さいたま市見沼区の住宅街に緊張が走ったのはお盆休み前半の昼過ぎ。路上にパトカーが4台止まり、覆面パトカーも駆けつけた。周辺住民らは決定的瞬間を目撃した。
「あの家の玄関からロングヘアの母親が出てきて、自分から両手首をそろえて前に差し出し、手錠と腰縄で連行されていきました。終始無言でおとなしく、抵抗するそぶりはありませんでした」(近所の住民)
自宅で2歳の長女を刃物で刺し殺害しようとしたとして埼玉県警大宮東署は8月12日、母親の会社員・林絢奈容疑者(31)を殺人未遂の疑いで現行犯逮捕した。
容疑者の夫が浴室で血を流す2歳娘を発見
在宅していた夫(38)が泣き声を聞きつけ、2階浴室をのぞくと娘は血を流しており、
「妻が子どもを包丁で刺した」と110番通報した。
「絢奈容疑者は夫、長女、義母と4人暮らし。取り調べに“夫や義理の母親、自分の親との関係に悩んでいた”と供述しており、県警は犯行に至る経緯を調べている。長女は胸のあたりなどを複数箇所刺されていたが、病院搬送時は意識があり、命に別条はなかった」(全国紙社会部記者)
一部報道によると、これまで虐待通報や警察への相談はなかったという。供述が真実ならば、子育ての悩みに起因する犯行というより、家族関係で疎外感などを抱き、思い詰めて矛先が娘に向いたのか。
一家が引っ越してきたのは約2年前。5000万円を超えるローンを組んで築20年ほどの2世帯住宅を土地ごと購入し、家族4人で近所に挨拶して回った。
「引っ越してきますので、どうぞよろしくお願いします」
若い夫婦と夫の母親、生後間もない長女は母親の腕に抱かれていた。タオルを配るなど折り目正しい姿に、近隣住民はよさそうな家族だと安堵したという。
「引っ越してきた当初、お嫁さん(絢奈容疑者)は抱っこひもで子どもを抱いて、毎朝8時半ごろ仕事に出かけ、帰りも抱っこで夕方5時ごろ帰宅していました。いつもあくせくしていたのでワーキングママはたいへんだなと思いました。外見はごく普通のママで、向こうから“おはようございます!”と挨拶してくれたこともありました」(近所の女性)
広い庭のある2階建ての自宅は、1階に義理の母親、2階に容疑者と夫と娘が住んでいたとみられる。玄関やインターホンも別々だ。
「旦那さんは礼儀正しい好青年です。地域のゴミ集積場をきれいに保つためにゴミ拾いなどをしていたら率先して手伝ってくれました。指示に従ってテキパキと動いてくれ、地域美化に協力してくれるいい後継者ができたと喜んでいたんです」(近所の男性)
一方、義理の母親はおばあちゃんと呼ぶにはあまりに若く、服装もおしゃれだった。足腰や体調が悪い様子もなく「自立した元気な中年女性」(近隣住民)にしか見えなかったという。
前出の女性住民は、嫁と姑のツーショットを目撃したことがある。
「庭でお嫁さんがお子さんに歩く練習をさせ、お姑さんがそばで見守っていたんです。お嫁さんとお姑さんの関係も悪くなさそうで、安心したんですが……」(同・女性)
引っ越してきたときからシャッターは下りていて…
別の近隣住民は容疑者一家の変わったライフスタイルが気になっていた。
「引っ越してきたときからずっと、あの家のほとんどの窓はシャッターが下りていたり、カーテンが閉じられたままでした。日光が差し込まないだろうから、昼間でも照明をつけないと室内は暗かったはずです。それと洗濯物を外に干すところも見たことがありません。家人は外に出ようとしないんです」(近隣住民)
容疑者が出勤する姿をだんだん見かけなくなった約4か月前のこと。
「自宅からギャーギャーわめく女性の声が外まで聞こえてきたんです。声の感じが若かったからお嫁さんだと思います。激しい口調で誰かに怒っている様子でした。平日の日中だったので、旦那さんは留守だろうし、お姑さんと口ゲンカしているのかなと思いました。もともとお嫁さんとお姑さんが一緒に出かけたりするのは見たことがありませんでしたから」
と近所の女性。
口論に男性の声が交じることはなかった。別の日にも同様の絶叫を聞いたという。約2か月前には、こんなことも。
「久しぶりに子どもを抱いたお嫁さんを外で見かけたので、お子さんのご機嫌をうかがおうと“あら~”って顔をのぞき込もうとしたんです。ところが、お嫁さんはコミュニケーションを拒むように肩を入れてお子さんを隠してしまって。なんだか引っ越してきた当初とは別人みたいでした」(同・女性)
絢奈容疑者は横浜市出身。伝統ある進学校として知られるミッション系の私立女子中・高を経て立教大学に入学。ファストフード店でアルバイトしながら、カナダのトロント大学に留学したり、大学の交響楽団でヴィオラを弾いた。
海外旅行が趣味の“セレブ女子大生”
小学生のころから海外旅行で知見を広め、英語が得意だった。渡航先はマレーシア、シンガポール、米国、韓国、中国など。SNSの投稿画像は笑顔が目立ち、時に変顔で記念写真に収まるなど、おおらかなセレブ女子大生といったところ。卒業後も大学OBらとつくるオーケストラで活動するほどクラシック音楽が好きだった。
社会人になって興味は一変。モータースポーツにハマったり、一眼レフカメラを購入して福島競馬場でレースを撮影するなどスピード競技への関心が高まったようだ。’18年に自身のSNSに次のような投稿もしていた。
《鈴鹿サーキットで観戦して以来、すっかりF1好きになってしまいました♪ハミルトン本当にかっこいい。時速300キロメートルを超える1000分の1秒の世界での、少しずつの努力の積み重ねの結果なんだと思う。レース以外に関しても、チームやチームメイトに対する気配りを感じる》
家族の気配りは感じなかったのか。
「嫁・姑の関係構築は難しい。夫は板ばさみになり、嫁の立場からすると味方してほしいと思うこともあるだろう。でも、ここは大都会じゃないんだから、近所に相談したりグチる話し相手がいればよかったのかも。おばちゃんでよかったら喜んで話を聞いてあげたのに、仕事と子育てに追われてそんなことを考える余裕もなかったのかな」
と地元の女性。
逮捕されて子育てや家族関係の悩みから解放されたいま、少しは冷静さを取り戻したはず。いったい、どこで何を間違えたのか─。