2023年08月24日 19:41 弁護士ドットコム
語学学校のアテネ・フランセ(東京都千代田区)で働く外国人講師3人が8月24日、最低労働時間を1時間も保証しない雇用契約(新契約)に合意しない場合には雇い止めにされるとして、学校前で同日、50分間ストライキを実施した。
【関連記事:「16歳の私が、性欲の対象にされるなんて」 高校時代の性被害、断れなかった理由】
講師らが加入するアテネ・フランセ労働組合によると、学校側は新契約締結以前の講師らとの雇用関係(労働者性)を認めず、無期転換の申請を拒否しているという。団体交渉も不調に終わったため、8月18日にストを学校側へ宣告した。
同校は1913年創立のフランス語学校で、現在は一般人向けのフランス語教育が事業の中心。小説家の谷崎潤一郎や坂口安吾なども通った老舗として知られる。
一方、学校側はストに至ったことに遺憾の意を示し、受講生に心配をかけていることにおわびをした上で、「講師によって働き方がそれぞれなので、労働者性についてはグレーな部分がある。学期ごとに生徒が集まって初めて開講できるという形式であるため、最低労働時間保証は難しい」と主張している。
アテネ・フランセ労働組合代表の横山陸さんは、24日の記者会見で、「今後は雇用関係を認めるという学校側の立場は一見前向きにみえるが、新契約に合意しなければ雇い止めになり、実際には理不尽な新契約の押しつけだ」と学校側の対応を批判した。
労組によると、講師の給料は完全時給制で、交通費や諸手当・賞与・定時昇給がなく、雇用保険や社会保険もないという。
労組は「雇用された労働者」と認めるよう交渉してきたが、学校側は業務委託の個人事業主だと主張していた。2023年7月には、グループレッスンについては今後「雇用契約」を締結すると提案したが、「1時間も最低労働時間を保証しない」「生徒数が5人に満たない場合は閉講とし、1円も保証しない」という内容だったという。
この新契約に合意しない場合、2023年8月末で契約の切れる講師たちについては雇い止めにするとの通告を受けた。労組側は「雇用された労働者」であれば、これまでと同じ契約内容で無期限に働く権利(無期転換権)が保障されていると訴えたが、学校側は無期転換の申請を拒否したという。
8月7日の団体交渉で、これまでと同様の最低労働時間を保証すること、無期契約者としての地位の留保を認めることなどを求めたが決裂、ストライキに至った。
横山さんは、理不尽な契約に応じるか雇い止めになるかという現状を「労働者としては、雇い止め覚悟で裁判をするしかなくなる」と説明。「無期転換権は法律で認められているのに、その権利にアクセスできなくなるのだとすれば大きな問題だと思う」と話した。
学校前のストライキでは、講師3人が思いを語った。「学校に尽くしてきたのに、軽く見られているような感覚です」(12年勤務の男性)「先生だけでなく、生徒さんにとっても良い状況になることを望んでいます」(18年勤務の男性)「この状況を悲しく思っています」(4年勤務の女性)
集まった生徒や支援者30人ほどの中には涙ぐむ人たちも。4年通っているという女性は「いろんな学校に行きましたが、こんなにレベルが高くて一生懸命教えてくれる先生たちに出会ったことがありません。日本が好きで来てくれたのに、こんなふうになるのは日本の恥だと思います」と訴えた。
今後、生徒らを中心に、支援の会を立ち上げるという。
アテネ・フランセは松本のゑみ理事長名で見解を示した。学校内に掲示したほか、記者クラブに公表した。
・新契約への合意について
労働基準監督署の指導を踏まえ、講師の皆さまに、固定授業に関しては雇用契約の契約書をご案内しており、内容についてご説明した上で、新契約締結をお願いしております。
しかしながら、その結果、残念ながら賃金や労働時間数等の契約における基本的な構成要素についてご了解をいただくことができない場合には、その講師の方との契約期間満了で契約が終了することは、やむを得ないことと認識しております。
・最低労働時間の保証について
そして、一部講師の方に新契約に合意いただくことができない最大の原因は、組合の要求内容等に照らし、最低労働時間の保証にあるのではないかと考えております。
当法人は、従来から、講師の方との間で締結する契約書に、受講生を募集するための時間割予定表に記載する時間の最低数を記載して合意してまいりました。
これに対し、組合が今般要求しているのはこれとは異なり、確定的な労働時間という意味での時間数(いわゆる所定労働時間数)を、生徒の募集を待たずして確定的なものとして契約書に記載し、実際の生徒の応募状況にかかわりなく(仮に生徒が集まらなくても)賃金を支払うことを合意せよというものです。
しかし、当法人における授業は、学期ごとに受講生の募集に成功して初めて開講可能となります。また、これまでも確定した就業時間数まで契約書に記載してきた経緯はございません。こうした当法人における業務の特性や従前の経緯等に照らせば、組合の上記の要求内容には無理があり、当法人が応じることは困難です。
・労働者性について
この争点は、講師の方々に労働契約上ないし労働基準法上の労働者性が認められるか否かという法律上の論点に直結する問題です。
労働者性は一律に判断することが困難な論点であり、当法人は、この点に関して指導を受けた労基署には随時報告しながら改善措置を講じてまいりました。
また、雇用調整助成金についても誤解を招かぬよう、当法人は自主返納を行うことを決定して関係機関と協議を行っております。したがって、組合の最低労働時間保証についての主張は一面的なものと受け止めています。