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全盲のeスポーツプレイヤーたちが開発に協力。『ストリートファイター6』のアクセシビリティ向上はどう実現した?

2023年08月02日 17:10  CINRA.NET

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Text by 島貫泰介
Text by 生田綾

近年のビデオゲームの進化はめざましい。技術の発達で、現実と見まがうようなリアルなグラフィックのゲームがいくつもつくられ、またオンラインを介して国籍や言葉を超えた多様なプレイヤーが仮想世界の冒険や戦いや出会いを楽しんでいる。

しかしそれと並行して、じつは進化し続けているのがユーザーのアクセシビリティ。障がいなどがある人でもゲームを楽しめる工夫の進化だ。その最前線を突き進んでいるのが人気格闘ゲームの最新作『ストリートファイター6』だ。同作では、eスポーツを介した障がい者の就労支援を行なう株式会社ePARAと共同し、対戦相手との距離やお互いのコンディションをサウンドで把握する工夫などが随所に盛り込まれている。

今回、同作を制作したカプコンからディレクターの中山貴之、サウンドチームの渥美格之進、小池義規、ePARAから代表取締役の加藤大貴、ブラインドeスポーツプレイヤーのNAOYA、今回の共同プロジェクトでディレクターを担当した畠山駿也(Jeni)を招き、『ストリートファイター6』のアクセシビリティにまつわる開発秘話を聞く機会を得た。

誰もが楽しみたいゲームだからこそ、実現すべきダイバーシティやアクセシビリティには課題も多いが、だからこそ見えてくる未来や展望がある。多様な立ち位置からゲームを愛する6人に迫る。

取材はカプコン東京支社で実施。左から東京支社に集まったePARA代表取締役の加藤大貴さん、ブラインドeスポーツプレイヤーのNAOYAさん、『ストリートファイター6』ディレクターの中山貴之さん。カプコンの渥美格之進さん、小池義規さんは大阪本社から、畠山駿也(Jeni)さんは岩手からリモートで参加してくれた。

ー『ストリートファイター6』(以下、スト6)では、視覚障がいのあるユーザーのためのサウンドアクセシビリティが非常に充実しています。その開発には、バリアフリーeスポーツ事業を手がけるePARAのみなさんも参加していますが、どのような経緯で今回の取り組みは始まったのでしょうか?

中山:ディレクターの中山です。サウンドアクセシビリティに関して言えば、じつは前作の『ストリートファイターV』から始まっていて、あるユーザーさんからお手紙をいただいたのがきっかけだったんです。

その方はイギリス在住の学生さんで、目で見ることができず音だけを聞いてプレイしているそうでした。そして手紙には「効果音がよくできているので『ストV』は楽しいけれど、たとえばキャラクターが前と後ろにジャンプするときの音が一緒で、自分には位置がちょっと把握しづらい」と書いていたんです。それを受けて、当時のサウンドディレクターと相談してすぐにアップデートしました。それが2017年頃で、そういった前例をふまえて、『スト6』ではアクセシビリティをもっとパワーアップさせていこうということになりました。

渥美:本作サウンドディレクターの渥美です。開発当初は、サウンドアクセシビリティに特化した考え方というよりも、ゲームをプレイしてユーザーがどう感じるか、万人が遊び易いゲームにするためにはどうすれば? という発想からスタートしました。

ー前作や『スト6』の開発が始まった頃は、障がいのあるユーザーに対してなんらかの取り組みを行なっていこうという気運は、ゲーム業界では一般的だったのでしょうか?

加藤:ePARA代表の加藤です。私たちが活動を開始したのが2019年なので、当時の状況は正確にはわかりませんが、障がいのある人もゲームを遊んでいるというのは、ゲーム業界の皆さんも知っていたと思います。ただ大会などで参加者ごとの障がいの有無を把握したうえで運営する、という環境ではなかったと思います。個人情報の問題もありますからね。

中山:そうですね。ですから、イギリスのユーザーからの手紙は僕らにとって新たな気づきだったんです。自分たちは日本にいてゲームをつくっているけれど、個々のプレイ環境の情報までキャッチできる状況は整備しきれていませんでした。ですから、わざわざ手紙までしたためてくれた方がいたことが嬉しかったんです。ちゃんと改善のための例も挙げてくださっていて、本当に勉強になりました。

『ストリートファイター6』には、従来の対戦格闘を継承した「ファイティンググラウンド」に加えて、新登場のシングルプレイヤー用のストーリーモード「ワールドツアー」や、全世界のプレイヤーと交流できるモード「バトルハブ」が搭載されている。 / ©CAPCOM CO., LTD. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.

