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「空白の12日間」に新たな疑問…違法薬物を保管した日大副学長は罪になるのか?

2023年08月10日 12:51  弁護士ドットコム

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日本大学アメリカンフットボール部の違法薬物問題で、競技スポ―ツ部の責任者として対応した澤田康広副学長は、8月8日の記者会見で、植物細片などの不審物を発見してから警察に連絡するまで、自らが預かって保管していたと説明した。


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2023年6月に警察から情報提供を受けた大学側は7月6日、学生寮の調査を実施。植物細片や錠剤などが発見されたものの、警察へ報告したのは同月18日で、発見から12日間経過した後だった。



警察への報告に時間を要した点について、澤田副学長は会見で「学生に反省させて自首をさせたいと考えていた」と話し、日大本部で保管していたことも明らかにした。



「大麻のカスなのかもしれないと思った」とも話した澤田副学長だが、そのような物を保管した場合、違法薬物の所持罪にはならないのだろうか。元警察官僚の澤井康生弁護士に聞いた。



●一定の場所に保管していても「所持」に当たる

——発見から警察への連絡まで「空白の12日」などとも言われています。



副学長が12日間にわたり植物細片を保管していた行為については、大麻所持罪の成否が問題となり得ます。



「所持」とは、人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為のことをいいます(最高裁昭和24年5月18日判決)。



自分の身体に直接身に付けていなくても、自分の管理権の及ぶ範囲に物を置いている状態や他人に知られないように隠している場合なども所持に該当します。たとえば、自宅に覚醒剤を隠していれば、外出していた場合でも所持罪が成立します。



副学長が植物細片をどのような状態で保管していたのか、他の大学関係者と協議して行動していたのか不明ですが、自分の管理権の及ぶ範囲で保管していた場合や他人に知られないように隠していた場合、所持罪が成立する可能性があります。



●「違法薬物かもしれない」という認識で足りる

——副学長は「違法薬物との確証はなかった」と主張しています。



大麻所持罪の故意を認めることができるのかが問題となります。



報道によると、2022年11月にアメフト部員が大麻の使用を自己申告したほか、2023年6月30日に警視庁から部内での薬物使用疑いの情報提供があったようです。これらの経緯からすると、大学側の調査結果で大麻のような植物細片を発見した時点で、「大麻である蓋然性が非常に高い」と判断できたのではないでしょうか



ましてや副学長は法律の素人ではなく元検察官ですから、検察庁の刑事部や公判部で大麻所持罪の証拠品として大麻の現物を嫌というほど見てきたはずです。



このような客観的状況を前提とすれば、仮に100パーセント大麻であるとの確証がなかったとしても、「もしかしたら大麻を含む違法薬物かもしれない」との認識は十分に持てたはずです。



——「違法薬物かもしれない」という認識さえあればいいのでしょうか。



過去の裁判例でも、違法薬物の認識については、必ずしも特定の薬物であるとの認識(「覚せい剤である」とか「ヘロインである」)までは必要なく、違法薬物の「類」の認識で足りるとされています。



たとえば、覚醒剤輸入罪について、覚醒剤との明確な認識がなくても、覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識(概括的故意)で足りるとされています(最高裁平成2年2月9日判決)。



発見された植物細片が「大麻を含む違法薬物かもしれない」などと認識し得たといえる場合には、大麻所持の概括的故意が認められます。



副学長が植物細片を保管していた行為について、保管行為が短期間だったととらえて実際に立件することはなさそうに思いますが、理屈上は大麻所持罪の成立も否定できません。



●自首させようとしたとしても「所持罪の成否に影響しない」

——「学生に反省させて自首をさせたかった」という事情は何か影響しますか。



副学長が犯人である生徒を特定できていたにもかかわらず、自首を促すために12日間も警察に連絡しなかったことが、大麻所持罪の成立に影響を及ぼすことはありません。



自首するように説得する行為は、犯人隠避罪(刑法103条)との関係で、教育者の正当業務行為として違法性が否定(阻却)される可能性はあります。過去には、牧師が牧会活動で犯人を教会に宿泊させつつ説得して任意出頭させた行為について正当業務行為として違法性を阻却した判決があります(神戸簡裁昭和50年2月20日判決)。



大麻所持罪は単純に違法薬物を所持していた事実そのものを罰する刑罰規定ですから、生徒に自首を促すためという理由は違法性を阻却する事由にはなりません。ただ、仮に大麻所持罪で立件された場合、教育者として生徒のために行った行為として有利な情状になることはあり得ると思います。




【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/