あなたの脳力をチェック!
『6 3 9 4 1』
この数字を覚えてください。紙に書かずに、頭の中で記憶しましょう。
脳の老化は徐々に長い年月で進行する
日常の何げないひとコマで、「あれ?」と思うことが増えてはいないだろうか。
物や人の名前がすぐ出てこない、2階に上がりきったところで何を取りにきたか忘れる、聞いたことを覚えたつもりがまた聞き直してしまう、などなど。
若いころにはなかったこんな出来事に、「ほんとにヤバいかも……」と脳の老化を痛感する人は多いだろう。
脳科学者の篠原菊紀先生によると、「脳の老化はある日突然始まるものではなく、長い時間をかけて徐々に衰えていく」という。
80~85歳で認知症を発症すると仮定すると、その20年前である60~65歳のときには、すでに脳の老化は進んでいるというから恐ろしい。
それでは、脳を若く保つためにどうすればいいのだろう。身体はまだまだ健康なのに認知症を発症する人がいることを考えると、努力や工夫ではなんともならないのだろうか。
篠原先生によると、脳の老化を防ぐばかりか、若返りを図ることも可能だという。実際、篠原先生は、脳活動をあらゆる角度から調査し、さまざまなオリジナルの脳トレーニングを開発し、効果を上げている。
「脳を鍛える認知トレーニングを続けることで、かなり早い期間、だいたい2週間くらいで、認知テストのスコアは顕著にアップします。老化の自覚はなくても、今すぐにでも脳を鍛える習慣を日常に取り入れることをおすすめします」(篠原先生、以下同)
ここで……最初に覚えた数字を“逆の順番”にして、口に出して言ってみてください。戻って見てはいけません。覚えたはずの5桁の数字がすんなりと出てこなかったら、ワーキングメモリの機能に黄色信号。脳の老化が始まっているかも!
老化防止のカギはワーキングメモリ
脳にはさまざまな働きがあり、その部位によって司る機能は違う。
脳を老けさせないためには、そのすべてをバランスよく使って鍛えることが理想的だが、その中でも特に脳の老化に大きく関わっているのが「ワーキングメモリ」という機能だ。
「これは、ある情報を脳に一時的に保持しながら、計算したり、考えたり、何らかの作業を行うこと。つまり、『記憶(メモリ)』と『作業(ワーキング)』の合体です。この機能は高度な知的能力のほとんどに関わっており、高く保たれていれば、脳の老化が食い止められていると考えていいでしょう」
私たちはふだん、情報を記憶にとどめるだけでなく、実はその情報にさまざまな処理を加えて行動している。例えば、地図を開いて場所を記憶し、記憶をもとにその場所へ移動する、といったように。
先に紹介した脳力チェックの質問も、このワーキングメモリを測るテストのひとつで、もの忘れ外来で最初に行われる基本的な認知テストと同じものだ。数字を覚えるだけでなく、その数字を逆に思い出して発話する、という作業が加えられている。
脳の老化が進んでしまうと、この「記憶しながら作業する」ことが難しくなってしまうのだ。
ピークは過ぎても鍛えれば伸びる!
人間の知能には、大きく分けて2つの種類があるが、ワーキングメモリはそのうちの「流動性知能」に含まれる。そしてそのピークはなんと18~25歳。あとは、衰えていく一方と聞くと、「年だから仕方ない……」という気持ちにもなるが、諦めるのはまだ早い。
というのも、かなりの高齢者であっても、鍛えることでワーキングメモリのスコアが伸びたというデータは山のようにあるからだ。
「認知テストのスコアが上がれば、すぐに日常生活の質も向上するとは必ずしも言えませんが、さまざまな効果が期待できることは確かです。
もの忘れが少なくなる、仕事や家事がスムーズにできるようになるほか、コミュニケーションが改善することも。複数のことを同時にこなす能力も鍛えられるでしょう」
年齢を重ねて伸びる能力もある
前述した「流動性知能」は年齢とともに衰えていくが、実は年齢を重ねることで伸びる知能もある。それが「結晶性知能」といわれるものだ。
「知識と経験を積み重ねることで、累積的に成長するわけです。計算の早さや暗記能力では若い人に負けても、言語能力、洞察力、社会適応能力、コミュニケーション能力などは長けていることが多い。
これは経験によって培われるものが大きいからです。個人差はありますが、語彙(ごい)力のピークは67歳くらいといわれています」
これは、高齢になっても脳は成長することを示していることにほかならない。脳も鍛え方しだい、なのだ。
脳トレだけじゃダメ!生活習慣が影響大
