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埼玉の自治体で「生成AI」活用の検討会が開催 – 職員の本音を聞く

2023年08月21日 10:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
2ケ月で1億を超えるアクティブユーザーを実現した「ChatGPT」が世間の注目を集めてからというもの、生成AI(ジェネレーティブAI)活用の動きが広まっている。埼玉県白岡市では、NTT東日本による協力のもと、生成AI活用に関する検討会が行われた。


○白岡市がAI活用の検討会を実施



OpenAIが開発した、自然な言語処理が行える対話型のAI「ChatGPT」。話題となった「GPT-3.5」、そしてBing AIにも用いられている「GPT-4」では、新たに対話の文脈理解や、より創造的なテキスト生成が可能となった。そのポテンシャルはついに政府も注目するところとなり、4月にはOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏と内閣総理大臣 岸田文雄氏の面会、5月には「AI戦略会議」の初会合が首相官邸で行われている。



こういった潮流の中で、民間企業のみならず自治体もまたその活用を探り始めている。埼玉県白岡市では、NTT東日本 埼玉支店の協力を受け、7月に生成AI活用の検討会が行われた。


白岡市 副市長の椎木隆夫氏は、「私の生成AIに対するイメージは『文章のたたき台や下調べをしてくれる部下がみなさん一人ひとりにできた』というものです。ただ、その部下がどんな能力を持っているのかよくわからない。いま世の中では、その部下を使いこなすためにマニュアルを作ったりしています。ですが、白岡市はそんなまどろっこしいことをするのではなくて『どんどん使ってみよう』『試してみよう』というコンセプトで進めることにしました」と、検討会の目的について述べる。


講師を務めたNTT東日本は、始めにChatGPTへとつながる人工知能、機械学習、ディープラーニング、そして生成AIまでの流れをかいつまんで説明。さらに、自治体という組織にとって重要な観点である、生成AIの社会的・倫理的リスクについて解説した。



NTT東日本 ネットワーク事業推進本部 設備企画部 ビジネス推進部門 クラウドネットワーク推進担当 兼務 映像ビジネスプロデュース担当 課長を務める奥谷智氏は、「コンピュータは計算が得意ですが、言語理解は苦手です。ではなぜChatGPTの会話はリアルなのか。それは、言葉の意味を数値化し、その特徴を理解しているからです。GPTはそれが大規模でできるようになったもので、Web上の情報をすべて学習しています」と話す。


英語と日本語のように言語が異なるとアウトプットも異なるのは、Web上の情報量が異なるからだ。また基となる情報に嘘が多ければ、アウトプットも当然嘘になる。もちろんChatGPTに入力した内容も学習され、他の人も利用可能になるため、機密情報や個人情報を扱っている方は十分な注意が必要となる。


一通りの説明を受けた白岡市の職員は、実際にChatGPTに触れ、AIに思い思いの質問を投げかけていた。中には観光情報の文章作成や、給食の献立を作るという使い方をした職員もおり、さまざまな活用が期待できた。



この検討会に参加した、白岡市 商工観光課の櫻井雄寛氏は「ChatGPTとはどういうものか知りたくて参加しました。AIに頼りたくないという気持ちもあるのですが、商工観光課としてはまず市民により良く伝わることが重要です。そういうところを意識しながら活用できればと思います。NTT東日本さんには新しい情報をたくさん伝えていただけると、行政がやれることの幅が広がるので、これからも情報交換をお願いしたいと思います」と、所感を述べる。

また、白岡市 企画政策課の菊池由衣氏は「DX推進委員として、ChatGPTについて詳しく知りたいと思って参加しました。“いままでAIではできなかったことをできるようになった”という面ばかり思い描いていましたが、“計算が苦手”という話を聞いて、やっぱりAIにも得意な面、苦手な面があるんだなと思いました。得意としている分野については人間よりもずっと優れているので、うまく自分たちがやっていることをお願いできればいいなと感じました」と見解を明かす。


○自治体DXの根幹は業務効率化と市民サービス向上



全国に先駆けて行われた、白岡市のAI活用に向けた検討会。もともとは、DX推進課が中心となり2022年11月に発足した取り組みで、全課からDX推進委員を募集し、今年度からDXを絡めた会議がスタートしたという。今回の検討会もその一環と言える。自治体業務の効率化に注目するなかで、いま普及が進むAIの活用について検討を始めたというわけだ。



白岡市 経営企画部 DX推進課 主幹を務める佐藤秀幸氏は、「自治体においてDXという名が出て久しいですが、『DXってなんなの?』というと割とピンとこない方が多いのです。ですから、まずはDXにこだわらずに、いろいろな最新技術に触れてもらおうと考えました。そのうえで『こういったものを取り入れてみたい』という思いを意思表示してもらい、全体の底上げをしたいと思います」と、今年度の狙いを定めていた。


市役所にはたくさんの文書が存在する。文章の作成はChatGPTの得意とする分野であり、定型的な文書を作ったり、既存の文書を活用してひな形にしたりといった幅広い活用が期待できそうだ。



NTT東日本の奥谷氏は、企業や自治体のAI活用について、「AIの活用には大きく二つのポイントがあると思います。まずはAIに対する理解です。利用される方がAIとはどういったものかを把握して使っていただくことが重要です。もう一つが情報の取り扱いです。情報漏洩がないよう、技術側でしっかりと考えてシステムを作らなければならないでしょう」と指摘する。


また、自治体業務において文書作成以外でAI活用が行いやすい場として、市民とのインターフェースを持つ部署を挙げる。例えば窓口業務やコールセンター、観光課などだ。すでに過去のやり取りをノウハウとして蓄え、新人オペレーターでも応対できるようにするという取り組みを行っている所もあると言う。



一方、高齢者を中心に、AIに抵抗を感じる人も少なくない。奥谷氏は「テクノロジーそのものではなく、AIを活用した先にある価値や効率性を伝えていくことが大事だと思います」と話す。NTT東日本 ネットワーク事業推進本部では、そのために最新技術はまず社内でしっかりと試し、便利で安全な技術を顧客に届けることを使命として活動しているという。



NTT東日本 埼玉支店としても、これほど大きな生成AIの検討会は初の試みだったそうだ。



NTT東日本 埼玉支店 第二ビジネスイノベーション部 マーケティング担当 課長の市川浩平氏は、「やはりお客様に実際に体験していただくと、自分の業務でどんな使い方ができるのかを理解してもらいやすいと感じました。短い時間でもさまざまな意見が出てきましたので、今後は課題などのブラッシュアップの場として、白岡市様と共同でワークショップ的に開催していければ、自治体業務に生成AIを活用するシーンの洗い出しだけでなく、メリットと課題の抽出に役立てられるのではと考えております」と所感を述べた。


白岡市の佐藤氏は、「自治体DXの根幹にあるのは業務の効率化と市民サービスの向上です。なおかつ、我々は全体方針の中で『人に優しいデジタル化』をピックアップしています。自治体業務の中には人の手をかけなければいけないものと、デジタルで効率化できるものがあります。これらの棲み分けを考えながら、活用できるところでは活用し、さらに活用のアイデアがどんどん出せるような空気感を醸成していければと考えております」と、今後の抱負について話してくれた。



少子高齢化が進み、さらなる労働力の不足が懸念される中で、最新技術の活用は今後さらに求められていくことだろう。(加賀章喜)