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ビッグモーター経営陣の刑事責任どうなる? 元検事が今後の展開を分析

2023年07月29日 09:40  弁護士ドットコム

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中古車販売大手ビッグモーターによる自動車保険の保険金不正請求問題が波紋を広げている。


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車両を故意に傷つける、損害保険会社に修理代を水増し請求するなどの不正行為が全国の工場でおこなわれていたと特別調査委員会による調査報告書が認定。元従業員などが不正の手口をメディア等に明かすなど、次々と問題が噴出している。



7月25日には経営陣が記者会見を開き、不正について「知らなかった」と釈明したが、騒動はしばらく収まりそうにない。



もし調査報告書のとおりの不正がおこなわれていたならば、法的責任の追及は免れそうにないが、会社や経営陣の刑事責任はどうなるだろうか。元検事で企業不祥事に詳しい高橋麻理弁護士に聞いた。



●経営陣の刑事責任「犯罪行為を認識していたか否かがカギ」

——さまざまな不正が調査報告書で明らかにされていました。



調査報告書で認定された「不適切な行為」のうち、刑事処罰の対象となり得る行為は、大きく2つに分類できると考えます。



1つ目は、物理的に修理車両の車体を傷付けるなどして、入庫時には存在しなかった損傷を新たに作出する行為です。これは「器物損壊罪」に該当し得ます。



調査報告書では、行為の具体例として、ヘッドライトのカバーを割る、ドライバーで車体を引っ搔いて傷を付けるなどが挙げられていました。



2つ目は、わざと作出した損傷をもとに修理費を水増しするなどさまざまな手段を用いてうその保険金請求をする行為です。これは「詐欺罪」に該当し得ます。  



——これらの犯罪は、会社または経営陣に成立し得るのでしょうか。



まず、ビッグモーター社(法人)に器物損壊罪、詐欺罪は成立しません。



刑法上の犯罪は基本的に「自然人」による行為を前提としており、法人に刑事責任が成立するためには、犯罪の行為者と一定の関係にある法人をも処罰する規定(両罰規定)が必要となります。器物損壊罪、詐欺罪にはこの両罰規定が存在しないためです。



では、自然人である経営陣にこれらの犯罪が成立し得るかというと、各犯罪の背景としてガバナンス機能不全などの組織的な問題があったとしても、それを理由に当然に経営陣に犯罪が成立するわけではありません。



経営陣がそれぞれ、現場で行われていた各犯罪行為について認識していたことを前提に、実行犯らとともに犯罪を実行したと評価し得る事実関係があったか否かで結論は変わり得るところだと考えます。



調査報告書では、経営陣(社長、副社長、BP=板金・塗装部門=本部長ら)が、現場で行われていた各犯罪行為について認識がなかったと弁明している旨の記載があります。一方で、不適切行為に関し、現場の作業員が社長、副社長に訴えた経緯に関する記載もあり、経営陣による認識の有無が問題となり得るところだと考えます。



●「経営陣の刑事責任追及には立証上のハードルも」

——調査報告書は捜査でどのような扱いをされるのでしょうか。



捜査機関は確認するとは思いますが、調査報告書の事実認定等に拘束されたり影響を受けたりすることはないはずです。



そもそも、今回の調査は、ビッグモーター社が、不適切な保険金請求に関する事実関係の解明を委嘱したものです。「全体像や関係者等の解明を主眼」としており関わった当事者らの刑事責任の追及が目的ではありません。



また、本調査が準拠した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」では、法律上の証明による厳格な事実認定にとどまらず、疑いの程度を明示した灰色認定なども可能とされており、犯罪の成否の前提となる事実認定とはその手法が異なります。



さらに、あくまでも任意での協力により得られた資料・情報等に依拠しています。調査報告書においても「今後、当委員会に開示又は提供されていない重要な情報等が明らかになった場合には、当委員会の事実認定や評価が変更される可能性がある」旨の記載があります。



調査の目的や事実認定の手法を異にし、依拠できる資料等にも限界のある調査結果について、捜査機関がそれを前提にするなどという形で影響を受けることはないと考えます。  



——今後、経営陣が起訴され刑事責任を問われるようなことはあり得ますか。



調査報告書で認定された不適切行為を前提にすると、損害賠償実務の根本に関わる非常に悪質な行為として、捜査機関が積極的に動くことも考えられます。



一方で、会社による不合理な目標値設定や適正手続きを無視した降格処分の頻発などを背景に、追い詰められた従業員らが上司の指示で犯罪行為に及んだという事実関係が認められるなら、現場で手を下した従業員らの刑事責任のみを追及することには慎重になるという視点もあり得るように思います。



立証の観点から考えても、器物損壊罪に関して、どの損傷が故意に傷つけられた傷なのか特定することや、共謀を裏付ける客観証拠を獲得することなどはハードルが高いという側面があるとも思います。



各犯罪に関し、不確実な要素が多いため、現時点で明確なことを申し上げるのは難しいです。被害者が告訴するか、経営陣らの関与や認識がいかなるものだったかなどの要素に加え、今後明らかになっていく事実関係、それを踏まえて見えてくる本件の全体像への評価などによって捜査機関の動きは変わり得ると考えられます。




【取材協力弁護士】
高橋 麻理(たかはし・まり)弁護士
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。殺人事件、詐欺事件、薬物密輸事件、性犯罪事件等の主任検事を務めた。検察官退官後は、弁護士として、刑事事件(刑事弁護、被害者代理人、告訴・告発事件)、企業法務案件(社内不祥事対応等)に従事。上場会社の社外取締役(監査等委員)、社外監査役に就任している。2020年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
事務所名:弁護士法人Authense法律事務所
事務所URL:https://www.authense.jp/