トップへ

空気階段が語る『クレヨンしんちゃん』への共感。くだらなさやお下品さで笑えるちょうどいいラインとは

2023年08月03日 18:10  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 吉田真也
Text by 安里和哲
Text by 上村窓

クレヨンしんちゃんシリーズ初の3DCGの 映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』が8月4日(金)に公開される。監督・脚本を務めるのは『モテキ』『バクマン。』などで知られる監督・大根仁。アニメーション初挑戦で、制作期間は約7年を要したという。

そんな注目作の主要キャラクターで初めて声優を務めるのが、お笑いコンビ「空気階段」の鈴木もぐらと水川かたまりだ。『キングオブコント2021』で優勝し、全国各地で行なう単独公演は大盛況。昨今、盛り上がっているコントシーンを牽引する存在ではあるが、一貫して特異な世界観を持つコンビでもある。なぜ、幅広いファンが多い国民的アニメの映画版で、大根監督は空気階段を声優に抜擢したのだろうか。

あらためて考えてみると、『クレヨンしんちゃん(以下、しんちゃん)』のように下ネタの要素がありつつも、思わず笑ってしまう点やストーリーに引き込まれる点は、どことなく空気階段のコントと通じる部分があるのかもしれない。二人は『しんちゃん』に対して、共感や親近感を抱いているのだろうか? 初声優の感想はもちろん、『しんちゃん』のくだらなさやお下品さから生まれる「お笑い」の魅力について、空気階段の二人にじっくり話を聞いた。

空気階段(くうきかいだん)
左から、鈴木もぐら、水川かたまり。2012年、お笑いコンビ結成。2017年にTBSラジオの番組『空気階段の踊り場』がスタート。その後、『キングオブコント2021』で優勝。2023年5月16日から第6回単独公演『無修正』を各地で開催中。千秋楽となる8月31日の東京公演は、夜の公演のみ生配信も行なう。

―空気階段が、あの『しんちゃん』の声優を務めるというニュースを聞いたときは驚きました。『キングオブコント2021』優勝以降の活躍ぶりは目覚ましいものがありますね。

かたまり:ありがとうございます。でも、『しんちゃん』のオファー自体は、優勝前からいただいていたんですよ。大根監督は僕らのラジオ番組『空気階段の踊り場』を以前から聞いてくださってて。それで僕らの声がこの映画に合うと思ってくださったみたいです。

もぐら:ありがたいですね。

かたまり:でも優勝してなかったら、「なんで空気階段なんかが『しんちゃん』の声優やるんだよ」って感じる人も多かったと思うんです。だから本当に優勝できてよかったなと。やっぱりチャンピオンはみんなが信用してくれるので。ようやくクレジットカードもつくれましたし。

もぐら:僕はまだクレジットカードをつくれてないんですよ! さすがに『しんちゃん』の声優やったら信用も回復すると思うので、また申し込んでみます。

―今回の『しんちゃん』はシリーズ初の3DCGだったり、超能力バトルだったり壮大なスケールです。お二人は作品をご覧になっていかがでしたか?

かたまり:正直、3DCGでつくると聞いて「しんちゃんと最新技術が合うのか?」って勝手ながら不安も抱いたんです。でも、アフレコで映像を観たときに、これはとんでもない作品になるぞ……と、ちょっとビビりましたね。

もぐら:これは令和に解き放たれるべき作品ですよ。この3DCGの映画『しんちゃん』が公開されたとき、いったい日本はどうなっちゃうんでしょうね。あらゆる常識が覆るかもしれません。

―本作の完成報告会見で、もぐらさんは『しんちゃん』を4歳のころから観ていたと言っていましたね。このアニメのどんな部分が、もぐら少年を惹きつけたのでしょうか。

もぐら:魅力的なキャラクターたちですね。しんちゃんの友達もみんな個性豊かですし、大人たちが普通じゃないところも好きでした。たとえば、イライラするとでかいウサギのぬいぐるみをぶん殴ってストレス発散するネネちゃんのお母さんがわかりやすいですけど。

ああいう、大人の歪んだ部分がリアルに描かれながらも、ちゃんと笑えるところがいいですよね。いま思うと、自分が子どもの頃に周りにいた大人も、『しんちゃん』の世界の大人と同じように、変わっている人間は少なくなかったですから。

―かたまりさんは、お母さんの教育方針で「観ていいテレビ番組」も制限されていたそうですが、『しんちゃん』はどうでしたか?

