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そごう・西武のスト影響、売却阻止できずも「従業員の声を無視した運営しづらい」

2023年09月01日 13:50  弁護士ドットコム

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大手百貨店「そごう・西武」の労働組合が8月31日、ストライキを実施して、西武池袋本店は全館休業となった。雇用維持に対する不安などから、そごう・西武の売却について反発していた。


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一方で、親会社のセブン&アイ・ホールディングスはこの日午前、取締役会を開いて、米投資会社フォートレスへの売却を決議した。9月1日に売却完了するとされている。



一見すると、今回のストライキは売却阻止できず、結果的に意味がなかったようにも映るが、企業法務にくわしい浅井耀介弁護士は「必ずしもそうとは限らない」と話す。浅井弁護士に聞いた。



●「株式譲渡」による売却では従業員の同意はいらない

――そもそも会社の売却について、従業員の意向は尊重されないのでしょうか?



会社の売却には、大きく分けて「事業譲渡」と「株式譲渡」の2種類があります。



事業譲渡とは、会社(A社)が他の会社(B社)に対して、自社(A社)の事業を譲渡することをいいます。



その事業に従事している従業員からすると、雇用主がA社からB社に変わるということになるので、事業を譲り受けるB社は、従業員との間で新たに雇用契約を締結する必要があります。



したがって、事業譲渡をする際には、基本的には従業員の同意が前提となるのです。



ほかにも、事業譲渡の場合には、会社法上、譲渡会社(A社)と譲受会社(B社)の双方における取締役会決議や株主総会決議が必要とされるなど、手続きが煩雑であることが特徴として挙げられます。



――株式譲渡はどうでしょうか?



株式譲渡とは、会社(A社)の株主(C)が他人(D)に自分の保有する株式を譲渡することをいいます。



事業譲渡の場合と異なり、A社で働く従業員からすると、自分の雇用主はA社のままで変わりません。したがって、株式譲渡をする際には、従業員の同意を得ることは不要なのです。



また、会社法上、「株式譲渡自由の原則」が定められているため、基本的には、CとDとの間で株式譲渡契約さえ締結できてしまえば、A社の意向に関係なく、株式譲渡は成立してしまうのです。



今回の売却では、そごう・西武という会社の株主であるセブン&アイ・ホールディングスが、自社の保有するそごう・西武株式をフォートレスに譲渡するというスキームが採られ、まさに株式譲渡の方法が採用されました。



したがって、セブン&アイ・ホールディングスとフォートレスの間で株式譲渡契約が締結されたことで、そごう・西武労働組合の意向が無視されて売却が進められていってしまったのです。



●メディアにも大きく取り上げられて、世間の注目を浴びた

――会社側の説明などによると、「雇用維持」と説明していますが、労働組合側は納得いっていないようです。



2022年11月、セブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武株式の譲渡が公表されて、売却後の運営方針として、西武池袋本店の不動産をヨドバシカメラが取得するという計画が明らかとなりました。



このような計画を聞いた従業員からすれば、ヨドバシカメラの売り場が増えることで、百貨店の売り場が縮小され、結果的に雇用が維持されないのではないか、と危惧することは当然です。



「雇用維持」というセブン&アイ・ホールディングス側の説明と反する運営方針だと捉えられても仕方がないかと思います。



また、古き良き「百貨店の魅力」が失われ、「家電量販店化」してしまうことを危惧する声も挙がりました。



いずれにしても、今回のケースは、セブン&アイ・ホールディングス側の説明不足があったと言わざるをえないでしょう。



――今回のストライキの影響はありますか?



昨日8月31日、そごう・西武の労働組合によるストライキが実施されましたが、同じ日に、セブン&アイ・ホールディングスからフォートレスに対するそごう・西武株式の譲渡が正式に決定されてしまいました。



結果からみると、今回のストライキは意味がなかったと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。



まず、今回のストライキは、百貨店事業の継続と雇用維持を訴えるものでした。これがメディアにも大きく取り上げられて、世間の注目を浴びた以上、新たに、そごう・西武の株主となったフォートレスは、この声を無視した運営をしづらくなったと言えるでしょう。



また、一般的に、労働組合によるストライキは、賃上げ交渉のためがほとんどであり、今回のように株式譲渡後の事業継続や雇用維持が訴えられることは珍しいケースといえます。



今後、海外ファンドによる日本企業の株式の買収がおこなわれる際には、今回のケースが先例となって、「法的には考慮する必要がないものの、対象企業の従業員の意向を無視することは現実的リスクにつながる」という意識が生まれていくかもしれません。




【取材協力弁護士】
浅井 耀介(あさい・ようすけ)弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所退所後、レイ法律事務所に入所。一部上場企業や大手金融機関等の顧問、投資法人やファンドに関する業務、大規模なM&Aなど企業法務を幅広く経験。現在は芸能案件や学校問題、刑事事件も扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/