2023年07月24日 10:01 弁護士ドットコム
社内に置きっぱなしの「放置傘」は処分して問題ないか——。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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総務担当の相談者は、社員数以上の傘がオフィスに放置されている状況を改善しようと、1カ月程度置きっぱなしの傘は廃棄しようと考えています。3分の1くらいは壊れている傘だったようです。
ところが、社内で告知したところ、「勝手に処分して大丈夫なのか」との声があがりました。「交通機関での忘れ物とは違うのでは」という指摘があったそうです。
放置傘であふれてしまうと、いざというとき傘立てを利用できずに困る社員や来客が出てしまいます。一定の猶予期間を設けたうえで処分する方法ではダメなのでしょうか。江藤朝樹弁護士に聞きました。
——オフィスに放置された傘を勝手に処分するのはまずいのでしょうか。
いわゆる「放置傘」は、安価なビニール傘が大量に出回っているご時世も背景に、持ち主自身もその傘についてすでに関心を失っていることも少なくなく、対処に困る問題ですね。
しかし、放置傘であっても自分の持ち物ではないため、勝手に処分すると法的な問題を生じる可能性があります。
刑事上の責任として、占有離脱物横領罪(刑法254条)や窃盗罪(同法235条)に該当する可能性があります。
一見すると放置された物であっても、それが「忘れ物」であれば、勝手に持ち去ったり処分したりすることは「置き引き」(占有離脱物横領罪)になり得ます。また、持ち主が「放置などしていない、自分はオフィスの傘立てに立てて管理していた」といえる場合は「他人の物を盗んだ」(窃盗罪)ことになり得ます。
民事上の責任としても、他人の所有物を勝手に処分することは、他人の所有権を侵害したとして不法行為(民法709条)に該当し、所有者から損害賠償を請求される可能性があります。
——会社としては放置傘をどう扱えばよいのでしょうか。
持ち主が管理している物であれば他人が処分できないのは当然ですので、傘の持ち主の有無を社内の告知等で十分に確認する必要があります。
名乗り出る持ち主がいなければ、放置された物や忘れ物の扱いを定める「遺失物法」に従って処理することになります。
放置傘は、遺失物法における遺失物または準遺失物(他人の置き去った物等)に該当します(遺失物法2条1項)。遺失物等を拾得をした者や届出を受けた施設の占有者は、速やかに「遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない」と定められています(同法4条1項、13条1項)。
もっとも、実際には放置傘を持ち主へ返還することは困難でしょうし、放置傘のために警察署へ出向いて手続きするまでの余裕はない、という事業者も多いのではないかと想像します。
——放置傘への有効な対処法はありますか。
放置傘がすべて従業員のものであることが確実である場合は、社内で十分に告知をしたり、あらかじめ私物の扱いについて社内規程を設けたりすることで、持ち主(従業員)が所有権を放棄した、または処分することに合意したとみなすという方法が考えられます。
所有権者がいない物を処分したり、所有者の合意を得て処分したりするのであれば、前述の法的責任は生じません。社内手続きを経たうえでであれば、後々に持ち主であった従業員とトラブルになるリスクも相当程度抑えることができると思います。
ただし、「こうすれば絶対に法的問題を生じない」というわけではないため、判断が難しい場合には警察署へ届けるのが無難といえます。
【取材協力弁護士】
江藤 朝樹(えとう・ともき)弁護士
第二東京弁護士会所属。東京都立大学理学部化学科卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。離婚と相続を中心に家事事件を数多く取り扱っており、一人一人の依頼者に対し、案件ごとに異なる見通しを分かりやすく伝え、ベストな着地点に向けて真摯に向き合うことを信条としている。
事務所名:弁護士法人Authense法律事務所
事務所URL:https://www.authense.jp/