トップへ

ビッグモーター兼重親子の刑事事件化、弁護士の6割「ありうる」 立証困難の指摘も

2023年08月12日 08:01  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

中古車販売大手ビッグモーターによる不正問題が連日報道されている。弁護士ドットコムは、会員の弁護士に保険金の不正請求問題や街路樹が枯れた問題についてアンケートを実施し(期間:8月7日~10日)、180人から回答が寄せられた。


【関連記事:高速の「ズルい」合流、実は正解だった? NEXCOが推奨する「ファスナー合流」とは】



その結果、社長と副社長の辞任で経営責任を果たせたとはいえないとの回答が約85%にのぼり、今後の経営への影響で破産の可能性もゼロではないと考えている弁護士が3分の2以上という結果となった。



●「経営陣の辞任で責任は果たせない」が8割超

保険金の不正請求問題が発覚した後、兼重宏行社長と兼重宏一副社長は辞任したが、これをもって「経営責任が果たせたと考えているか」を弁護士に質問した。





結果は「果たせていない」が63.9%、「あまり果たせていない」が20.6%となり、否定的な見方の弁護士が約85%にのぼり、「果たせた」が0.6%、「多少は果たせた」が5%だった。



「果たせていない」「あまり果たせていない」とする意見では、辞任しても実際には問題が解決していないことや、元社長らがいまだに株主としては健在であることを指摘する声がある一方、「多少は果たせた」と回答した弁護士からは、これまでよりは経営環境の改善が見込めるとの意見もあった。



<果たせた・多少は果たせた>



「経営責任という意味では最低ライン。そのうえで、新しい代表がどのように会社の舵を切るのかが重要」



「双方の影響がなくなればいくらかは経営環境の改善が見込める」



<果たせていない・あまり果たせていない>



「大株主であることに変わりがないから」



「会社に対する損害賠償責任を果たしていない」



「経営責任を果たしたと言えるためにはこのような問題が起こらない体制づくりが必要」



「持株も売却して会社への影響力を遮断しない限り、経営責任を果たしたとは言えない」



●不正知らなかった可能性「ある」「多少ある」約15%にとどまる

保険金請求に関する一連の不正について、元社長は会見で「知らなかった」と述べたが、その可能性の有無を質問した。





結果は「ある」が6.5%、「多少ある」が9.7%と低い数字にとどまった。一方、「あまりない」「ない」はそれぞれ32.5%、33.1%となり、合計で全体の3分の2程度を占めた。



<ある・多少ある>



「会見の様子がわざととぼけているように見えなかった」



「報告が社長まであがらないことはよくあることのため」



「不都合なことが社長まで情報共有されていない可能性がある」



<ない・あまりない>



「ワンマン社長が知らないわけはないと思うが、実権が息子に移譲されていたのであれば、知らない可能性も否定できない」



「会社の体質として広く行われていたとすれば知らないとは言い難いと思われる」



「従業員が独断で不正をする理由がない」



「内部告発は2年前にあり、少なくともこの時点では知っている。そもそも元社長の指示である可能性が高い。あのワンマンの会社で部下が勝手にやることはあり得ない」



●刑事責任が問われる可能性「ある」「多少ある」が多数

保険金の不正請求に関して、元社長と元副社長が刑事責任を問われる可能性の有無を尋ねた。





「ある」が28.6%、「多少ある」が33.1%と刑事責任が追及されることがありうると考える弁護士が6割を超え、「ない」「あまりない」は合計で10.4%にとどまり、「どちらともいえない」が27.9%にのぼった。共謀や故意などの立証の困難さを指摘する声が複数あった。



