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国産人気ウイスキーが酒屋から消えた…定価2倍超の取引実態も サントリー「困惑している」

2023年07月30日 09:31  弁護士ドットコム

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「山崎」「白州」「竹鶴」など、国産人気ウイスキーの品不足が続いている。酒屋やスーパーなどの店頭に並ぶのはレアで、抽選販売やほかの銘柄とのセット販売を行っている店もある。定価よりはるかに高い価格で販売しているケースも見られる。ネットも同様で、「山崎」を例に挙げると、メーカーの希望小売価格は4500円だが、1万円以上で販売・出品されていることもざらだ。


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愛好家たちのSNSを覗くと、「定価で買えました、ラッキー!」「うらやましい!」というやり取りがよく交わされ、やはり品不足の現状が伺える。



私事だが、筆者は都内でバーを経営している。物価上昇に伴って、酒類全般の値上げは実感しているが、特に国産人気ウイスキーの品不足・価格高騰は顕著に感じている。約10年前は近くの酒屋で、当たり前のように定価で購入できた銘柄が、ここ3~4年は入荷すらなくなっているのだ。このような状況になった理由や今後の見通し、消費者や小売店の思いなどを取材した。(ジャーナリスト/肥沼和之)



●国産ウイスキーの品不足・価格高騰の理由は?

国産ウイスキーの品不足・価格高騰している理由として、日本洋酒酒造組合の専務理事・新井智男氏は、いくつかの要因があると説明する。



「(2000年代から)国際的なコンペティションで日本のウイスキーの受賞が続き、世界的に評価が高まって、国内外の消費者から注目が集まるようになりました。また2014年~2015年にNHKの連続テレビ小説『マッサン』で、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏がモデルになったり、新しい飲み方としてハイボールがブームになったりして、ここ10数年の間、消費が伸びてきました」



現在のようなブームになるまで、ウイスキー市場はしばらくの間冬の時代が続いていたという。2008年の消費量は7万4000キロリットルで、1983年のピーク時の約5分の1にまで減っていた(※東洋経済オンライン『日本が世界5大ウイスキーに入った衝撃的理由』)。



メーカーが保有する生産設備も、当時の流通量に合わせた規模のもの。需要の急拡大に伴い、各社は積極的に投資して生産設備を増強しているが、ウイスキーの特性上、すぐに商品として完成させることができない。樽に入れて、短くても3~5年、長ければ10年以上も貯蔵する必要があるからだ。



●愛好家からは「むしろこれまでが安すぎた」の声も

定価以上の価格で販売・転売されている状況について、新井氏は「ウイスキーに限らず、人気のあるブランド物はそういう現象がよく起こるのではないか。自由経済の下で規制するという訳にもいかないであろうし、そもそも転売や投資の対象になること自体を頭から悪と決めつけることはできないと思う」としつつ、胸の内をこう明かす。



「しかし、結果としてウイスキー愛飲家の方の手に入りにくくなっているとすれば、好ましいとは言えないと思います。国産ウイスキーの人気が出るのはいいことですが、当然一般の消費者の手に入りやすいほうが望ましいと思います」



ウイスキー愛好家たちにも話を聞くと、品不足・価格高騰の現状を嘆きつつも、冷静に受け止めている人が多い印象だった。



「あらゆる物価が上昇しているなか、当然だと思う」「ウイスキーは嗜好品なので仕方ない」「むしろこれまでが安すぎて、正常に戻ってきているのでは」などの声があり、メーカーの対応や転売する人を批判する意見はほぼなかった。



確かに、ウイスキーは嗜好品であることから、生活に直接的な影響はない。一部の銘柄が手に入りづらくなっても、ほかの自分好みの銘柄を探す楽しみもあるのかもしれない。



●「今の状況は正常ではない。ブームが早く去ってほしい」

一方で、大きな影響を受けていると話すのが小売店だ。いわゆる「町の酒屋さん」の店主に話を聞くと、近年、人気の国産ウイスキーはほぼ入荷がないという。メーカーにリクエストをしても状況は変わらない。



「大手の酒屋にはウイスキーが回っていると聞きます。うちみたいな小さい店とは販売量が違うので、仕方ないと言えば仕方ないですが、できたら少しは回してほしい。(お取引先の)飲食店が、ほかの酒屋さんに移ってしまわないか怖いです」



そして、「今の状況は正常ではない。正直、ブームが早く去ってほしい」と本音を吐露した。少し離れたエリアの、同じく町の酒屋さんもほぼ同じ意見だった。さらに、商品を仕入れる卸業者から強気な提案があることも明かした。



「お酒は問屋さん経由で入ってくるのですが、提示される価格がすごく高いんです。大手の酒屋は定価だと思うのですが、うちみたいな店は違って。その価格でも仕入れるかどうか、判断するしかない。ほかの商品も一緒に買わないと(品薄の国産人気ウイスキーを)回してもらえない、ということもあります」



本意ではないが、訪日客が買っていくこともあるため、定価以上の価格で仕入れ、販売することもあるという。実際、そのお店の棚には、本来の価格とは程遠い、1万円~数万円の値付けがされたウイスキーが並ぶ。店主は「こんな高値だと今は外国人しか買えませんよね。日本の庶民の人も買えるようになれば」とつぶやいた。



一方で、銀座の高級クラブを主な取引先としている酒屋は、銘柄にもよるが、国産人気ウイスキーは通常通り入荷できていると明かした。数十年寝かせたプレミアムウイスキーも、定期的に定価で入ってくるという。販売量・販売力・販売金額、エリアなどによって、仕入れの量や優先順位が変わる。ビジネスである以上、メーカーや問屋の方針は致し方ないのだろうが、同じ酒屋でも対照的な声を聞くと胸が痛む。



●サントリーは「大きく乖離した価格で取引されていることに対しては困惑」

「山崎」「白州」などを製造・販売するサントリーの広報担当にも話を聞いた。同社は将来に渡って継続して国産ウイスキーの出荷ができるよう、2013年以降累計700億円規模の設備投資や計画出荷を行い、供給体制の強化に努めているという。



取材した小売店の声を伝え、それに対してどのような思いかを聞くと、「ご愛飲いただいているお客様にご迷惑おかけしている状況が続いており大変申し訳なく思っており、サントリーウイスキーが希望小売価格と大きく乖離した価格で取引されていることに対しては困惑している」とした。



品不足・価格高騰の状況がどうなるか、今後の見通しについては、「昨今のウイスキー人気は底堅いと考えており、市場拡大は継続していく可能性が高いと考える。当社としては、供給体制を整えてきている結果、出荷量は着実に増えており、生産拡大に向けた取り組みを継続して行っていく」と見解を述べた。



筆者のバーには、約10年前には当たり前のように国産人気ウイスキーがメニューにあったが、いつからか入手できなくなり、ほかの銘柄に変えざるを得なくなった。やがてその銘柄も仕入れられず、また変えた。



特に営業に支障はないのだが、やはり少し寂しい気持ちはある。お客さんがたまにぜいたくしたいとき、定番の美味しいお酒を、適正価格で飲んでほしい。筆者自身もウイスキー好きとして楽しみたいし、お世話になった人へ贈り物として渡したい。



日常に国産人気ウイスキーが戻ってくる日は、いつになるだろうか。