高学歴でも仕事が出来るとは限らない。ただ同僚の立場からすれば、せめて会社に急に来なくなるのはやめてほしいだろう。愛知県の50代男性(建築・土木技術職/個人事業主/年収550万円)は25年ほど前に勤務していた会社で
「中途採用で、有名国立大学の化学系卒で英語も喋れるという鳴り物入りで同年代の男性が入ってきました」
とその人物を振り返る。同僚だった男性は編集部の取材に応じ、突然の失踪事件の顛末を語ってくれた。
「全ての作業において不器用でした」
当時、男性は工業化学薬品メーカーの営業所の試験室に勤務していた。ちなみに男性自身は農芸化学系の専門学校卒だという。仕事は取引先のめっき液の分析や基礎研究、製品を使ってもらうための試作実験など、といった内容だ。噂の中途入社の社員はその試験部署に配属となった。
「彼は当時27~28歳くらいで、私より2歳上でした。国立大学の応用化学科卒で、小太りでめがねをかけたマジメな印象でした」
前職は某大手化学メーカーにいたというその男性は、「たしかに英語は喋れた」という。
「JICA(国際協力機構)の研修を行うことがあり、その時は外国人研修生に指導していました」
語学は堪能だったようだが、肝心の試験室の仕事は全然ダメだった。実際に働きだしてみると驚くことに彼には「化学実験実務に必要なスキルが全くなかった」という。
「全ての作業において不器用で、実験に使う単純な試薬の作成すら出来ませんでした。ちょっとした分析、滴定といってビュレットを使って指示薬による色の変化を見る分析などや、濃硫酸を蒸留水で薄めるとか、基本的な試薬の調合も出来ませんでした」
普段のコミュニケーションに特に問題は無かったものの、貸したCDが破損して返ってくるなど、がさつな印象もあったという。
所属部署で使い物にならなかった彼は、ほどなく他の部署に異動となった。紙に書いた注文書を見ながらパソコンに入力する、オンライン発注業務を行う部署だった。
突然の無断欠勤、家にも戻らず「失踪したとわかりました」
だが入社から1年も経たないある日、彼はとつぜん会社に来なくなった。
「突然の無断欠勤です。とにかく心配からはじまったのですが、家に連絡をとると普段通りに出勤したとのことでした。その後、数日家に戻らないようなので、失踪したとわかりました」
なんと会社をバックレただけでなく、家にも数日帰らなかったのだ。その後はどうなったのか聞くと……
「たしか2週間くらい経ってから、親父さんが残った荷物を取りに来ました。対応した所長の話では、前職の有名化学メーカーも同じような辞め方をしたらしいと聞きました」
失踪した彼の心の内は知りようもないが、前職でも上手く行かず今回も部署異動となったことで、精神的に追い込まれたのだろうか。
インタビューに答えてくれた男性は、「その後も心配で、彼に連絡をとろうとしましたが、先輩からは関わらないほうがいいと言われました」と語る。周囲の受け止め方はどうだったのか聞くと、
「前評判ほどの存在感はもうすでに無かったので、すぐに『無かったこと』になったと思います。サラリーマンは『ドライ』ですね」
と冷静な社内の様子を振り返り、こう感想を漏らした。
「彼ほど学歴が邪魔で不幸な人は居ないと思います。このこと以来、仕事ができるかどうかは学歴だけで判断してはいけないとわかりました」
なお、その後は仕事量の多さに業務が回っていなかったこともあり、「やれやれという感じで」すぐに新しい採用がかかったということだ。
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