2023年08月31日 10:31 弁護士ドットコム
ガソリン価格の高騰が止まりません。資源エネルギー庁の公表資料によると、8月28日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は過去最高の「185.6円」になっています 。ガソリン価格高騰の原因は、円安と原油価格高騰に加え、6月以降のガソリン補助金の段階的縮小にあります。
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このままだと野党からガソリン高対策について追及を受ける可能性があり、また、同じ与党である公明党からも何らかの対策を求められる可能性がありました。そこで、岸田首相は、後手後手の対応と思われることは避けたいため、萩生田政調会長に補助金の延長などを含めたガソリン高対策を8月中にとりまとめるよう指示しました。
そして岸田首相は8月30日、9月末で期限を迎えるガソリン補助金を年末まで延長して、レギュラーガソリンの小売価格を1リットル当たり175円程度に抑える方針を表明しました。ただ、いつまでも補助金を出し続けるわけにはいきません。ガソリン価格を抑えるためにはどうすればよいのでしょうか。(ライター・岩下爽)
資源エネルギー庁の「燃料油価格激変緩和補助金」のサイトを見ると、補助金を使った場合のレギュラーガソリン価格の抑制効果は、最大「41.9円」で、直近の8月21日時点では、12.0円となっています。
したがって、もし、補助金がなくなれば、10円~40円程度ガソリン価格は上昇することになります。そうすると、為替や原油価格に変動がない場合、レギュラーガソリンの価格は200円を超える可能性が高くなります。
年末までは、補助金の延長で170円台に抑えられるとしても、来年以降は、また200円台に突入する危険性があるわけです。
「原油価格が高騰しているのだから、ガソリン価格の高騰はやむを得ない」と考える人もいるかもしれませんが、ガソリン価格の約4割は税金です。ガソリン価格が高すぎる場合には、補助金を給付するのではなく、税金を下げることを検討すべきです。
ガソリン価格に含まれる税金の内訳を見てみると、ガソリン税(揮発油税と地方揮発油税の合計)の本則税率が1リッター28.7円、特例税率(旧暫定税率)が1リッター25.1円、石油石炭税2.04円、地球温暖化対策税1リッター0.76円で、合計57.36円になります。
仮にガソリン本体の価格が100.64円だとすると税金分57.36円と合わせて158円になります。さらに消費税10%が掛かるので、小売価格は158円×1.1=173円になります。
特例税率(旧暫定税率)の部分は、高度経済成長期に道路特定財源として道路の整備のために臨時的に課されたものです。民主党は暫定税率廃止を公約として政権を奪取したため、暫定税率は2010年4月に廃止されましたが、合理的な説明もなく「特例税率」と名称を変えて一般財源として維持されることになりました。
ただ、ガソリン価格が高騰した場合には暫定税率の分を徴収し続けることは妥当でないとして、レギュラーガソリンの全国平均価格が3か月連続で1リッター160円を超えた場合には、暫定税率分の25.1円の課税を停止するという「トリガー条項」が設けられました。
ところが、東日本大震災の復興財源の確保が困難になるとして、2011年にトリガー条項は凍結されました。そのため、現在は、3か月連続で1リッター160円を超えてもトリガー条項は発動されません。
(1)特例税率(旧暫定税率)
暫定税率の25.1円の部分はあくまで道路を整備するための臨時的な税金であって、道路が整備された現代においては本来不要な税金です。何ら合理的な説明もなく、維持し続けることは許されることではありません。しかも、一般財源化されたことで、ここで得られた税収は、どのような用途にでも使うことができます。
先日、自民党の女性議員らがフランス研修という名目でパリ観光したことが批判を浴びましたが、政党交付金や議員の報酬も税金なので、国民が高いガソリン税を払わされて議員らの観光費用に充てられていると思うと腹立たしくなります。
(2)トリガー条項の停止
トリガー条項は、既に説明したとおり、ガソリン価格が高騰した場合に、本来課税すべきでない旧暫定税率分の課税を停止するというものです。しかし、東日本大震災の復興財源が必要ということでトリガー条項は現在凍結されています。
東日本大震災の復興にお金がかかることは確かであり、その財源として税金を徴収するというのはやむを得ないことです。しかし、東日本大震災の復興の費用を自動車の利用者だけが負担しなければならないとする合理的な理由はありません。
東日本大震災の復興費用は、国民全体で負担すべきものであり、所得税や法人税などから徴収すべきものです。実際、復興特別所得税と復興特別法人税が課されています。もし、復興財源が足りないのであれば、きちっと説明した上で、これらの税率を上げるべきです。
それをせずに、暫定税率分を下げたくないからと「東日本大震災の復興」という名目をつけて税金を徴収し続けています。減税するのは簡単ですが、増税するのは反発が起こるので、財務省は、一度獲得した税財源は何としてでも守ろうとします。
現在、国民民主党、日本維新の会、立憲民主党などの野党は、トリガー条項の凍結解除を求めていますが、松野官房長官は、「発動された場合、国や地方の財政へ多大な影響がある」として凍結解除は適当ではないとの考えを示しています。
(3)二重課税
ガソリン代金には消費税が課されています。ガソリン本体に消費税が課されることは当然のことですが、問題なのは、ガソリン税、石油石炭税、温暖化対策税にも消費税が課されていることです。税金に対して消費税を課しているため「二重課税」になっているのです。
この点について国税庁は、「消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税などが含まれます。これは、酒税やたばこ税などの個別消費税は、メーカーなどが納税義務者となって負担する税金であり、その販売価額の一部を構成しているので、課税標準に含まれるとされているものです」と説明しています。
何を言いたいのかわかりにくい表現ですが、要するに揮発油税などはメーカーが納税義務者でその負担分をガソリン価格に転嫁したものなので、ガソリン価格の構成要素にすぎず税金ではないから、そこに消費税を課しても問題ないという見解です。
ちなみに、軽油の場合は、揮発油税ではなく軽油引取税が課されていますが、こちらの納税義務者は消費者になっているので、軽油本体にしか消費税が課されていません。そのため、二重課税の問題は発生しません。
トラックやバスなどの産業用自動車の多くは軽油を使うことから、二重課税にすると業界から反発を受ける可能性があります。それを考慮して軽油引取税には消費税を課していないものと思われます。
産業界には配慮して二重課税にせず、一般消費者は無知だから二重課税で構わないというのはあまりに不平等です。税の公平の観点から法律を改正して二重課税とならないよう改正すべきだと思います。
ガソリン価格がそれ程高くない時には、ガソリンに課されている税金などを気にする人はあまりいなかったと思います。しかし、1リッター200円に迫るほどガソリン価格が高騰すると、税金が高すぎるのではないかと疑問を持つ人が増えてきます。
ガソリン価格を適正な水準にするためには、暫定税率分の25.1円を課さないようにして、二重課税について是正すれば良いだけです。ところが岸田首相は、それをせずに、税金は多く取っておいて、補助金を配れば国民は文句を言わないだろうと高を括っています。
岸田首相は、当初「聞く力」を強調していましたが、最近はほとんど聞かなくなりました。国民の声は聞かずに財務省の意見ばかりを聞いているので、自分でも言うのが恥ずかしくなったのかもしれません。
地方では自動車は必需品であり、このままガソリン価格の高騰が続けば、電気自動車への買い換えなども加速するかもしれません。そうすると、次は、ガソリン税に変わる走行税などを課すことを検討し始めるでしょう。国民は、不当な税が課されないよう常にアンテナを張りながら、国の動きを監視していかなければなりません。