加藤:畠山さんは長く『ストリートファイター』シリーズを遊んでいるから、その感覚がわかるんじゃないですか?

畠山:Jeniというプレイヤーネームでも活動している畠山です。私は筋ジストロフィーという病気で、電動車いすに乗って生活しています。格闘ゲームを本格的に遊ぶようになったのが、いまから10年以上前の高校3年生頃で、『ストリートファイターIV』シリーズから格闘ゲームを始めました。

格闘ゲームはゲームセンター仕様のアーケードコントローラーで遊ぶのが主流だったのですが、僕にはそれは難しく、家庭用のパッドでプレイしていました。その後、病気が進行して何年かゲームが遊べない時期があったのですが、どうしても遊びたくなってしまって、自作のコントローラーを開発して、顎で操作する専用レバーと手元で軽く押せるボタンを組み合わせてプレイしてきました。

Jeniさん自作のコントローラー

ー今年6月にリリースした『スト6』はシステムでもビジュアルでもリッチな仕上がりになっています。複雑なコマンド操作をしなくても簡単なボタンの組み合わせで必殺技を放つことのできる「モダン」操作だとか、格闘ゲームを始める人のために門戸を広げる工夫が随所にあります。そういったなかでePARAさんとはどのように協働を進めてきたのでしょうか?

渥美:開発がある程度進んだタイミングで、中山から先ほどの手紙の話、既存のサウンド設計では音だけで位置関係や対戦相手との距離が掴みづらいという話がありました。『ストリートファイター』のサウンドはサラウンドで設計しているので、キャラクターが左右に移動すると足音がパンニング(音を左右に配置したり、位置に応じて変化させたりすること)して、いま画面のどちら側にいるかはなんとなくわかる。でも、それだけでは距離感は掴めないんですよね。これを通常のシステム設計で解決するのは不可能だと判断して、であればオプション選択でわかりやすくする音を加えてみることにしました。

そこで、操作しているキャラクター間の距離を数値として計測して、対戦中はつねにループのサイン波みたいな音を流しておいて、距離に応じて音程を変えればその変化がわかるんじゃないかとか、おなじみの波動拳コマンドの入力も位置によって反転するので、キャラクターの場所に応じて音の質感が変わるとか、いろんな機能を盛り込んでみました。

正直に言うと、そのほかの作業も詰まっている状態で今回が難しければ次作でも……という話もしていたんです。でも『スト6』発売という出来事は一生にこの一回しかない。だったら、あとで後悔しないように思いっきりやってやろうと。

ー距離で音程が変わるのは、潜水艦のソナーみたいですね。音を発して、返ってくる時間の長さや間隔で相手の位置を把握する。

渥美:それらをひと通り組んでみたものの、それだけでは目が見える開発陣の勘にもとづいた実験でしかない。そこで、サウンドチームのマネージャーの小池を介して、ePARAさんと関わりを持つようになりました。

小池:サウンドマネージャーの小池です。ePARAさんの活動は知っていたのですが、具体的に一緒に何かをするのは今回が初めてだったので、公式の問い合わせフォームからご連絡したのが最初でした。

加藤:「(カプコンから)すごい問い合わせが来たぞ!」と全員ざわつきましたよ(笑)。もちろん最初は『スト6』のタイトルも伏せられていたので、具体的にどんな協力ができるかはわからなかったのですが、ePARAでは色覚多様性を持つ方にアイケアモニターという目に優しいモニターのテストをしてもらい、レポートを企業に提出するといった業務を行なっていましたから、「ぜひお話したいです!」とご返信しました。

ーePARAでは障がいのある方の就労支援も行っているんですよね。

加藤:そもそも私は福祉業界の一職員だったのですが、ゲームを介した障がい者の活躍支援ができないかと考えて、『ぷよぷよ』と『鉄拳7』の障がい者eスポーツ大会を開催したのがePARA立ち上げのきっかけです。『鉄拳』シリーズのプロデューサーである原田(勝弘)さんたちにも来ていただき、この取り組みを好意的に受け取ってもらえました。そして、翌年には株式会社化しています。

ePARAの活動写真

加藤:現在はイベントの企画・運営と並行して、eスポーツに関わることで就職・就労までつながる支援をしています。また、「Fortia(フォルティア)」という障がい者によるeスポーツチームの発足にも関わっていて、目の見えないプレイヤーならば「ブラインドフォルティア」、聴覚障がいであれば「デフフォルティア」といったさまざまなユニットの活動を支援しています。今回参加しているNAOYAさんも、活動のなかからデビューしたブラインドeスポーツプレイヤーで、『スト6』のテストプレイにも参加しています。

