2023年08月16日 20:11 弁護士ドットコム
韓国を代表するDJとして活躍する「DJ SODA」さんが8月14日、自身のツイッター上で、大阪・泉南市で開催された音楽フェス公演中に複数の観客から胸などを触られる「セクハラ被害」にあったことを告白。「あまりにも大きな衝撃を受けて未だに怖くて手が震えています」などと投稿した。
【関連記事:セックスレスで風俗へ行った40代男性の後悔…妻からは離婚を宣告され「性欲に勝てなかった」と涙】
この「セクハラ事件」をめぐっては、ネット上でさまざまな意見が出ているところだが、フェスを主催する会社は翌15日、「このような行為は性暴力、性犯罪であり、断じて許すわけにはいきません」とする声明を出した。"犯人"を特定し、損害賠償や刑事告発など、法的措置をとる方針を示している。
自身もDJとして活動する元検事の西山晴基弁護士は「セクハラした観客については、迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。一発で身体拘束を伴う刑罰を科される可能性があるほど、悪質な事態であることは明らかです」と指摘する。
では、今回のような事態を防止するにあたって、イベントの主催者に求められる責任はないのだろうか。西山弁護士に解説してもらった。
観客によるセクハラ行為については、主催者側も、安全配慮義務に基づいて、出演者に対するセクハラ防止策を講じることが求められるでしょう。
安全配慮義務とは、一定の関係性がある相手方の安全を保護する義務をいいます。典型例としては、会社が、過重労働やハラスメントなどの危険性から、雇用関係にある従業員を保護する義務を負うことです。
イベント主催者にも、参加者に対する安全配慮義務があります。今回のようなライブイベントの場合には、観客だけでなく、出演者の安全も守らなければなりません。
実際に、出演者がステージから転落した事故について、主催者側に、出演契約に基づく安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた裁判例もあります。
そのため、出演者に対する観客のセクハラ行為についても、主催者の安全配慮義務(主催者が出演者を観客のセクハラ行為から守る義務)が認められる可能性はあります。たしかに、安全配慮義務が問題となるケースには死亡・負傷事故が多いですが、過去には、たとえば、キャバ嬢に対する客のセクハラ行為について、店の安全配慮義務(店が従業員を客のセクハラ行為から守る義務)が問題とされた裁判例もあります。
ライブイベントでは、観客の安全を確保するために、たとえば、出演者と観客との間の柵の前や、通路などにスタッフ・警備員を配置しています。状況に応じて、会場内を走行するフロート(乗り物)に観客がひかれないように誘導したり、気を失いかけている観客がいれば救出・救護したりする必要もあります。
主催者には、このような観客の安全確保に加えて、出演者の安全確保の観点からも、スタッフ・警備員を配備したり、演出の進行方法や舞台装置の操作のタイミング調整、スタッフへの注意点の周知、進行時の適宜の伝達などすることが求められます。場合によっては、観客の行き過ぎた行動を制限する必要もあります。
今回のケースでも、観客によるセクハラ行為があった際に、即座にスタッフが制止に入るような対応方針がとられていたのかなどについて検証する必要性があるでしょう。
一方で、実際に裁判で、安全配慮義務違反に基づく責任が認められるのは、下記の要件がすべて立証された場合でしょう。
・予見できる出来事であったこと ・防止できる対策があったこと ・その対策が講じられていなかったこと ・その結果として、損害が生じたこと
しかも、セクハラ行為に関する安全配慮義務が問題となった事案では、そもそもセクハラ行為があったことが立証できずに、責任が否定されるケースも少なくありません。
今回のケースでは、犯行映像などから、セクハラ行為が立証できた場合、主催者による声明(「このような事件が初めて発生したことは、誠に残念であり…」)も踏まえると、予見できた出来事であったか否かの点から、評価が分かれる可能性もあります。
いずれにしても、今回の出来事が起きてしまった以上、主催者としては、今後、二度と同じことが起きないように防止策を検討することが求められます。
セクハラ行為をおこなった観客を特定して、その責任追及をしていくことも、今後、同様の行動を繰り返させないための手段の一つと考えられます。
ですが、観客の行き過ぎた行動を制限するには、主催者側の対策にも限界があります。
一部の観客の過剰な行動によっては、極論、アーティストと観客との接触自体を物理的にできなくなくする会場設営も検討せざるをえない可能性もあります。
アーティスト一人ひとりを守るためには、やはりファン一人ひとりの応援の仕方も大切であることも改めて考えるべきではないでしょうか。