かたまり:『しんちゃん』は大丈夫でした。母に禁止されてたのは『金八先生』とかで。それも「偽善だからダメ」っていう理由だったので。

もぐら:水川のお母さんは、独自のラインで規制してるんですよ。お下品かどうかとかの基準ではなくて。

かたまり:子どものかわいらしいお下品は大丈夫でしたね。でも、「ケツだけ星人」とか「ゾーさん、ゾーさん」のマネをすると、「全然かわいくないからやめなさい」って冷たくあしらわれてました。

―空気階段は、単独公演でも下ネタを扱ったコントが多いですよね。それもどこかチャイルディッシュなおかしみのある下ネタだと感じます。

かたまり:たしかにそういうネタをやるのが好きなのも、母親にくだらない下ネタを禁止された反動があるかもしれない。

もぐら:僕も下ネタはおちんちんとか金玉とか、そういうしょうもないのが好きですね。金玉ってモノとして変じゃないですか? あれがぶら下がっているだけで、すげぇ弱そうに見えるというか。ダサすぎますよ。

かたまり:まあ、ブラブラしているし、よくよく考えたらマヌケ感はあるね。

もぐら:金玉とかおちんちんは、取ってつけた感がヤバすぎます。今回『しんちゃん』に出させてもらって、あらためて僕はこういうマヌケな下ネタが好きだなと思いましたね。逆にヤリチンが言う、セックスとかに関する下ネタは許せないんですよ。ああいうのは大嫌いです。

―たしかに空気階段の『クローゼット』というコントも、浮気男役のかたまりさんを、クローゼットに潜むもぐらさんが特殊な能力で罰するネタでした。

かたまり:あのネタは僕が思いついたんですけど、僕も不倫とかヤリチンは許せないですね。

もぐら:誰かが傷ついたり嫌な気持ちになったりしそうな下ネタではなく、『しんちゃん』みたいにくだらなくて思わず笑っちゃうようなラインの下ネタが、ちょうどおもしろいと思います。

―お笑い芸人のお二人から見て、『クレヨンしんちゃん』というフォーマットがお笑いとして優れているのはどんな点だと思いますか?

かたまり:「ケツだけ星人」が成立するのも『しんちゃん』がアニメで、しかも5歳児だからですよね。僕もお尻でギャグとかやりたいですけど、やっぱりアレはしんちゃんにしか許されない。

もぐら:おじさんのお尻は誰も見たくないですからね。僕はお笑いとしての『しんちゃん』は、ツッコミが素晴らしいなと思います。子どものボケに対して、大人がちゃんとツッコむ。ツッコミによって、お互いのキャラクターを観てる人にわからせるところが、お笑いに忠実だなと思います。

―『しんちゃん』の映画は、子どもが笑えるお下品さなどがベースにありつつ、ときおり世間に向けたメッセージ性が込められているので、大人もストーリーに没入してしまう印象があります。空気階段のコントも面白いだけでなく、ストーリー性にも引き込まれるネタが多いと感じますが、そのあたりに『しんちゃん』との共通点、または違いなどは感じますか?

かたまり:うーん。僕らはあくまでもお笑いとして「ウケること」が最優先ですからね。よく言われる「緊張と緩和」で笑いを引き出すとか、ここでウケさせたいからその直前はしっとりさせようってことはしますけど、『しんちゃん』の場合は、明確なメッセージを子どもに伝えるためにも、笑いで飽きさせないっていうポイントもある気がして。ストーリーを構成するうえでの出発点や目的が、少し違うような気はします。

もぐら:僕らと違って『しんちゃん』がすごいのは、長きに渡って多くの人に愛され続けているところですよね。そういう意味では、吉本新喜劇の笑いにも近い印象が個人的にはあります。基本の笑いに忠実ですし、だからこそ老若男女に愛される笑いだなと思いますよ。

―今作もストーリー性と笑いの塩梅が絶妙ですよね。ストーリーとしては、非理谷充(ひりや みつる)という鬱屈とした青年が、偶然得た特殊な能力で社会に復讐していく展開です。空気階段のお二人も、青春時代は鬱屈としていたとよく番組などで言っていますが、どうやってその感情と向き合っていましたか?