渥美:正確に言うと、最初はテストプレイの依頼ではなかったんです。さきほど話していたソナーのような方法で距離情報がちゃんと提示できているか。ダメならばどうすればいいかについてご意見をいただけたらな、ぐらいで。でも、打ち合わせの段階で加藤さんと話していると、ちょいちょい「ほかにも気になったことがあったら言っていいですか……?」とおっしゃっていて、「おや?」と(笑)。

小池:僕らがつくったテスト動画を見ていただきレビューを提出していただいたら……およそ数十ページに及ぶものすごい量のプレゼンテーションが届いたんです! 渥美とファイルを開いて「おお!」と唸りました。

加藤:申し訳ない気持ちでいっぱいです! ePARA的に「ここが勝負どころだ!」と思ったんですよね。

渥美:素晴らしかったです。僕らが「これでいけるかな?」と思ってつくったものが、NAOYAさんや畠山さんからすると全然わからないってことがはっきりしましたし、その改善のための提案も細かく書いてくださいました。改善の提案は、距離情報を示唆する機能以外のサウンド表現にも及び、内容によっては土台となるプログラムの仕様上できないこともあったのですが、「こうなったらできる限りやったろ!」という方向に舵を切れました。

それと、これはいつもゲーム開発で心がけていることなんですが、とことんまでつくっておいて「次回作つくる奴ら、困れ!」と意地悪く思ってるんですよ。

一堂:笑

渥美:でも、実際には次回作に関わるのは自分たちだったりするので、自分たちが苦しむだけなんですけどね(苦笑)。

ーそういったやりとりを繰り返して、いよいよテストプレイに進んでいったと。ePARAさんは、具体的にどういった指摘をなさったのでしょうか?

NAOYA:ePARAプレイヤーのNAOYAです。距離音の情報以外だと、現在の体力の状況を通知してほしいとか、攻撃が当たったときにその攻撃が上段なのか中断なのか下段なのかわかるように音で通知してほしいとか。それから「めくり」(ジャンプしながら攻撃する際に、打撃が相手キャラクターの背面に当たること)がヒットしたときも違った音が鳴ってほしいなど、いろいろありましたね。

「こんなにリクエストしていいのだろうか?」と思っていたのですが、段階が進むたびにどんどん機能が加わっていって。楽しいテストプレイでした!

全盲のeスポーツプレイヤー3人が『ストリートファイター6』をプレイし、サウンドアクセシビリティを分析する様子

畠山:僕がePARAに入社したのが約2年前。その直後でこのプロジェクトを知ることになったので、本当にミラクルだと思いました。長年『ストリートファイター』をプレイしていましたから、上中下段攻撃の識別など、この音声情報がなければeスポーツ競技として成り立たないだろう要素は想定できました。で、まずは全部リスト化して出しちゃえと。

加藤:余談ですけど、はじめて『スト6』の動画を見たときの畠山さんの反応が忘れられないです。守秘義務の契約を結んだ後に流れた映像を見て、畠山さんが「気絶しそうです……!」と。

全員:笑

ー同じゲームファンとして、誰よりも早く見れたのが本当に羨ましい!

畠山:最初に動画を見た瞬間は、何が起こっているかわからず直視できなかったです(笑)。

NAOYA:ひょっとしたら、私たちが『スト6』を一番最初にプレイした一般人だったんじゃないでしょうか?

中山:その通りです!

加藤:世界最速の一般人プレー! ちょっと誇っていいかなと思います。

小池:みなさんの熱意のおかげで、ぐっとよくなったところばかりです。距離を示すサイン波にしても、ずっと音が継続していると耳が疲れてしまうので、「ピッピッピッ」というドット音に変わりました。

渥美:それでもまだBGMなどの他の音に混ざる可能性があるのがわかって「ポイッポイッポイッ」という、現在のスイープするような音に改良したり。

まだまだ改善の余地がありますし、細かいディテールまで理解しきれてないと痛感するんですけど、今回の共同作業で、いかに自分たちが視覚情報で補完して音を聴いているかということに気づきました。絵があることで認識できている音が、目を瞑ると確かに認識出来なくなったり、根本的に音の聴き方・捉え方がぜんぜん違う。

