2023年07月30日 09:51 弁護士ドットコム
「即金」「高収入」などを掲げて、詐欺や強盗などの犯罪に加担させる「闇バイト」が横行している。警察庁によると、特殊詐欺の検挙人員は2015年から2022年まで毎年2000人超。専門家は「多くが闇バイト。破滅への一方通行しかない」と指摘する。
【関連記事:「16歳の私が、性欲の対象にされるなんて」 高校時代の性被害、断れなかった理由】
2023年6月には、実際に求人に問い合わせた男性のツイートが話題になった。実家の連絡先を聞き出し、逃げられないようにするための手口が綴られている。
足を踏み入れれば、後戻りできない現実が待っている。トカゲのしっぽ切りのように利用された挙句に実刑判決を受け、実名報道によるデジタルタトゥーが社会復帰を阻む。
男性は、特殊詐欺に手を染めた経験があるフナイム(通称名)さんだ。目先の金に目がくらんだ結果、実刑判決を受けた。妻子を含めて失ったものの大きさは計り知れない。出所後は元受刑者であることを公にして発信し続けている。同じ道を歩んでほしくないためだ。
闇バイトに問い合わせたのは、実態を明らかにして注意喚起するため。フナイムさんのもとには、軽い気持ちで手を出そうとした20代の若者を中心に「実家の住所や銀行口座を教えてしまった」「やめると言ったら『もう一度やらなければ警察にバラす』と脅されている」などの相談が複数寄せられているという。
「たった1回の闇バイトでも、犯罪に加担すれば『破滅』への道が待ち受けている」。こう指摘するのは、犯罪学者の廣末登さん(龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)だ。
2023年7月に出版した著書『闇バイトー凶悪化する若者のリアル』には、詐欺やタタキ(強盗)に関わった当事者たちの声が綴られている。あらゆるリスクを背負わされた挙げ句に使い捨てられ、すべてを失う現実が浮き彫りにされている。
逮捕されるのは主犯格ではなく「捨てゴマ」のバイトがほとんどだ。実刑判決になる可能性は高く、出所後も元の生活に戻ることはできない。退学や解雇は避けられず、銀行口座を持つこともできないという。選べる仕事も限られる。実名報道されれば、なおさらだ。
廣末さんは「犯罪傾向が進んでいない初犯者でも、ワンストライクでアウトになる現状には疑問」としたうえで「社会から排除されれば裏社会で生きていかなければならなくなる」と指摘する。「人生をやり直す機会がなければ、失うものがない無敵の人になる」。
やめたくても、道を引き返すことは容易ではない。刑務所に入れられることを恐れて自首できなかったり、脅されてやめられなくなったりする人もいるという。
「住所などの個人情報を知られて『家に行くぞ』と言われた男性もいます。奥さんや子どもに危害が加わることを恐れ、続けてしまったそうです。大手企業に勤務しながら副業する有資格者でしたが、闇バイトに手を出して実刑になり、多くを失いました」
男性は社会復帰後に銀行口座を持つことができず、協力雇用主につながったものの年収が半減。元の生活が忘れられず、最終的にマルチ商法に手を出してしまったという。
絶対に手を染めてはならないーー。警鐘を鳴らし続けても、闇バイトに応募する人は後を絶たない。「1日に10万円は確実に稼げる」「現金で手渡し」などの文言につられて、軽い気持ちで応募してしまう。
廣末さんは「闇バイト自体を知らない学生や保護者も多い」と指摘する。非常勤講師を務める大学では、インターネットを含むニュースを読んでいるのは90人中1人のみだった。早い段階から学校で子どもたちに教えたり、保護者に説明したりする必要があると訴える。
フナイムさんは、高齢者をだます特殊詐欺の手口として「相手の感情のジェットコースターをつくれ」と教わったことを振り返った。
「まずは『声が素敵ですね』などと相手をほめる【喜】。そして、相手が違法なことをしたと指摘する。否定されたら『知らないでは済まされませんよ』と返し、言い合う【怒】。その後『あなたは悪くなかったんですね』と共に悲しむ素振りを見せ【哀】、最後に『あなたを助けたい。一緒にがんばりましょう』と【楽】を与えるんです」
マニュアル通りにこなすうちに罪悪感は薄れ、金を受け取れば僅かな罪の意識さえ吹き飛ぶ。抜けられなくなった末に「すべてを失った」とし、次のように警鐘を鳴らす。
「今の生活に『刺激がない』『つまらない』と思うこともあるかもしれません。でも、家があって、スマホがみられる生活は当たり前じゃない。刑務所の中でスマホは使えませんし、社会に戻った後もバッシングされたり、住む場所がなかったりする。今の生活は当たり前ではないんです」