かたまり:僕は昔から現在に至るまで、気分が落ちるとめっちゃ走ったり、筋トレしたりしてます。非理谷も、日頃から運動してたらあそこまで鬱屈していなかったかもしれないのに、と思いましたね。

松坂桃李が声優を務めた、非理谷充。バイトはうまくいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていたが、特殊な能力を手に入れて世界への復讐を誓う。 ©U/SCS

もぐら:僕も子どもの頃は運動で発散してましたね。団地に住んでたんですけど、むしゃくしゃしたら、夜中にラケット持って家を飛び出して、外で延々素振りしてました。

―もぐらさんは卓球部でしたよね?

もぐら:はい。卓球のラケットを延々振ってました。いま考えると、夜な夜な卓球ラケットを外で振り回してるのは、普通じゃないですけど、あの頃はそれしかなかったですね。というか、非理谷はかわいそうすぎますよ。運動だけじゃどうにもならないでしょう。

かたまり:たしかに、ただバイトしてただけなのに、事件の犯人と間違われるのはひどすぎるな。

もぐら:あいつは真面目に生きているんですよ! そんなことがあったら社会を恨んでしまうくらい、精神的に追い詰められるのも無理ないですよ。たまったもんじゃない。

―非理谷だけでなく、今作では個性的な新キャラクターが登場しますが、お二人が声優を務めた「池袋教授」と「ヌスットラダマス二世」も印象的でした。声もキャラクターの特徴を見事に捉えていて素晴らしかったですが、初めての声優はいかがでしたか?

かたまり:アフレコのときはもうすでに、ほかのキャストの方々が声を入れていて。そこに自分の声を合わせる作業だったので、ちゃんと馴染まなきゃいけないというプレッシャーがすごかったです。

もぐら:僕も一人で声を入れたので、難しかったです。ほとんどのシーンが鬼頭(明里)さんとのかけ合いなんですが、あらかじめ入ってる声に合わせたかけ合いは大変でした。一緒に「せーの」で話すんじゃなくて、すでに入ってる声に合わせるのは初めてだったので。

鈴木もぐらが声優を務めた役は、本画像でしんちゃんの後ろに立っている男性で、国際エスパー調整委員会の顧問・池袋教授。横の女性が国際エスパー調整委員会の職員・深谷ネギコで、鬼頭明里が声優を務めた。©U/SCS

―今回のアフレコは、昨年の単独ライブ『fart』の合間を縫って行なわれたそうですね。

かたまり:はい。喉を潰すと本当に大変なことになるので、意識的にケアしてました。声優さんが使ってると言われるスロートコートティーを飲んでましたね。

もぐら:僕は喉のケアは、YouTubeのパチンコ番組『くずパチ』で学びました。パチンコで興奮して叫びすぎて、岡野(陽一)さんと何回も喉をやっちゃってるんですよ。それでマネージャーさんにも怒られたので、声の出し方を工夫したり、ハチミツを直で飲んだりするようになって、最近は喉の調子もいいです。

―ちなみに大根監督の演出はいかがでしたか?

もぐら:ありがたいことに、大根監督は僕におまかせしてくれました。池袋教授は見た目通りでイメージしやすかったので、比較的やりやすかったです。多分、僕よりも水川のほうが大変だったかもしれないですね。ヌスットラダマス二世はちょっと複雑なキャラクターなので。

水川かたまりが声優を務めた、ヌスットラダマス二世。ノストラダムスの隣町に住むヌスットラダマスの生まれ変わりを名乗り、世界征服を目論む組織「令和てんぷく団」を率いる ©U/SCS

かたまり:僕はめちゃくちゃ苦労しました。最初にいただいた映像に、仮で声が当てられていたので、それでイメージしてはいたんですけど……。「多分かたまりさんには、出したことのない声を出してもらうことになります」と言われて、ブースに入ってからも細かく調整しました。おそらく100回以上は撮り直しましたね。

―100回以上ですか!?

かたまり:冗談抜きでそれくらいやりました。「もうちょっとダミ声で」とか「ちょっと裏返す感じで」とか、「もうちょっと低く」「もうちょっと高く」って根気強く微調整いただいて。結果的に自分の知らない声を大根監督に引き出してもらいました。

―もぐらさんと違って、かたまりさんはコントでもあまり声色を変えないですし、『空気階段の踊り場』で年に一回行なうモノマネ企画でも、なかなか苦戦していますよね。

かたまり:声色を変えるのはめちゃめちゃ苦手ですね。今年のモノマネ企画は本当にひどかったので、次回のモノマネ企画では大根さんに演出していただきたいです。

もぐら:大根監督にそんなくだらない仕事させるんじゃないよ。