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「タメ口は大御所だけ」「やり返してこない相手を口撃」あのちゃんは「ああ見えて大人」毒舌に潜む“気配り”

2023年08月30日 07:10  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

あの(公式HPより)

「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。

第92回 あのちゃん

 一人称はボク、舌足らずな口調。バラエティ番組に進出したあのちゃんが話題になることが増えてきました。

ああ見えて大人、毒舌に込められた“気配り”

 毒を吐いたり、一方でX(旧ツイッター)では、闇もしくは病みを匂わせることから、ファンとそうでない人との間で評価が分かれそうなタレントと言えるでしょう。彼女についてのネットニュースでは「あのちゃんはヤバい」というコメントもちらほら見かけます。年齢も出身地も非公表のあのちゃんですが、彼女を見ていると、この人は芸歴が長いのではないかと感じるのでした。実際、あのちゃんは2013年~2019年まで、ゆるめるモ!というアイドルグループで活動していたそうで、単純計算で今年芸能生活10年目ということになります。なぜこんなことを思ったかというと、あのちゃんはああ見えてオトナというか、毒舌に業界関係者への“気配り”を感じたからなのです。

 かつてエンタメの世界の主流は、憧れをあおることでした。エルメスやシャネルなどのブランドものをたくさん持っている人、タワーマンションの高層階に住む人が“勝ち組”とされ、そう呼ばれたいがためにひたすら努力する人も多かったことでしょう。しかし、格差が進むと、成り上がることが難しくなりますし、また、運よくそちらの方にいけたとしても、上には上がいますから、埋めきれない格差に打ちのめされてしまうかもしれません。成り上がった人もそうでない人も、なんとなーくイライラしている世の中では、人は自分をイライラさせるモノや人に惹きつけられたり、恵まれし人の転落を待ちわびるようになるのではないでしょうか。女性同士のマウンティング(イライラすることがわかっているのに読んでしまう)や、タワマンはいいと言われたけれど、実は災害に弱くこんなに不便だという記事がPVを取ることは、その表れなのだと思います。

 となると、芸能人も視聴者をイライラさせることが求められますが、この塩梅が結構難しい。

 芸能人は人気商売なので、人をイライラさせつつも「でも、言っていることは理解できる、面白い」と思ってもらわなくてはいけない。「ただの口の悪い人」で終わるか、「口は悪いけど、悪い子じゃないよね」と思われる範囲で踏みとどまれるかが、個人のセンスなのだと思います。ご本人は無意識なのかもしれませんが、あのちゃんは、この辺の調節がヤバいくらいにうまいと思うのです。その理由を書きだしてみます。

1.みんなにタメ口なわけじゃない

 ナインティナイン・岡村隆史が司会を務める「おかべろ」(関西テレビ)。8月9日放送の同番組によると、あのちゃんは『ぐるナイSP』(日本テレビ系)で、女優・泉ピン子と共演した際、「ピン子ちゃん」呼びで通し、ピン子も怒ることなく、フツウに会話をしていたそうです(しかし、全カットされ、放送されなかったそうです)。芸能界というか、日本は総じて縦社会。いくらブレイク中と言っても、新人のあのちゃんが大先輩にタメ口を利くとはビックリですが、それでこそあのちゃんが出演した意味があるというもの。ある程度の年齢の視聴者をイライラさせることができますし、一方の若者は、大御所相手に怯まないあのちゃんをあっぱれと思うかもしれない。「これはヤバい」とネットニュースになり、たくさんのコメントがつくことは確実でしょう。

  ひと昔前なら、新人が大御所にこんなことをしたら、業界をほされてしまったかもしれない。けれど、今はそんなことをしたら、SNSで「あの大物にパワハラされました!」と告発できる時代ですし、SNSは概して弱い者の味方です。大御所も老害と言われることを恐れていますから、本心は別として、表向きは怒らないようにするしかないのでしょう。

 それでは、あのちゃんは敬語が使えない人なのかと言うと、そうではないのです。8月22日放送の『ロンドンハーツ!』(テレビ朝日系)の企画「格付けし合う女たち」に出演したあのちゃんは、藤田ニコル、みちょぱなど、同世代と思しき女性芸能人にはちゃんと敬語を使っていました。大御所ピン子にはタメ口なのに、どうしてちょっと上の先輩には敬語なのか。この状況を会社員にたとえると、わかりやすいかもしれません。新入女子社員が社長にため口で話しかけたとしたら、社長はムッとするかもしれませんが、毎日接するわけではありませんから、表面上は「最近の若い子は自由でいいね」と笑って、周囲には「ちゃんと教育するように」と命じて終わるでしょう。しかし、新入女子社員が、ちょっと年上の女性の先輩に同じことをしたら、女性のネットワークで「ヤバい子入ってきたよ」と一気に広まり、色々やりにくくなることが目に見えているので、きちんと敬語を使うのでしょう。あのちゃんは空気が読めるタイプだと思います。