脳を鍛えるトレーニングは、ほかのいくつかの生活習慣と並行して行うと相乗効果がある。
「まず大切なのは運動です。コロナ禍で外に出なくなったり、加齢で身体の機能が衰えたりして運動不足になると、連動して脳の活動も停滞します。身体を動かすのは脳であることを考えると当然のこと。
例えばウォーキングをするにしても、簡単な計算をしながらやるなど、頭と同時に鍛えるのもおすすめです」
ウォーキングや速足などの有酸素運動は生活習慣病の予防にもなり、一石二鳥だ。
また今回紹介する、脳若返り体操もぜひトライしてほしい。ふだんしない動きが、脳の幅広い部位に程よい刺激を与えることができる。
いっぽう、脳の老化に拍車をかける悪い生活習慣もある。喫煙や一度に大量摂取するような飲酒、不眠、そして孤独もそのひとつだ。
「バランスのよい食事と健康的な規則正しい生活をし、適度に人と関わることも大切です」
それらに加えてぜひ実践してほしいのが脳を使う脳活クイズだ。脳科学者の篠原先生が監修した25問は脳を幅広く使うよう厳選したクイズなのでおすすめだ。さっそくトライしてみてほしい。
「ただし、脳が疲れすぎたら逆効果。疲れる前にやめて脳を休めると、高めた能力がその間に定着します。また、解けなくてもがっかりする必要はありません。考えることが脳を刺激し、成長させるので、トライすることに意味があるのです」
答えを見て「なるほど」と思うだけでも脳は活性化するという。今日から実践して、高齢になっても身体も頭も元気でいよう!
脳イキイキ生活術5か条
1.頭をよく使うこと
とにかく使ってナンボ、と心得て。計算やパズルなど、意識的に頭を使う作業を習慣に。最後まで終わらなくても、取り組むことが大切。
2.適度な運動
頭ばっかり使っていてもダメ。身体を同時に動かすことで脳が刺激されて相乗効果が期待できる。週3日を目指して。
3.コミュニケーション
人との会話は脳の活性化にとってとても有効。ペットなどの生き物でもかまいません。ひとりでこもりきりは避けて。
4.健康的な食事と睡眠
バランスのとれた食生活は脳にも好影響。魚や野菜を多くとりたいもの。また、頭を使うだけではなく休めることも重要で、十分な睡眠は必須。
5.生活習慣病の予防・改善
持病がある人は、その改善や治療も怠らないことが大切。特に糖尿病などの生活習慣病は認知症のリスクを高めるといわれている。
篠原先生が監修!脳若返りクイズ 解答はフォトギャラリーの最後に!
脳若返り:言語系クイズ
最近、言葉がとっさに出てこないことはありませんか?それは脳の言語野の働きが衰えてきたサインかもしれません。言葉のクイズで言語野を活性化させましょう!
Q6~15:下の3つの言葉に共通して続く言葉(ひらがな)はなんでしょうか?
例:大学 干し さつま → いも
Q6:温泉 溶き 錦糸 → □□□
Q7:岩盤 森林 半身 → □□
Q8:鏡 平均 ちゃぶ → □□
Q9:口 腹式 えら → □□□□
Q10:公衆 携帯 糸 → □□□
Q11:生 ハンド バター → □□□□
Q12:ツアー ロケ バター → □□
Q13:膝 抱き 氷 → □□□
Q14:四つ 谷 菓子 → □□
Q15:蟹 食べ 一人 → □□□
Q16~25:□に漢字1文字を入れて、左の言葉と右の言葉が類義語になるようにしてください。
Q16:平穏≒□全
Q17:経緯≒過□
Q18:妨害≒□魔
Q19:良質≒□等
Q20:柔和≒□厚
Q21:技量≒□前
Q22:欠乏≒不□
Q23:達成≒成□
Q24:方法≒手□
Q25:心酔≒□倒
身体も動かして脳をイキイキ!脳若返り体操
脳を若返らせるためには、クイズだけでなく、運動も大事。ふだんしない動きをすることで脳に刺激を与えるのもいい方法です。
片方の手は前後に動かして、もう片方の手は上下に動かす。まったく違う動きを左右の手で同時に行うのは意外と難しいもの。レッツチャレンジ!
1.左手はグーの形で上下に動かし、テーブルをたたく。右手は手のひらをテーブルの上に置き、前後に動かす。それを同時に行う
2.慣れてきたら右手と左手の動きを交代させる
教えてくれたのは……
篠原菊紀先生●
脳科学者。公立諏訪東京理科大学共通教育センター教授。応用健康科学、脳神経学を専門とする脳活動のエキスパート。数多くのオリジナル脳トレーニングを開発し、幼児教育から介護予防まで生かす試みを行っている。
取材・文/野沢恭恵 イラスト/幸内あけみ クイズ制作/有限会社イーソフィア