<ある・多少ある>



「社会的影響が大きかったから」



「車両の損傷を自ら作出して請求していたとすれば、詐欺に該当する可能性があるのではないか」



「保険会社の対応次第ではあり得ると考える」



<ない・あまりない>



「刑事事件での故意の立証は困難(民事の重過失は別)」



「経営陣が抽象的なレベルを超えて、個別具体的な水増しの修理案件の存在を認識していたことの立証は容易でないと思われるため」



「刑事裁判で有罪立証可能な証拠の収集は簡単ではない。詐欺の規模がデカいと、捜査機関がなぜか腰が重い」



●街路樹問題は「立件すべき」が多数

保険金の不正請求問題とは別に、各地の店舗前に植えられた街路樹が枯れたり、撤去されたりしたとの疑惑が浮上。一部についてはビッグモーター側が認める事態となった。この「街路樹問題」について刑事事件として扱われるかどうかを質問した。





「立件すべき」が64.9%となり、「立件すべきでない」の3.2%を大きく上回る結果になった。



<立件すべき>



「故意であり、件数が多いため」



「今後同種の問題が発生しないようにするため」



「他人の財物を損壊したならば立件されるべき」



<立件すべきでない>



「多かれ少なかれ、同じような問題はビッグモーターに留まらない」



「刑事事件化まではしなくても良いのではないか(科刑も大したことにはならないと思われる)」



「単に街路樹の被害であり、財産的損害としては大きくない」



●破産の可能性「ある」「多少ある」で3分の2超

8月に入って以降、中古車検索サイト側が中古車情報の掲載を停止するなど、今後の経営への打撃となりかねない事態となっている。ビッグモーターが破産する可能性についても質問した。





「ある」が29.9%、「多少ある」が38.3%となり、破産する可能性を指摘する弁護士が3分の2を超える結果となった。「ない」が0.6%、「あまりない」が9.7%にとどまった。



<ある・多少ある>



「さまざまな許認可事業を取り上げられて、最後には中古車の売買だけになるだろうが、誰もビッグモーターで売買しないだろうから」



「今回の件で、大幅に売り上げが落ちて多くの従業員が辞め、経営が立ち行かなくなる可能性が高いと考えるから」



「このままでは立ち行かないことは事実。ただ、規模が大きいので、破産ではなく買収の可能性があると思う」



「資金繰りに行き詰まることがあれば破産もあり得る」



<ない・あまりない>



「中古車売買のマーケットでは抜群の知名度を誇っていることから、破産するところまで経営が傾くようには思えない」



「資産は十分にある」



●厳しい意見続々「内部統制の整備を」

アンケートでは、内部統制のあり方や損保業界の対応、今後の展開についての予想などを自由回答で募集した。寄せられた回答の一部を紹介する。



特別調査委員会の調査報告書でコーポレートガバナンス(企業統治)の機能不全が指摘されていたが、内部統制の重要性を指摘する意見が多くあった。



「責任者が内部統制のあり方に関心をもち、社員の働き方に注意をはらうべき」



「通報システムが機能しなかった失敗事例として検証してほしい」



「これを機会に、非公開会社であっても、適切な内部統制を行わなければならないという意識が育まれるとよいと思う」



「非上場会社の内部統制が難しいことが発覚したので、損保業界としては内部統制がしっかりしている会社と優先的に付き合うようになることが考えられる」



●損保会社にも厳しい意見「闇が露呈した」

損保会社への厳しい意見も複数あった。



「損保会社の闇が露呈したところで、各損保に対しても厳しく対応を求める必要がある」



「損保会社の不正は前から聞いていたので全く驚かない。ビッグモーターだけにとどまらない。偽装工作をして保険金をどれだけ少なくするかに腐心しているのは周知の事実」



「保険会社は、被害者かのような振る舞いをしているが、車両の損害確認に当たっては保険会社のアジャスターが実際に確認して修理費用について協定を行うので、ビッグモーターの不正請求が見抜けなかったというのは非常に懐疑的」



「損保業界と大手中古車販売業者との癒着を解消する必要がある」



弁護士業務への影響や今後の対策などについては、次のような意見があった。



「単に従業員側に対抗手段がなさ過ぎたのが問題と考える。労働組合はやはり必要」



「交通事故訴訟で車両の修理代金をめぐる信用性が争われる場面が増加しないか懸念がある」