2.やり返してこない人を選んで“口撃”する

 あのちゃんは『あのちゃんの電電電波』(テレビ東京)内で、タレント・ベッキーとの共演を機にX(旧ツイッター)をフォローしたものの、すぐにミュートしたと明かして

いました。その理由は「なんか大したことつぶやかねぇなと思って」と説明していました。ゲスの極み乙女。のボーカル・川谷絵音との不倫関係が出る前は、嘘くさいほどのポジティブで売っていたベッキーですが、不倫がバレてしまった今、もういい子ウリはできない。今のベッキーは「傷つきやすいキャラ」に方向転換しようとしています。

  先輩であるベッキーに対するあのちゃんの言いぐさは失礼ですが、ベッキーは不倫のイメージを完全に払しょくできていないため、何かあると「不倫していたくせに」と責められやすく、また傷つきやすいキャラで売っているので、後輩の暴言にキレるわけにはいきません。ちゃんと相手を見て、やり返してこない人を選んで“口撃”を仕掛けていると言えるのではないでしょうか。

3.仕事関係者を敵に回さない

 あのちゃんはスレッズで「人様の名前と悪質なねじ曲げたタイトルで金稼いでるんだから写真ぐらい通常のボブの時のや最新のものを使うぐらい配慮しろよボケ野郎。よりによってなんで10年以上ショートボブの人間の一日しかしてないミーガンの写真使ってんだよ、なめんなよ」「後 閲覧稼ぎのためのキモいタイトルの記事もういいって」と投稿しています。放送法によりテレビ局には編集権が認められていますから、タレントの発言をカットしたり、つないだりすることができる。タレントからすれば、「そういう意味で言ったんじゃない」とか「あそこはカットしないでほしかった」と、違うニュアンスで編集されて放送されることがあるでしょう。番組内でのタレントの発言はネットニュースになりますが、同じ番組を見ても、人によって受け止め方は異なるもの。なので、タレントからすると、テレビとネットニュースを通過することで「そう言う意味で言ったんじゃねーよ!」と言いたくなることはたくさんあることでしょう。ですから、あのちゃんの激おこもわからないではない。けれど、過激に罵りながらも、媒体名は明かさないのがあのちゃんの賢いところだと思うのです。ここで媒体名を明かしてしまうと、記事を配信した側にもメンツがありますから、悪質呼ばわりされたら黙って引き下がるわけにはいかず、オトナたちがたくさん出てきて、ヤバいことになるのは目に見えている。何を言っていいのか悪いのかが、あのちゃんはよくわかっているのではないでしょうか。

4.イライラの後に、いいオチをつけることを忘れない。

 あのちゃんは「『あのちゃんの電電電波』で、南海キャンディーズ・山里亮太について「山里亮太はデフォで嫌い。というか、5~6年くらい一緒に番組やってて、その時からめっちゃ怖くて」「ボクがVTR中に寝たりするとめっちゃ怒る」「他の番組で会った時も、ボクがミスったことをみんながいるのに“あのちゃん、あれダメだったよ”って言ってきて。ホント嫌い」というふうに、先輩を呼び捨てした挙げ句の逆ギレ(仕事中の居眠りは怒られても仕方ありません)など、シンプルで上質なイライラを提供してくれます。しかし、その後に、山里があのちゃんの楽曲『ちゅ、多様性』のMVに出演してくれたことを明かし、「超一瞬で顔も出ないのに、出てくれたんだよ。コイツも人間の心があるんだって思えた」とイイ話をプラスしています。こうなると、話題に出された山里サンのイメージも上がりますし、あのちゃん自身も「言葉遣いはアレだけど、先輩に感謝できるいい子」に見えてくるのです。

 あのちゃんは、いろいろな番組で自分を「暗い」とか「生きづらい」と自己分析していますが、私には「傷つきやすい人」に見えます。心理学では、傷つくことを恐れる人ほど、自分を守るために、周囲に攻撃的になりがちと言われています。あのちゃんの発言は総じて「ちょっと言い過ぎ」だと思いますが、それは傷つきやすいために「やられる前にやる」発想に陥っているからではないでしょうか。芸能人として売れることは喜ばしいことですが、売れている今だからこそ、ストレスマネジメントが必要かもしれません。

<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」