NAOYA:サウンドアクセシビリティの全体については自分でもうまく整理できてないのですが、『ストV』をやっていた頃はだいぶ勘に頼ってプレイしていたんですよね。「この距離だったらキックの中攻撃が当たるかな?」とか「強めの必殺技が当たるかな?」ぐらいで。それが今回は距離音の情報精度が飛躍的に向上して、「距離がわかるって、なんて素晴らしいことなんだ!」って改めて思っています。

加藤:モノラルよりもステレオのほうが左右の情報があるので、NAOYAさんたちにとってもプレイしやすいだろうと僕なんかは思いがちなんですけど、必ずしもそうでなかったりする。勝手な思い込みではダメなんです。

たとえば、視覚障がいのあるユーザーにとってやりやすいと認知されている格闘ゲームって『スカルガールズ』なんですよ。アメリカで同人ゲームとして開発された作品で、『ストリートファイター』や『鉄拳』シリーズと比べたらかなりマイナーじゃないですか。

NAOYA:『スカルガールズ』は、音声読み上げソフトの汎用性が非常に高くて、画面の内容をすべて自分一人で把握できるんです。ほかのゲームだと、音の設定を確実にセットするには別の人の補助が必要な場合がほとんど。

加藤:どうしても伴走者がいないとゲームに100%向き合えない状況があるんですよね。そのあたりはソフト側だけじゃなくプラットフォーム側の事情もありますが、どんどん改善されていってほしいなと思っています。

渥美:『スト6』では、サウンドアクセシビリティが充実していったことで予想外の反応もありました。開発チームには格闘ゲームが上手な人から苦手な人までいろんなスタッフがいるのですが、「めくり」の音や上中下段のダメージ判別音をオンにすることで、プレイしやすくなったという声がありました。目の見えないユーザー向けの取り組みではあったけれど、それが根本的に万人の遊び易さに関わるものにどんどん近づいていったのが面白いなと。

近年のゲーム表現ってどんどんリッチになってきて、音の表現や音数も豪華になっている反面、ごちゃっとしているところもあると思うんです。でも大昔のファミコンの頃は、限られた音数だったからこそ的確なところに音が付けられていて、すごくわかりやすく遊び易かった。

僕らも忘れていたゲームづくりの基礎みたいなのものに、今回あらためて触れることができました。ほんまの意味で多くの人に遊んでもらうには、もう1回基礎の基礎に立ち返って、いろんなもんを見直さなあかん時期が来てるんかもなと、個人的に感じています。

加藤:それは、我々福祉の世界の人間にも刺さる言葉です。アクセシビリティや情報保証は、決して障がい者のためだけではないと言われていて、動画の字幕表示を付けることで電車の中で見られるとか、障がいのない人にとっても情報を取りやすくなるんです。大事なのは、当事者の意見を聞いて、選べる選択肢を社会がたくさん用意すること。それが普遍性につながっていくと思います。

NAOYA:『スト6』は各効果音の音量設定をかなり細かく変更できるのが本当に嬉しい。『V』だとステージの水音がほかの音をかき消しちゃうようなシーンもあったので、すごくプレイしやすくなってます。

渥美:効果音の調整カテゴリの追加も、ePARAさんのレビューのおかげです。

加藤:伝わって嬉しいです。

ーみなさん、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの取り組みが今後どのように発展していってほしいと思いますか?

中山:自分ごとで恐縮なんですが、じつは自分も生まれつき片目の視力がほとんどなくて、視差を使った立体視ができないんです。任天堂さんのハードで「ニンテンドー3DS」がありますが、開発者なのに立体視を体験できなかったことがショックだったんです。自分がこれから仕事をやっていくうえで、不可能な体験があるということに対しての恐怖感があって、それもあって『ストV』のときにいただいた手紙が自分の背中を押してくれたところがあるんです。

『スト6』を発売して、主にSNSを介して目の見えない方を含め、いろんな方が感想や意見を表明してくださっていますが、ぜひこれからもどんどん発信してほしいです。声があることで、開発もどんどん改善していくことができるので。

