8月12日、アメリカ・インディアナ州にあるインディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースでNTTインディカー・シリーズ第14戦ギャラガーグランプリの決勝が行われ、15番グリッドからスタートしたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が見事なポジションアップを果たし、優勝を飾った。
インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースでは、COVID-19パンデミックに襲われた2020年シーズンから年間2レース以上が開催されるようになり、2021年からは夏にNASCARとの共催でシーズン2レース目が行われるようになっている。
今年も1戦目は5月に、インディアナポリス500マイルレースの直前の第5戦GMRグランプリが行われ、そこではクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン)がポールポジション(PP)を獲得し、アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)が決勝レースでの優勝を記録した。
そして、今シーズン2回目のレース開催となる今週末、ポールポジションを獲得したのはルンガーのチームメイトであるグラハム・レイホールだった。
彼にとっては、2017年のデトロイト以来となる超久しぶりのPP。さらに予選2番手はルンガー。これまでも、今シーズンのレイホール・レターマン・ラニガン(RLL)のマシンセッティングはスムーズなロードコースで高い能力を発揮しており、ミド・オハイオではレイホールが予選2番手、トロントではルンガーがポール・トゥ・ウィンを飾っている。
そして今回RLLは、レイホールとルンガーによるフロントロウ独占を果たした。
そして、決勝レースがスタートしてみてもレイホールは速かった。スタートでは5番手からデブリン・デ・フランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)が一気に首位にのし上がったが、レイホールはチームメイトのルンガーより明らかに速く、彼ら2人はデ・フランチェスコをすぐさまパスして、後続を引き離しにかかった。
レイホール勢に挑んだのはセカンドロウからレースを開始したアロウ・マクラーレンのアレクサンダー・ロッシとパト・オワード。だが、彼らが攻略できたのはルンガーのみで、レイホールはレースを通じて大きな優位を保持し続け、圧倒的な力を見せつけての優勝へ淡々と快走を続けていた。
しかし、結局レイホールは2017年以来となる勝利を手にすることはできなかった。
今回のレースでトップの座を奪っていったのは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)だった。15番手グリッドからのスタートだったディクソンは、スタート1周目のターン7で起きた多重アクシデントに巻き込まれ、芝生の上でスピンを喫してしまった。
すぐに姿勢を立て直し、運良く走り続けることのできたディクソンだったが、ピットに入ってマシンの修理を行ったため、このタイミングでの順位は25番手にまで下がってしまった。
普通ならここで勝利を諦めてしまうところだが、ディクソンは“まだ自分たちにもチャンスはある”と考えていたという。“ハードタイヤはどのみち10周目ぐらいまでに捨てるつもりだったから”と、スピンのリカバリーのために彼はオープンになったピットに滑り込み、タイヤをソフトに交換し、燃料も補給した。
こうして、アクシデントのなかでも得られるメリットを即座に理解して作戦を変更したディクソンは、順調にポジションアップを重ね、最後にはトップにまで上り詰めてそのままトップチェッカーを受けた。
ディクソンにとって今季初となるこの優勝は通算54勝目だ(AJ・フォイトの67勝に次ぐ歴代2位の記録)。さらに、19シーズン連続での勝利として、インディカー・シリーズでの新記録樹立となった。
また、今回はディクソンにとっての319戦連続出場という記録樹立のレースでもあった。元僚友でもあるトニー・カナーンの記録をディクソンは上回ったのだ。
その記念すべき日に勝利を挙げたディクソンは、「こんな日に勝てるなんて!」と笑顔を見せ、「久しぶりの勝利。おそらく1年以上前だね、最後に勝ったのは。なんだか凄く長い時間が経っている感じだ。次の320戦目でもまた勝ちたいね」と続けた。
予選で15番手に沈んでしまったディクソンは、ハード寄りのプライマリータイヤでのスタートを選択。10ラップ程度でソフトに切り替える計画だったというが、最初のフルコースコーションで、少し想定より早かったが1回目のピットストップを敢行した。
そして、残り周回数を2ストップで走り切った。ソフト寄りのオルタネートタイヤの耐久性が高く、ハードタイヤよりも有利であるという評価をレース前から下していた点が、彼らの勝因だったと言えるだろう。
その証拠に、ライバル勢の大半は3ストップ作戦を選択。ピットストップ回数を一回減らすべく、燃費セーブとスピード維持を両立させたディクソンの走りは、見事に勝利に結実した。
ディクソンは燃費を巧みにセーブしたことで、勝負どころの最終数ラップではプッシュ・トゥ・パスも活用するようになっていた。レイホールの追撃を知りながら、ぎりぎりまでペースを抑えて燃費とタイヤをセーブし、勝負どころでは大胆にプッシュ・トゥ・パスを活用していた。
一方のレイホールは、今年のインディ500で予選落ちを喫していた。そんな彼が、今回このロードコースでシーズン2戦目でポールポジションを獲得。レースでも力強い戦いぶりを見せ、優勝に迫った。
2位フィニッシュは非常に悔しい結果だろうが、再び上位勢として戦える日々が近づいていることを彼は確信し、2位表彰台という結果を喜んでいた。今やレイホールのチームは、コースによってはアロウ・マクラーレンやアンドレッティ・オートスポートより速いシリーズナンバー3になっている。
残る表彰台の3位争いは、4番手グリッドからスタートし、前を行くルンガーを攻略したパト・オワードが制した。
レース前のポイントランキング2位であったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)は、ディクソン同様に1ラップ目のアクシデントに絡み、マシンのフロント部を損傷し1ラップの周回遅れになった。その後ニューガーデンは走行を続けたものの、そこから這い上がってくることはできなかった。
一方、チャンピオン争いでトップを快走するアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)は、8番手スタートから7番手でゴール。
パロウは、「慌ただしいレースだった。特に最初の1~2ラップは大変だったよ。その後僕らは攻撃的な作戦を採用したんだ。それは最初の2スティントでは効力を発揮していたと思う」とレースを振り返る。
「そして、最後のスティントで自分達は残していた良いタイヤを使ってさらにスピードアップする計画だった。それなのに、良いはずのタイヤが良くなかったんだ。摩耗が急速に進んでしまった」
「それでも、今日重要だったのはゴールまで走り抜くことだった。スコット(ディクソン)は優勝することができたし、自分はポイントリードを広げることができたからね」