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『呪術廻戦』“最強の呪術師”五条悟が「若人の青春」を守ろうとするワケは? 心に刻まれた“2つの後悔”

2023年08月03日 09:30  リアルサウンド

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コンセプトマスターライン 呪術廻戦 五条 悟/©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

※本稿は、『呪術廻戦』(芥見下々/集英社)のネタバレを含みます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 現在、MBS/TBS系列全国28局にて放送中のテレビアニメ『呪術廻戦』第2期。第1期同様、非常にクオリティの高い映像表現を毎週観ることができるが、とりわけ前回放送(7月27日)の第28話(「懐玉-肆-」)は、あるキャラクターが死線を越えて“覚醒”するという、第2期を通して最も重要なエピソードの1つが描かれていたといってもいいのではないだろうか。


(参考:【写真】これは欲しい……リアルに再現された『呪術廻戦』五条悟のフィギュア


 なお、このテレビアニメ『呪術廻戦』第2期、物語は原作の「渋谷事変」編までが描かれるようだが、“過去”を描いた序盤の5話分(「懐玉・玉折」編)の実質的な主人公は、若かりし頃の呪術高専の教師・五条悟である。


 当時(12年前)の五条はまだ同校の生徒であり、ある時、親友の夏油傑とともに「天元様」の「星漿体」となる少女・天内理子の護衛を命じられる。呪術界の“要”である天元は、不死ではあるが不老ではなく、500年に一度、星漿体に選ばれた人間と適合(同化)することで生きながらえているのだ。


 一方、その陰で呪詛師集団「Q」と宗教団体「盤星教“時の器の会”」という理子の命を狙う2つの勢力も動き出しており、五条と夏油は、両者が放ってくる刺客や懸賞金目当ての呪詛師たちを迎え撃つことになる(が、並みの呪詛師では、“最強コンビ”である五条と夏油には全く歯が立たない)。


 そんななか、しだいに理子は五条と夏油に心を開くようになり、やがて自らの運命に疑問を持つようになる。そして、いままさに天元のもとを訪れようとしていたその時、夏油に向かって、「もっと皆と…一緒にいたい」と正直な想いを打ち明けるのだった。


 その言葉を聞いた夏油は、微笑みながら「帰ろう。理子ちゃん」といい(実は彼と五条は、理子が行きたくないといった場合は、呪術界を敵に回しても彼女を守ると決めていたのだ)、理子の手を取ろうとするのだが、一発の銃声が全てを打ち壊す。


 呪力から脱却した破格の存在(作中の用語でいえば、「天与呪縛によるフィジカルギフテッド」)――伏黒甚爾が、理子を射殺したのだ。そしてそれは、結界の入口付近でその伏黒と戦っていたはずの五条悟が敗れたということをも意味していた……。


■五条の“覚醒”と夏油の“闇落ち”


 結果、夏油もまたその場で伏黒に敗れることになるのだが、同じ頃、死に際で「呪力の核心」を掴んでいた五条は“覚醒”しつつあった。そう、“現代最強の呪術師”を生み出したのは、ある意味では伏黒甚爾なのである。


 こののち、五条と伏黒は盤星教の本部にて、再び壮絶なバトルを繰り広げることになるのだが、別にあらすじを書いているわけではないので、ここから先の展開をだらだらと書くのはよそう。


 いずれにしても、重要なのは、この一件で、五条と夏油の中で“世界”に対する疑問が芽生えたということである。


 だが、まだこの時点では、2人が何か具体的な“事”を起こすというわけではなかった。状況が大きく変わるのは約1年後――ある呪われた村を訪れた夏油が、自分なりの“答え”を見つけた時だろう。


 彼は、手始めに村の人間112名を殺害し、呪術界に反旗を翻す。その行為にはもちろん、親友の五条悟と決別するという強い意志も含まれていた――。


 夏油は、全ての非術師を抹殺し、呪術師だけの世界を作ろうとするのだが、五条はその「生き方」は違うと考える。だからこそ彼は、闇落ちした夏油とは合流せず、呪術高専(呪術界)にとどまることにしたのだ。


■五条悟が「若人(わこうど)の青春」を重視するワケ


 『呪術廻戦 0』の序盤で、五条が教え子の乙骨憂太に向かって、「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人(なんぴと)たりともね」という場面が出てくる。また、『呪術廻戦』本編の第11話でも、彼は虎杖悠仁に向かって同じことをいっている(あらためていうまでもなく、乙骨と虎杖はそれぞれの物語の主人公である)。


 この2つの場面は、いずれも雑誌掲載時の段階ではあまり重要な意味を持っているようには見えなかったかもしれないが(セリフ自体は印象に残ったかもしれないが)、のちに描かれた天内理子をめぐる一件と夏油傑の闇落ちを踏まえて再読してみると、五条の“本心”が垣間見えて興味深い。


 つまり、彼の中では、2つの後悔――「青春」を取り上げられた少女を守り切れなかった後悔と、ともに「青春」時代を過ごした親友の闇落ちを防げなかった後悔が、いまでもかなりの比重を占めているのだと思われる(伏黒甚爾との戦闘中には、「ごめん、天内。俺は今、オマエのために怒ってない」ともいっているが、かといって彼女のことを忘れるはずもないだろう)。


 いずれにせよ、五条は、この狂った世界を完全に破壊しようとしている夏油の方が、実は“正気”なのだということを知っている。さらにいえば、最強の呪術師である自分こそが、それをやるべき存在であるということもわかっている(ある意味では、盤星教の本部で「コイツら、殺すか?」といった時の彼は、その一歩手前まで行っていたといえなくもない)。


 しかし、彼はその“道”を選ばなかった。なぜならそれは、現在の呪術界とは別の巨大な暴力装置が世界を支配するだけのことであり、“何か”が大きく変わるわけではないからだ。


 だからこそ彼は、いま「青春」のまっただなかにいる乙骨憂太や虎杖悠仁らに未来を託し、自らの生きざまを見せ、ともに世界を内側から変えようとしているのではないだろうか。そういう意味では、この『呪術廻戦』という長い物語の真の主人公は、(乙骨でも虎杖でもなく)五条悟であるといってもいいかもしれない。


※本稿で引用した漫画のセリフは、原文の一部に句読点を打ったものです。(筆者)


(文=島田一志)