2023年08月02日 10:01 弁護士ドットコム
新型コロナが5類になっても、インフルエンザやヘルパンギーナなど感染症の流行は、やむ気配がない。解熱剤や咳止め薬、総合感冒薬などの市販薬が、24時間営業のドラッグストアやインターネットで買えるのは顧客にとって安心感がある。
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しかし、一部で濫用のおそれがあるなどの指摘があり、厚労省は今年4月に規制を強化。1000を超える種類が個数制限などの対象となった。ドラッグストア業界は対応に追われ、実際に顧客対応する薬剤師や医薬品登録販売者らも困惑気味だ。
さらに、2020年12月に判明したジェネリック薬製造業者の不祥事による影響もいまだ続いており、現在、医薬品は供給不安だという。店頭での苦悩について聞いた。
東京都新宿区にある龍生堂では、薬剤師110人、登録販売者80人と店頭に立つ約9割が有資格者だ。今年6月に「濫用等のおそれのある医薬品」の販売について実態調査をおこなったところ、「明らかに本来の服用目的ではない可能性が高い客に販売したことがある」と答えたのが4割だった。
他店舗での購入を目撃していたり、再来店だと認識していたりしても「返事がない」「買っていない」などの態度で、やむを得なかったとの回答があった。
経営企画室長の岸邉廣志さんは「私たちは資格を持って、症状に応じた薬を販売することが業務であり、責務です。個数制限がある場合は、なぜ売ってはいけないかを説明する責任があります」と強調する。
大半の客は納得してくれるものの、「いいから売ってくれ」「家族が多いから必要だ」「薬物濫用者扱いするのか」などと言われることもある。必要以上に病状に立ち入ればクレームにもつながるため、丁寧な接客を心がけているという。
近年、10代を中心とする若者による市販薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)が指摘されるようになった。SNS上には動画があふれ、死につながる危険性を訴える医師もいる。
「弊社の場合は9割が薬剤師と医薬品登録販売者の資格者で、しつこいくらいに症状を聞くことにしている。あそこに行くと面倒だな、と来なくなることも想定される。売上は上げなければならないが、信頼も重要。痛し痒しです」(岸邉さん)
ドラッグストア業界は急成長を遂げている。経済産業省の商業動態統計によると、2022年のドラッグストアの商品販売額は7.7兆円、店舗数は18429店と、ともに右肩上がりとなっている。
24時間営業のチェーンもあり、地方では広大な店舗に従業員が数人しかいないところもある。万引きや個数制限に必ずしも対応できる体制とはいえない。
約120社でつくる日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)も、店頭に表示するPOPやチラシなどによって周知を呼びかけるものの、販売側でできる対策に限界はあると訴える。岸邉さんは「もし本腰を入れてOD対策をするならば、メーカーや厚労省、各自治体等との連携を強化し、企業として売上が下がることも覚悟した上で取り組まなければならないくらいの問題だ」と話す。
ある従業員は「お客さんに対して『国が決めているから』と言っても、なかなか伝わらない。お年寄りに、お店に来られないから風邪薬をまとめて買いたいといわれると、心苦しい思いもあります」と話す。
セルフメディケーションが進む中、年齢確認などの手順を担うことになるドラッグストア窓口の役割は増える一方だ。厚労省による規制強化の裏側では、こうした現場の苦悩が起きている。