加藤:「部活動」と称してDiscord(ゲーム開発者などのエンジニアが多く参加しているSNS)で毎週活動しているのですが、『スト6』発売後に、ふだんは障がいごとの部屋に分かれていた活動を、一度みんなまとまってやってみたんです。ブラインドの方も交代でやるし、聴覚障がいの方も手話通訳や文字起こしのサポーターの方の伴走を得て、一緒にわいわい盛り上がって。ものすごいダイバーシティのある空間でした。アクセシビリティの配慮がある『スト6』があり、でもまだそれだけでは快適なゲームプレイを実現できない人をサポートする。足りないところをみんなの工夫で乗り越え、その工夫も楽しむぞ、みたいな。

ePARAでは、「心眼CUP」という先天性全盲の方だけの格闘ゲームイベントも企画していますが、『スト6』の登場ですごく夢が膨らんでいる状態がいまですね。

格闘ゲームイベントの写真

NAOYA:ゲームに興味はあるけど、実際やってみたら得られる情報が少なくて結局面白くなくてやめてしまうって視覚に障がいがある人は本当に多いんです。でも、ちょっと騙されたと思って「一緒にスト6やろうぜ!」ぐらいな感覚で参加してくれたらなと思ってます。

畠山:私は、初期プレイアブルキャラクターにディージェイが出たのが何より嬉しかったです。そう言いながら、最近はエドモンド本田に浮気しちゃってるんですが……(苦笑)。

病気でゲームから離れていた時期があると言いましたが、『ストV』で、エドっていう今回のモダン操作につながるような簡単な操作方法で動かせるキャラクターが登場したのも、格闘ゲームに戻ったきっかけの一つでした。今回はその工夫が全キャラクターに採用されていてとっても嬉しい。

加藤:モダン操作はいいですよね。「重度障がい児の方が遊べるゲームがありませんか?」という問い合わせを、医療機関や親御さんから受けることが非常に多いのですが、これまでは視線誘導、いわゆるゲイズインプット用につくられたカジュアルなゲームぐらいしかおすすめできなかったんです。でも、モダン操作であれば、視線入力できるデバイスと併用して格闘ゲームを自在に遊べる可能性が飛躍的に高まりそうです。ePARAでも、視線入力に特化した大会を実現してみたいんです。

中山:対戦格闘ゲームのいいところって、いろんな状況の方もプレイできて、試合などを通してコミュニケーションが取れることです。まだ自分たちにはわからないことがいっぱいあるんですけど、できる限り知見をどんどん広げていって、いつか世界中の誰とでも対戦できるようにしていきたいです。

これはオフラインだけの機能になっちゃうんですけど、今回「ダイナミック」という操作方法も導入していて、ボタンを押すと相手との距離をAIが自動で判断して、最適な攻撃をしてくれるんです。これは単にAIに頼っているという話ではなくて、プレイヤーがボタンを押して攻撃したいという意志をゲームに反映させる一つのアイデアだと思っているんですね。そういうチャレンジや取り組みは、これからもどんどんやっていきたいです。

畠山:今年の9月末に僕が住んでいる岩手県で僕が主催するバリアフリーeスポーツ交流会を開催するのですが、モダン操作があれば、障がいのある人も、ゲームに苦手意識を持っていた人も『スト6』に飛び込んでいけるはず。モダン操作の布教のために、体験会や大会を盛り上げていきたいです。

中山:最後に一個だけ、反省したことを告白していいですか? 今回、アナウンサーや俳優の方を起用した実況機能が入っているんですよ。これもプレイのサポートの役に立つかと思っていたのですが、テストプレイ時にNAOYAさんから「むしろ邪魔です」と言われてしまって。これも自分の勝手な思い込みによる取り組みだったので、率直に感想を言ってくれたのがありがたかったのですが……。

NAOYA:実況に関しては、自分の発言を撤回させていただきたいと思っております!

中山:え、そうなんですか!

NAOYA:いまは実況がめちゃくちゃ面白いです。テストプレイ時は、自分のなかでの実況の位置づけが曖昧だったんですよ。ブラインドの人たちの状況把握のための機能としてはリアルタイムに鳴っているドット音がその役割を果たしていますからね。

NAOYA:でも、実況が試合展開の状況を教えてくれたり、「ドライブインパクト」(『スト6』で新たに採用されたシステム。相手の体勢を崩して、攻撃のチャンスをつくる)を空振りすると、その隙の大きさだったり、じつはそこから次の攻撃につながるっていう情報を教えてくれたりするんです。実況を通した勉強が可能なんです。もちろん実況のボリュームも調整できるので、ちょうどいい具合のバランスにすれば、音の情報も実況も両方聴けてめちゃくちゃ助かってます。あと単純に、実況が褒めてくれるのでモチベーションがあがりますよね。なので、先の「邪魔ですね」発言は撤回いたします。申し訳ありませんでした!

中山:じつは、実況問題がずっと心残りだったんですよー! だから、まさにいまここでめちゃくちゃ報われてます。今年一番の嬉しさかも知れない(笑)。

NAOYA:僕もここに来た甲斐がありました!