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「ビッグモーターは解体して、ゼロから出直せ」久保利弁護士が穴だらけの経営体制を批判

2023年07月28日 10:11  弁護士ドットコム

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自動車保険の保険金不正請求問題などをめぐり、中古車販売大手ビッグモーター(港区)に対する批判が強まっている。7月28日には、国土交通省が道路運送車両法に基づき、ビッグモーターの全国34店舗に立入検査に入ったと報じられている。


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帝国データバンクの「中古車販売市場」動向調査によれば、2022年度の中古車販売市場(事業者売上高ベース)は3兆9073億円で、過去最高を更新。中古車販売市場でシェアトップの約15%を占める同社が顧客を裏切ってきたことは、社会に大きな衝撃を与えている。



非上場のオーナー企業であるが、会社法上は「大会社」に該当し、社会的責任は大きい。企業統治の専門家はどう見ているのか。久保利英明弁護士に聞いた。



●「そもそも会社の体をなしていない」

——記者会見や一連の動きを、どのようにみていますか



ビッグモーターはそもそも会社の体をなしていません。取締役会は機能不全であり、内部統制システムも全く構築されておらず、全ては経営者の責任です。



会社法上の「大会社」であり、取締役会設置会社ですから、本来であれば3カ月に1回以上、取締役会を開催しなければいけませんでした。また、これだけの売り上げや従業員数、支店数の企業規模になれば、取締役会の開催は毎月でも足りないくらいですが、会社法上の要件を満たす取締役会さえ行わず、取締役会として不正行為の是正に努力した形跡はありません。



また、調査報告書と報道を拝見する限りでは、会社法上の大会社としての体制作りへの努力の形跡は全く見当たらず、内部統制システムも全く構築されていません。株式会社に求められる内部統制システムは、取締役の内部統制システム構築・維持活用義務の対象です。その構築がなされていないのは明らかな取締役の義務違反です。



しかも違法行為を社長が「知らなかった」と言うこと自体、経営の怠慢です。仮に本当に知らなかったのであれば、内部統制が存在しなかったと言わざるを得ません。むしろ、“知らぬ顔”を決め込むために、内部統制制度自体を敢えて意図的に行わなかったと認定すべき事案です。



その意味で本件はガバナンス、コンプライアンス云々以前の、会社の管理体制、経営体制設計に欠陥があったと言うべき事案です。監査役会はなく現に監査役1名で、監査役会の設置もしなかった。株主としての経営者一族の考え方自体が批判されるべきです。



●「保険金詐欺の典型例であり、刑事事件の立件が相当な事案」

——7月25日に開いた記者会見で、兼重宏行(前)社長は謝罪した上で、自身と息子の兼重宏一副社長の辞任を明らかにしました。これで幕引きとなってしまうのでしょうか。



ビッグモーターは保険金詐欺の典型例であり、刑事事件の立件が相当な事案と考えます。



修理工場が器物損壊をして過大な保険金を受領するのは、コンプライアンスの問題ではなく、反社と言われても仕方ないレベルです。本来「コンプライアンス」というのは、刑事法には違反しないが社会的に見れば不適切というケースを意味し、「法令遵守」ではなく「社会適合性」と訳すべき規範です。



もちろん、そのような会社と取引を行い、被害を被った損保会社の審査基準も問われるべきですが、だからといって同社及びその取締役たちが免責されることにはなりません。



社長・副社長・専務の辞任は当然ですが、それで幕引きとはなりません。保険会社や被害者の損害は賠償されなければならないし、行政による立ち入り検査や厳格な刑事捜査も必須です。



●「解体して、ゼロから出直すしかない」

——今後は刑事事件に発展する可能性もありますが、ビッグモーター社がやり直しをするにあたり、どのような体制が必要ですか



今回の事件は、実質100%の株式を持つ同族会社の社長、副社長による業界の破滅行為だったと言えますので、辞任程度の幕引きではすみません。過大収益が詐欺や違法行為によりもたらされた以上、倒産や会社清算もやむを得ないでしょう。再建可能性云々は刑事捜査を徹底し、厳正な行政処分も実施してからの話であり、時期尚早です。



今回の事件によって「保険はいい加減」という認識が広がったら、保険会社に対する信頼も大きく揺らいでしまいます。社会的事象として捉えて、保険会社も対応をしなければいけません。保険会社だけでなく、顧客もグレードが下がって保険料があがったのであれば、保険会社と交渉し、保険会社にカバーしてもらう必要もあるでしょう。



社長や副社長が取締役を辞任しても、現株主構成では会社体制の改革は期待できません。経営陣の全面取り替えが必要です。今後は支店や工場の閉鎖も続くでしょうし、その意味では従業員はダメージを負うことになるでしょう。しかし不正を放置し、会社が存続することでゾンビになってまた悪いことをやるかもしれない。そのほうが社会にとって害悪が大きいと言わざるを得ません。



同社は解体して、ゼロから出直すしかないのではありませんか。



【取材協力】久保利英明(くぼり・ひであき)弁護士 1944年埼玉県生まれ。1971年弁護士登録。日本弁護士連合会副会長、日本取引所グループ社外取締役などを歴任。「第三者委員会報告書格付け委員会」委員長、「一人一票実現国民会議」共同代表などを務める。専門はコーポレートガバナンス(企業統治)など。