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『原神』イラストコンテストでも続いた盗作疑惑 「模写」や「トレース」のイラストはどう見抜く?

2023年07月25日 13:20  リアルサウンド

リアルサウンド

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人気ゲームのイラストコンテストで盗作疑惑が続出

 世界中で大人気のゲーム『原神』のイラストコンテストの受賞作が7月17日に発表されたが、発表後程なくして、「盗作ではないか」「トレースではないか」「AIが描いたのではないか」という疑惑が相次ぎ、公式Twitterが炎上する騒ぎになっている。このコンテストには力作が多数寄せられたが、よりによって上位作品に盗作疑惑がかけられる異常事態になっていた。


  7月19日、原神の公式アカウントはTwitterを更新し、「コンテストの公平性を期すため、結果発表ページに展示されている一部の作品を取り下げ、参加者の受賞資格を取り消すことにいたしました」した。本稿では、受賞作が盗作かどうかの言及は避けたいが、記者が見る限り「似ている」し、「かなり黒に近い」作品が多い印象だ。『原神』のイラストコンテストは昨年11月にも盗作騒ぎがあったばかりで、今後の公式の対応に注目が集まっている。



【お詫び】
「胸躍る夏」——夏をテーマとした同人イラスト募集コンテストにおいて、一部の受賞作品がルール違反をしているものだというフィードバックをいただきました。…


— 原神(Genshin)公式 (@Genshin_7) July 19, 2023



  こうしたトレース、通称「トレパク」騒動はアナログでイラストを制作していた時代からあった。しかし、イラストの製作環境のデジタル化が進むと、誰でもお手軽に創作ができるようになったため、急増した印象を受ける。今年も、誰とは言わないが、大手企業の広告イラストなどを手掛けていたイラストレーターに盗作疑惑が生じたことがあった。


  今回のコンテストの応募作品が仮にトレパクだった場合、応募者に悪意があったのかどうかが焦点になる。記者は、「悪意はなかった」「そもそもトレースが悪いと思っていない」のではないかと推測する。ネット環境が当たり前のようにある20代以下の世代と話をしていると、トレースや盗作が悪いことだという意識がない人が驚くほど多いのだ。イラストを描く人すらそういう意識なのだから、困ったものだと思う。


著作権に対する意識が希薄な人が多い

  Instagramを開き、「#模写イラスト」というハッシュタグで検索をしてみて欲しい。『原神』をはじめ、『【推しの子】』などの人気作のキャラクターの絵がずらりと出てくる。これらはすべてオリジナルのイラストを模写、というよりトレースしたものである。模写自体は違法ではないし、プロを目指す人が練習用に描くことは多い。


  では、なぜ模写をわざわざネットにUPするのかというと、そのほうが「いいね」がつくからである。学校の美術教育の弊害ともいえるが、人々はお手本そっくりに描ける絵ほど「うまい」と思う傾向にある。その証拠に、模写をUPしている投稿者のInstagramを見ると、最初はオリジナルの絵をUPしているのだ。記者から見ればその絵の方が個性的で、魅力的に映るのだが、そういった個性的な絵はなかなか「いいね」が付かない。


  そこで、投稿者は他に倣って模写イラストをUPしてみたのだろう。すると、けた違いに「いいね」が付いた。かくして、「いいね」中毒に陥った投稿者は、オリジナルの絵を捨ててしまったのであった。以後、Instagramは模写イラストに埋め尽くされている。「いいね」は確かについているのだが、創作者としてそれで楽しいのか、疑問に思う。


  このように、ネット上では模写イラストが日夜多数描かれ、投稿されている状態にある。そうした絵を描く人たちは悪気がなく、模写も立派な創作活動の一環であると考えている人が少なくない。そのため、コンテストの主催者側には対策が求められる。模写は規定に反すること、トレースは却下されることなどを、具体的な事例を入れるなどして呼びかける必要があるだろう。繰り返すようだが、驚くほど著作権の意識が薄い人がネットには多いのだ。


AIの創作物をどうやって見抜くのか

  こうしたコンテストの運営は今後困難になることが予想される。その原因になっているのがAIの登場だ。AIがプロ並みの絵を描けるほど技術が進化しているため、特にデジタルのイラストに関しては、人間が描いたのか、それともAIが描いたのか、判定が極めて難しくなっている。海外ではAIの創作物がコンテストに入賞する例が相次ぎ、関係者を悩ませているが、現状、イラストコンテストは基本的に性善説に基づくしかなくなっているのが現状である。


  『原神』イラストコンテストでも、応募の際に制作途中の下描きなどを提出する規定があったが、それでも騒動が起こってしまった。賞金や賞品が出ないお遊び感覚のコンテストであれば、百歩譲って模写やトレースが紛れ込んでいてもいい……わけがないのだが、いずれにせよ、賞金絡みとなると一層の審査の厳格さが求められるようになるのは間違いない。


  『原神』の公式アカウントは、「今後、コンテストにおける受賞の審査体制を引き続き改善してまいります」とコメントしている。どのような審査体制にするのかは不明だが、例えば制作過程の動画を撮影してもらうなど、余計な手間が生じる可能性もないとはいえない。応募が面倒になればクリエイターの創作意欲が損なわれないか心配だが、そのくらいしか対策の取りようがないのも事実である。


  青少年読書感想文全国コンクールを主催する全国学校図書館協議会が、AIを用いて作成された読書感想文が応募されることを懸念して、来年度の応募要項の改定を行うと発表し、話題になった。AIによって書かれた文章のように、不適切な引用が判明した場合は審査の対象外となるという。しかし、その判定はどうやって行うのだろうか。イラストコンテストも読書感想文も、技術の進化に人間側がまったく追い付いていない状況が浮き彫りになっている。


  大手出版社の漫画賞でも、かつて何度か盗作による受賞取り消しがあったし、漫画家にトレース疑惑が生じて連載が打ち切りになった例もあった。盗作との戦いはいたちごっこが続く状態だ。今回の『原神』のイラスコンテストの事件を機に、創作とは何なのか、そしてコンテストの在り方などを改めて考え直す必要がありそうである。