2023年08月23日 10:11 弁護士ドットコム
児童福祉施設や里親家庭で育つ子どもは、全国で2万4000人にのぼる。この春も2000人の18歳が社会に巣立った。彼らは住居や仕事、お金の悩み、将来への不安を抱えながらも懸命に生きている。
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大人の手助けを必要とする若者への支援を続けるNPO法人「夢の宝箱」(本部・横浜市)代表の土濃塚達也さん(35歳)に話を聞いた。(ルポライター・樋田敦子)
児童養護施設や里親など、社会的養護の経験者のことを「ケアリーバー」と呼ぶ。厚生労働省の調査によれば、社会的養護で暮らす子どもたちは、全国に4万5000人。そのうち児童養護施設が2万7000人でもっとも多く、毎年約2000人の18歳の若者が措置解除となり社会に出ていく。
NPO法人「夢の宝箱」では、保護者がいない、頼れる人がいない、職がなくて生活が立ち行かないといった若者たちの自立をサポートしている。
代表の土濃塚達也さん(35歳)は、ケアリーバーでもある。
神奈川県横浜市で生まれ、中学生のときに両親が離婚し、高校生からは秋田の里親家庭で暮らし、その家庭が建築系の仕事をしていたこともあり、それを手伝いながら学び、地元の養護施設にも出入りするようになった。
「施設でひとりの少年に出会いました。薬物依存症の父親のもとで育ち、父の関係者から性被害に遭った少年でした。自分がたどってきた道よりも、もっと過酷な道を小さい時から体験してきた少年がいたということがショックで、荒れていた自分が恥ずかしく、目が覚めた気がしました。そのときにこんな少年を助けたい。将来、自分で養護施設を運営したい。何かサポートしたいと考えるようになりました」
19歳で上京し、不動産会社や建築会社で働きながら起業。2017年、叔父が理事長を務めていたNPO法人「夢の宝箱」の代表になり、若者の支援をするようになった。ケアリーバーの若者が多くやってくるが、彼らの相談や悩みを聞いていると、その子ごとの悩みが多く、しかも多岐にわたっている。住まいだけではなく、仕事も心のケアもといった具合で、状況に応じたパッケージでの包括的な支援が求められているという。
「児相や養護施設、NPOからもこぼれ落ちてカバーしきれなくなって、うちに来る子が多いのです。なんとかして、僕ら大人たちがサポートしていきたい。就労支援を気長に続けていきたいと思っています」
夢の宝箱では「ジョブチェンジ制度」という3段階のステップを踏みながら就労に結びつけるシステムを構築して支援を行っている。
精神的な疾患を抱えている人も多く、朝決まった時間に起きて、混雑した通勤電車に乗って出勤するという、皆が当たり前に思う生活習慣を送ることも難しいケースもある。そこで生活習慣を見直し、精神的な負担の少ない仕事からスタートし、本人の動向を見ながら徐々に責任ある仕事に移っていく。夢の宝箱が就労先に掛け合って、協力してもらいながら、就労が持続するようにサポートする。
「すぐに就労するのではなく、中間的就労ですね。決められた時間に決まったことをやるという習慣づけをして、段階を踏みながら社会に徐々に出ていくという形にしています。勤務先の企業にも事情を話して協力してもらい、仕事での小さな成功体験の積み重ねで自信をつけ、責任を持った仕事ができるようになっていく仕組みにしています」
ある子は運送会社で大型家電の設置のアシスタントとしての経験を積み、収入は25万円を超え、周囲の信頼を得るまでに成長しているそうだ。初任給でお菓子を買ってきたときには、「本当にうれしかった」と土濃塚さんは笑う。
ケアリーバーの子どもたちが自立するためには、まずは見守ってくれる「頼れる大人」の存在を見つけること。そして資金的な援助。ケアリーバー支援の公的援助も必要だろう。
「夢の宝箱」では、児童養護施設は知っているものの、そこで暮らす子どもたちのことを知らない人たちにその現場を知ってほしいと、公演「みんなの家 ひまわりの家」を企画した。8月27日、神奈川県・聖光学院ラムネホール(横浜市)で開催される。
施設の中で子どもたちがどんな生活を送っているのか。施設職員は、虐待を受けた子どもたちや虐待してしまった家族に、どのように寄り添っているのかを芝居仕立てにし、理解を深めてほしいと企画、主催した。プロデュースは、神奈川県内の児童養護施設に勤める梛橋雄一さん。
「僕には、日本から児童養護施設をゼロにしたいという夢があります。施設を必要としない社会を実現させ、幸せな子どもたちを増やすことです。そのためには連帯が必要です。協力して、支援する仲間になっていきましょう」 (梛橋さん)
社会的養護の若者がどう暮らし、そこから自立するためには、どうしたらいいのか。ケアリーバーたちの心を知り、自分なりの支援を考えてみるのもいいかもしれない。