「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
第90回 広末涼子
女優・広末涼子、キャンドル・ジュン氏と離婚成立。驚く人もいたでしょうが、私個人は「でしょうねぇ」という感じ。「週刊文春」によると、広末は不倫相手のレストランシェフ・鳥羽周作氏との不倫が世間バレする前から、キャンドル氏に離婚を迫っていたそう。「文春」報道で不倫が明らかになると、キャンドル氏はいい夫風味の暴露会見を広末やその事務所に無断で開きます。ハチの一刺しならぬジュンの一刺しで、広末の不倫が過去にもあったことを明かし、彼女の芸能人としてのイメージをさらに低下させたのでした。こんなことをされて「私が悪かった、心を入れ替えてやりなおそう」と思う妻は稀で、「お金を払ってもいいから、一秒でも早く別れたい」と思うのが人情ではないでしょうか。
離婚には驚きませんでしたが、私が度肝を抜かれたのは、所属事務所のホームページに掲載された広末本人によるものと思われる報告文なのでした。私にはこの文章に彼女の闇もしくは病みもしくはヤバみが凝縮されているように感じられたのです。全文引用してみましょう。
「私事ではありますが、私と広末順さんとは話し合いをした上で、離婚することに合意し、離婚届を提出いたしました。子どもたちの親権につきましては、私が親権者として、これまで通り子どもたちと一緒に生活することとしています。
プライベートな内容でまたお騒がせしてしまうことを懸念し、このたびの離婚のご報告をすべきかどうか、正直とても悩みました。しかし、この報告をもって今回の一件が終着し、これ以上子どもたちの不安や心配が広がることのないことを願って、お伝えさせていただくことに決めました。子どもたちへの過度な取材等は、ご容赦下さいますようどうかお願いいたします。
最後に生きることへの前向きでお優しい言葉をくださり、応援してくださった方々に、心より感謝し、お礼の気持ちを伝えさせてください。本当にありがとうございました」
大事な局面で子どもをちらつかせる傾向
離婚が成立したのに過去のことを蒸し返してなんですが、広末はかつて「週刊文春」の記者に突撃され、不倫をしたかどうかたずねられた時、「絶対にありません!子ども三人いるんです!ありません!」と全否定していました。まぁ、あの場面で「そうなんです、不倫していますよ」とは言えるわけがないので仕方なかったと思いますが、子どもをダシに嘘をついたと見る人もいるでしょう。今回の離婚発表もそうですが、どうも広末は大事な局面で、お子さんをちらつかせる傾向がある。
お子さんについて触れることで、子どもが大事なら、不倫なんてするな! そもそも、子どもを不安にしたのは自分じゃないか!と突っ込まれ、炎上しかねないことがなぜわからないのか。それは広末が心理学でいうところの自己憐憫に陥っているからではないでしょうか。
自己憐憫とは、文字通り「私ってかわいそう」と思いこむことを指します。世の中には本当にかわいそうな人もいっぱいいるわけですが、自己憐憫とは客観的な証拠を必要としません。ですから、人から見てものすごく恵まれているように見えても、本人が「私ってかわいそう」と思っていることはある。つまり、自己憐憫は独善的もしくは利己的な感情とも言えるのです。自己愛の強い人のほうが、自己憐憫に陥りやすいとされています。
「私ってかわいそう」と思いこむ人は、被害者意識が強く、反対に他人の痛みに鈍感と言われています。「文春」による不倫報道第一弾の後、広末は不倫を認め、謝罪する文章をインスタグラムで発表していますが、「私自身の家族、3人のこどもたちには、膝をつき合わせ直接、『ごめんなさい』をしました。彼らは未熟な母親である私を、理解し認めてくれました」と書いています。広末が「子どもが理解してくれている」と本気で信じていることに、私は口をあんぐりさせたのでした。
「ごめんなさい」という軽い言葉を使えた理由
親の不倫や離婚が、子どものメンタルに悪影響を及ぼすことは、カウンセラーなど多くの心理職が指摘しているところです。私の近しい人にも、10代で親の不倫を知ってしまった人がいますが、成績はガタ落ちで受験校を変更せざるを得なかった、異性観が歪んで(浮気されるのが怖くて、恋人を過度に束縛してしまう)結婚と離婚を繰り返すなど、親の不倫は子どもの先々の人生にまで影響を及ぼすこともある。もちろん、親の不倫を知った人全員がこのようなことになるというわけではありませんが、広末は他人の痛みに鈍感ゆえに、自分がしたことがどれだけ子どもを傷つけたか気づかず、だから「ごめんなさい」という軽い言葉を使えるのではないでしょうか。
