。なにしろ兄弟全員、就職氷河期世代なのだから。(取材・文=広中務)
自分だけ小市民的な人生が成功しているが\
中部地方出身の男性は、現在48歳。三人兄弟の次男で、兄は51歳、妹は46歳だという。
「兄弟揃って、バブル景気が終わって不況に突入した時期に大学に入学、卒業しました。自分の同級生でもすんなりと正社員になれたヤツは少なかったですね」
まだ「日本が衰退する」なんて、誰も考えていなかった時代である。だが、都内の中堅大学に通っていた男性は危機感を持ち、熱心に就職活動に取り組んだという。
「自分は大してデキのよいほうじゃないと思っていたので、本気で就職活動しないと就職できない危機感がめちゃくちゃありましたね」
どうにかオフィス用品などを扱う大手企業の「子会社」に内定。その後、二度転職して現在は、やはりオフィス用品などを扱う会社の管理職を務めている。
「年収は600万円程度。どうにか結婚して、子供も出来たのですが、夫婦共働きで必死です」
そんな男性にとってやっかいなのが、兄と妹の存在である。二人は、大学を卒業後に非正規雇用のまま現在に至っているのである。
「兄は成績もよく都内の有名大学に進学。そのまま大学院に入ったのですが、ドロップアウトしました。英語が得意というスキルがあるにはあるんですが、正社員にはなれず翻訳会社やコールセンターを点々としています。時給が高いのが自慢だそうですが、ずっと契約社員のまま。もちろん、独身です」
実家の近くで一人暮らししているという妹も、なかなか人生は厳しい。
「漫画家になるといって大学も途中でやめてしまい、実家に連れ戻されました。その後も、描いてはいたようですが作品がどこかに掲載されたという話は聞きません。今は、地元のデパートの食品売り場でアルバイトしてますが、いまだに親から小遣いをもらってるそうです」
以前は、さほど深刻に考えていなかった男性だが5年前に父親が癌の手術で入院してからは、不安に苛まれるようになったという。
「父親は小さな会社を経営していましたが、最後は赤字が続き傷口の小さなうちに精算しました。実家は持ち家ですが、まだ抵当に入っていて年金で細々と返している状況です。そんな状況で、これから介護が必要になったり、葬式になれば誰が支払うんだと……」
「あの人たちは、いずれうちに寄生するんじゃないか」
男性の妻も正社員で働いているため年収は600万円あまり。夫婦併せれば1200万円あまりになるとはいえ、生活は決して楽ではない。
「8年前に購入したマンションのローンを支払いながら、子供のためにと必死で貯蓄をしています。自分の小遣いは月に3万円だけです。そんな状況で、介護費用や葬式代を出さなきゃならなくなれば、我が家の家計が崩壊してしまいますよね」
男性の妻はそのことがわかっているのか、兄と妹への態度がかなり辛辣だという。
「完全に人間扱いしていないですね。以前、妻から『あの人たちは、いずれうちに寄生するんじゃないか』と言われたことがあるんですが、実にその通りだと思っています。親が死んだ後に、あいつらが孤独死でもしたらどれだけ迷惑をかけられるんだろうと、本当に不安です」
男性は、せめて子供には迷惑が降りかからないために、兄弟の縁を切る方法を真面目に考えているという。