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転職する友人から「身元保証人」を頼まれた…責任重すぎ! 気軽に引き受けたらリスクある?

2023年08月25日 10:21  弁護士ドットコム

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新卒入社や転職の際に、企業から「身元保証人」を立てるよう求められたことはありますか。親や配偶者になってもらうことが一般的だそうですが、誰に頼めばいいのか悩む人もいるようです。


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都内で働くマサトさん(仮名)は、今度転職するという友人から「身元保証人」を頼まれました。その内容をよくみると、「本人が故意もしくは過失により、貴社に対し損害を与えた場合は、本人と連帯して速やかにその損害賠償債務を保証する」などと書かれていました。



さらに、損害賠償の極度額として「初年度の月給の2年分」とも書かれており、マサトさんは「友人は軽い感じで依頼してきたものの、こんな重たいものだと思わなかった。厳しすぎないでしょうか」と引き受けるかどうか迷っているようです。



●「不安になってきた」「頼みにくい」

弁護士ドットコムの法律相談にも、就職時の身元保証人について、さまざまな相談が寄せられています。



「採用時に身元保証人を立てることが初めてなのですが、よくあるものでしょうか。誓約書の内容は遵守したいと思いますが、過失を絶対に犯さないとは言い切れないと思うので私も不安になってきました」



「入社手続き書類が自宅に届きました。金額が高額なため、保証人を頼みにくく悩んでいます」



「入社書類の身元保証者を提出するにあたり、保証人を親に依頼したいと考えています。年金収入の親は保証人になることができますか?」



身元保証人は、企業から依頼された場合、必ず立てなければいけないものなのでしょうか。その場合、注意すべき点はあるのでしょうか。黒柳武史弁護士に聞きました。



●身元保証書の提出が「労働契約上の義務」になる場合も

——身元保証人は、企業から依頼された場合、必ず立てなければいけないものなのでしょうか。



企業が就業規則などで、採用時の身元保証書の提出を義務付けているような場合には、身元保証書の提出は労働契約上の義務となります。



このような場合に身元保証書の提出を拒否すれば、内定取消や解雇されるリスクもゼロではなく、実際に、このような解雇の有効性を認めた裁判例(東京地裁平成11年12月16日判決)もあります。



——そもそも、企業が身元保証人を依頼する理由とはなんですか?



主な理由は、従業員が企業に損害を与えた場合に、その損害の埋め合わせを求めるためです。



また、このように身元保証人に多大な迷惑がかかるということを理解させることにより、従業員が問題を起こすことを抑止する効果もあるといえます。



●契約を解除できるのか?

——身元保証人の将来に向けての解除権(身元保証法4条)というのが定められているようです。結局、身元保証人が損害賠償債務を負うことはないということですか?



この解除権は、身元保証人が企業から、身元保証人の責任が発生する可能性がある場合などに(身元保証法3条に基づく)通知を受けた場合や、3条に定められている事実を知った場合に行使することができます。



ただし、身元保証人が企業に対し、身元保証法4条に基づく解除の意思表示をしなければ解除の効果は生じません。また、その効果は「将来に向かって」生じます。



そのため、契約解除以前に、従業員の故意・過失によって企業に損害が発生していた場合には、身元保証人も損害賠償責任を負う可能性があります



●身元保証人に賠償金支払いを命じた例も

——身元保証人が、実際に賠償金を支払った例はあるのでしょうか?



身元保証人に賠償金の支払いを命じた裁判例は、複数あります。



ただし、裁判所は、身元保証人の損害賠償責任やその金額を定めるうえで、従業員の監督に関して使用者の過失があったかどうかといった事情をくみとって判断すべきと規定されています(身元保証法5条)。



最近の裁判例からは、この規定を踏まえて、従業員本人の賠償額の2~3割程度に身元保証人の責任を制限する傾向にあることがうかがえます(東京地裁平成28年4月28日判決、東京地裁平成30年1月18日判決など)。



●気軽に身元保証人になることは避けるべき

——依頼者との関係性が友人などの場合、就職時の身元保証人に気軽になって良いものでしょうか。



これまで述べたとおり、身元保証人の責任は、一定程度限定されています。また、民法改正により、2020年4月1日以降に締結する身元保証契約は、極度額を定めないと無効になるなど、ある程度、身元保証人が保護されるようになりました。



とはいえ、裁判例のケースのように、身元保証人が相当額の損害賠償義務を負う可能性はありますので、気軽に身元保証人になることは避けるべきといえます。




【取材協力弁護士】
黒柳 武史(くろやなぎ・たけし)弁護士
京都府出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2020年京都弁護士会に登録換え。取り扱い分野は、労働事件を中心に、建築・不動産に関する事件や、一般民事・家事事件など。
事務所名:賢誠総合法律事務所
事務所URL:https://kensei-law.jp/