アメリカのカウンセラー、スーザン・フォワードは「毒になる親 一生苦しむ子ども」(講談社+α文庫)において、問題のある親に育てられた子どもが取る態度は、服従か抵抗のどちらかだと指摘しています。キャンドル氏は会見で、広末が「パパとママは離婚するけど、どっちと暮らしたい?」と聞いたところ、長男と次男は「ママを守る」と広末を選んだことを明かしていました。麗しき母子愛と見る人もいるでしょうが、それは円満な家庭のお話。本来なら親が子どもを守るはずなのに、子どもに害を与えた母親を、非力な子どもが守ろうとするというおかしな逆転現象が起きていることにお気づきでしょうか。
これは子どもの本心というよりも、親に見捨てられないための行動と言われています。しかし、害を与える親は自分の横暴さに気付きませんから、「うちの子はわかってくれる、子どもは私の味方」と思いこみます。一方の子どもは好き放題する親に振り回され、しりぬぐいをし、親のためにしか生きられなくなってしまいます。
「私ってかわいそう」と思いこむ人にとって、自分を否定しない(できない)子どもという存在は絶対に手放したくないでしょうから、子どもに固執するでしょう。その結果、子どもを傷つけるようなことを平気でしながら、子どもとは絶対に離れようとしないという、第三者から見るとおかしな現象が起きていくのだと思います。
「私ってかわいそう」という気持ちは、責任転嫁を生み出すことがあります。私がこんなにかわいそうなのは、相手が悪いからだと人のせいにするわけですが、既婚者の場合、誰に責任転嫁しやすいかというと配偶者でしょう。配偶者のせいで私は苦しめられていると思うなら、不倫に対する抵抗感は薄れ、むしろ正当な権利と開き直る気持ちが生まれてもおかしくはない。もし広末の不倫の原因が自己憐憫なら、今後も男性関係を安定させることは難しいのではないでしょうか。
広末は悲劇のヒロイン病!?
「私ってかわいそう」な人は、同情を好みます。広末の離婚報告は「最後に生きることへの前向きでお優しい言葉をくださり、応援してくださった方々に、心より感謝し、お礼の気持ちを伝えさせてください。本当にありがとうございました」で結ばれています。離婚報告でこのような文章が書かれることは、かなり珍しいと言えるでしょう(お礼なら、応援してくれた人に直接言えばいいと思います)。自己憐憫という観点で見るのなら、「あなたたちのせいで追い詰められて、生きることをやめようと思った」という被害者意識、けれども、自分には同情してくれる人がたくさんいる、愛されているというアピールのように見えました。
自己憐憫とは悲劇のヒロイン病とも言われています。仮に広末が悲劇のヒロイン病で、そのために男性関係が不安定だとしても、独身となった今なら、何の問題もありません。だって、広末は現代のヒロインなのですから。
女性芸能人にとって離婚がダメージとなる時代は完全に過ぎ、今、四十代の女性芸能人の離婚は自由の象徴もしくは勲章となりつつあるのではないでしょうか。先日、レストランのオーナーシェフと熱愛が報じられた女優・長谷川京子は離婚前の「グータンヌーボ2」(関西テレビ)に出演し、「おもしろいお姉さんでもいいけど『長谷川京子とだったら付き合ってみたい』という選択肢に入りたいんですよ」と発言していました。女性として見られたいと願う長谷川にとって、離婚は「おめでたいこと」ではないでしょうか。料理研究家のみきママも離婚を発表しました。ヤフーコメントには「料理研究家なのに、夫の胃袋をつかめなかった(だから、離婚となった)」というような昭和的な書き込みがありましたが、夫がいないことは料理家としての信頼に響くものではない。それどころか、お子さんを超有名大学に合格させ、自身も料理研究家として自立し、栄養士の資格を取るために大学に通う彼女のバイタリティを称えるものが多かったと記憶しています。離婚できる経済力を羨ましがる書き込みも多数ありました。
時代が広末に追いついてきた
人にどう見られるかよりも、やりたいことが出来ているかが問われる時代が来ると、俄然、広末のすごさが染みてきます。女優の結婚相手と言えば、社長などの富豪、テレビ局のプロデューサーなどの関係者が多いものですが、広末の初婚相手は失礼ながら売れっ子とは言いがたいモデル、再婚相手はキャンドルアーティストと、自分の信念を貫いている。つまり、時代が広末に追いついてきたのです。
私は広末の芸能界復帰はそう遠くないと思っていますが、そのためには結婚しないことがポイントになってくるかと思います。広末が独身であれば恋愛は自由ですから。不倫にならないためにも、今後はわっかい男性専門で交際することをお勧めしたい。「広末、まーた若いオトコとつきあってる。ヤバい」と羨望半分で笑われたときが、彼女の完全復活の日。その日が来るのを信じて、静かに待ちたいと思います。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」