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千葉・八街の「児童死傷事故」から2年、飲酒運転「撲滅」条例施行も…さらに対策踏み込むべき?

2023年07月23日 09:30  弁護士ドットコム

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児童5人が飲酒運転のトラックによって死傷した千葉県八街市の事故を受けて、県では2年後の6月28日から飲酒運転を根絶するための改正条例が施行された。


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飲酒運転の対策を講じない飲食店に対する罰則が新たに設けられた。ただ、すでに酒の提供を罰するだけなら、道路交通法でも規制されている。



元検事の弁護士は「店の責任を立証するハードルは高い」と指摘する。飲酒運転をなくすために必要なものはどう考えるべきか。



●捜査機関が「店の酒類提供」を立証するハードルは高い

千葉県の改正条例では、客が飲酒運転をした飲食店の事業者が、県からの防止措置の指示に従わない場合、店名の公表や店内に指示書の掲示を命じられる。従わないときには5万円以下の過料を科すことができる。



ただ、ドライバーに酒類を提供することは道交法でも禁止されている。飲酒運転をさせないためにはどうしたらよいのか。



同じように飲酒運転撲滅条例のある福岡県の検察庁で、かつて検事として捜査にあたってきた西山晴基弁護士に聞いた。



——酒を提供した店の責任を問うことは難しいのでしょうか



道交法(65条3項)は、飲酒運転をするおそれがあると「知りながら」お酒を提供する行為を処罰の対象としていますが、「店とお客さま」という関係上、店側が客の交通手段を把握するにはどうしても限界があります。



仮に客の言動や持ち物(車の鍵)から飲酒運転の疑いを抱く状況があったとしても、その状況を店側が把握できるかは別問題なので、捜査する側の視点でみると、店から否認された場合の立証のハードルは高くなります。



そもそも、店の責任を問うべき場面は、飲酒運転の可能性を明らかに認識していたという悪質なケースに限られるようにも思われます。



実際に罰せられたケースも、店主と客が顔なじみといった事情から、飲酒運転することを明らかに把握していた事案でした。



たとえば、ふらりと立ち寄れるような都内の店に、面識のない客が来た場合を想定すると、店からすれば、その客がどのような交通手段で帰宅するのかまで把握することは困難です。無理に店を罰しても実効性は望めません。



そのため、店には「客に対して飲酒を思いとどまらせるよう牽制する手段」を講じさせることが大事だと思われます。



——この点、千葉県の条例はうまくはたらくでしょうか



この条例は、店に客に対する牽制手段を講じさせる新しい制度です。啓発文書の提示や、客への交通手段の確認を義務付けたうえで、その義務に違反する場合には、さらに指示違反および掲示命令違反があれば、お店に過料を科すこととしています。



ただし、この義務を課しているのは、過去に飲酒運転の違反者に対して、酒類を提供したことが判明した店に限られ、そうではない店には義務はありません。



これは店の営業の自由(憲法22条1項)に配慮する必要性を踏まえた扱いかと思われますが、飲酒運転の根絶のためには、さらに踏み込んだ対策が検討されてもよいのではないでしょうか。



⚫︎誓約したうえで飲酒運転した客に「厳罰化」も考えられる

——さらに踏み込んだ対策はどのようなものでしょうか



たとえば、タッチパネルなどで飲酒運転をしないことを確認・誓約させるシステムを導入している店もありますが、さらに客に対して「帰りに車を運転する予定のお客様は、この誓約をすることにより、飲酒運転をすることを認識していたことの裏付けになりますので、その上で飲酒をした場合、より重い刑事責任に問われることになります」などと警告する措置を講じさせることも考えられます。



そして、誓約したうえでおこなった飲酒運転をより厳罰化する立法措置も検討してよいかと思われます。



もちろん、やりすぎては客足が遠のいてしまうことを懸念する店も少なくないと思います。



店だけに要求しすぎるのは酷であるため、たとえば、義務のない店から積極的な協力があったりした場合には、新型コロナ支援金のように、一定の金銭的な補助がなされることまで検討されてもよいかもしれません。



突然、大切な家族を失ってしまった交通事故の被害者遺族の中には、自分に責任はないにもかかわらず、「あのとき私が外出するのを止めておけば」などと考え、罪悪感を抱いて苦しんでしまう方もいます。



運転前に軽はずみで飲酒をすることで、人の命を奪ってしまったり、多くの人を苦しめたりするおそれがあることを社会全体で強く意識し、飲酒運転を起こさせない世の中を作っていく必要性があると思います。




【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/