2023年08月13日 09:01 弁護士ドットコム
夏の間、カブトムシやクワガタなどの虫捕りを楽しむ人も多い。一方で、マナーやルールを守らず、昆虫採集する人が後を絶たない。木の根本を掘ったり、穴を開けたり、トラップを仕掛けたまま放置したりして、自然を破壊しているのだ。
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昆虫マニアや飼育販売業者の中には、大型の照明機材を用いたわな(ライトトラップ)を仕掛けて、大量に昆虫を捕獲することもある。一部の悪質なケースでは、私有地に無断侵入したり、民家や車道の近くに仕掛けるなどして、地元住民から苦情の声が上がり、地域にとって深刻な問題となっている。
こうした悪質な昆虫採集について、いくつかの自治体では近年、条例でライトトラップを禁止して、罰則を設けるなど、本格的な取り締まりに乗り出している。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
「先月も、虫捕りのトラップが木の上に設置されているのを発見して、撤去しました」
そう話すのは、神奈川県立あいかわ公園(愛川町)の担当者だ。
あいかわ公園は、宮ヶ瀬ダムに隣接する自然豊かな公園で、夏休み中は多くの利用者でにぎわう。個人で楽しむ昆虫採集は禁止されていないが、「トラップの利用」「販売目的の捕獲」「個人であっても大量捕獲」は禁じられている。
ところが、一部の悪質な利用者がルールを守らず、公園には、他の利用者から苦情が寄せられてきた。
たとえば、ペットボトルを利用したトラップや餌をそのまま放置したり、昆虫の死骸を道に廃棄したりといった行為がみられるという。また、昆虫を採集するために樹木の表皮を剥いだり、樹液を出すために樹木を傷つけたり、木の根元を掘ったりするなどの被害もあった。
あいかわ公園は、自然保護の観点から昆虫を採ったら観察して放す配慮を求めるなど、ルールとマナーを守って昆虫採集を楽しむよう呼びかけている。
昆虫採集のマナーやルールを守ることは当然のことだが、そもそも公設の公園では、昆虫採集自体を禁止しているところもある。
「近所の公園だから大丈夫」と思わず、昆虫採集ができるか、また禁止されている事項はないかなど、事前に公式サイトで調べたり、公園の管理者に問い合わせたりすることが必要となる。
昆虫採集のマナー違反も度が過ぎれば、規制される。近年、横行する悪質な昆虫採集への対策として、独自に条例を設ける自治体が増えてきている。
その1つ、新潟県魚沼市は2017年、市内全域でライトトラップを使用した昆虫採集を禁止する「自然環境保全条例」を制定した。
出力30ワット以上の照明器具を用いた採集や、100メートル以内の距離で2灯以上の照明器具を用いた採集を禁止し、違反した場合、最も重いケースだと1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる。
市生活環境課の担当者によると、条例制定前は市外から多くの昆虫業者やマニアが山中でライトトラップを使用し、大量に昆虫を捕っていたという。
「販売や飼育の目的で、カブトムシやクワガタを捕っていくのだと思うのですが、ライトトラップは、他の昆虫も大量に集まってきてしまいますので、生態系に与える影響が大きいため、環境保全の条例を制定しました」(担当者)
地域住民からも条例を求める声は上がっていたという。
「ライトトラップは夜間に使用されるのですが、『山奥なのに野球場かと思うほど明るい』といった住民の方たちから声がありました。また、発電機による騒音についても苦情が寄られていました」(担当者)
条例制定後、魚沼市は、昆虫採集シーズンである真夏に地元の警察と協力し、パトロールをおこなっている。これまでに10件の違反が認められたという。
「業者の方は自分で業者とは名乗りませんのでわかりませんが、車のナンバーを見ると、東京の方が多いです。また、警察とのパトロール以外でもライトトラップをしている人に個別に注意しているケースもありまして、実際の違反数はもっと多いと思われます」
魚沼市では、看板を設置するなどして引き続き、ライトトラップを使用しないよう呼びかけている。
福島県只見町でも2016年、「野生動植物を保護する条例」を制定して、町内でライトトラップなどを利用して昆虫を大量に捕獲する行為を禁じた。こちらも違反した場合は、1万円以下の過料が課せられる。
また、山形県小国町でも、町内でライトトラップが確認されており、民家への光害や私有地への無断侵入、オオクワガタなどの希少な昆虫の大量捕獲が懸念されるという。現在、住民から被害実態について情報を集めている。
今後さらに、一部の悪質な昆虫採集が横行すれば、ライトトラップや昆虫採集を禁止する自治体は増えていくだろう。ルールとマナーを守って、昆虫採集を楽しみたい。