近所付き合いでは、相手をよく見て適度な距離を取るのが身のためだ。
「結婚した頃、ご近所で1人で住まわれていた親くらいの年齢の女性Sさんと親しくしていました。いつの間にか、いいように使われるようになりました」
と語るのは、東京都に住む60代前半の女性(事務・管理/年収300万円)だ。当時を振り返り、
「生理が重くておなかが痛くて寝ている私に、むりやり『犬を動物病院に連れて行ってくれ』と言い出し、断っても聞きません。ドアポストに鍵を入れて、何度も(その人の)会社から『早く連れて行ってくれ』と催促の電話。お礼は何もなし」
と迷惑だった近所づきあいを明かした。(文:福岡ちはや)
「ホタテの貝柱のヒモを外す作業をSさんの分もやらされました」
「そこでオカシイと思って、付き合いに距離を置けば良かったのですが……後の祭り」と悔やむ女性。その後も、都合の良い使いっぱしり扱いを受け続けた。
例えば、共通の知人が女性とSさんに生ホタテ貝を送ってくれたときのこと。ホタテの貝柱のヒモを外す作業を「Sさんの分もやらされました」と明かす。また、
「生ホタテ貝をくれた友達が、田舎に帰ってお嫁に行き妊娠したので『お祝いは何が良いかしら?』とSさんに聞くと『いらないわよ』と言われました。生ホタテ貝をくれた友達が流産したことを、Sさんが面白そうに言ってきたときにはドン引きしました」
と続けた。
Sさんの傍若無人エピソードはまだある。
「みんなで何かお取り寄せしても、消費税や送料は払ってくれません。映画が好きな私たちに、新聞屋さんで2枚しかもらっていない映画の券で『映画に行こう』と言い、車のガソリン代・駐車場代はすべてうち持ち。映画の1人分足りない券の代金も、帰りのごはんもうち持ち」
と不満げに綴った。こうした経緯からSとの付き合いに嫌気が差した女性は、隣町にマンションを購入し、引越しを決めた。Sと物理的に距離を置いたが、それでもSさんは真夜中に
「(犬を)動物病院に連れていけ」
と連絡してきたそうだ。当然ながら女性は「犬の送迎のタクシーを呼べばいいでしょ。もしくは、Sさん宅は先生が往診してくれると言っていたでしょ?」と抵抗したが、相手は聞く耳を持たなかった。
「『あなたの家で送ってくれるから大丈夫と先生に言ったから、送ってくれないと困る』と言われて、主人が起きて送迎しました。そのとき(女性夫婦は)外車に乗っていたけど、(Sさんは)ガソリン代もくれません」
なんと言われようが放っておけばいいものを、人が良過ぎるのか女性夫婦はSさんのわがままに付き合い続けた。
「『人の不幸には寄り添えないくせに、自分のときは必死なんだ』と思いました」
しかし、そんな女性でさえ我慢の限界を迎えるできごとが起こる。女性の父親が亡くなったとき、つらい気持ちをSさんに打ち明けたが、「それがどうしたの?」と冷たい言葉を返してきたのだ。
しかしその後、Sさんの愛犬が亡くなったという電話が入り、女性は長電話に付き合わされた。
「『今、食事中だから』と言っても2~3時間電話を止めないので、私はごはんが冷えてしまったりして。『人の不幸には寄り添えないくせに、自分のときは必死なんだ』と思いました」
この一件以来、女性はSさんの電話を「忙しい」と断るように。5、6回断ると、電話はなくなった。その後、Sさんは生ホタテ貝をくれた友人を通じて女性と連絡を取ろうとしてきたが、女性がSさんの行いをすべて暴露すると、その友人は「私も同意見だわ」と憤慨していたという。
「私たちの気持ちは生ホタテ貝友達から伝わったようで、二度と電話はありません」
かくして、女性夫婦にようやく平和が訪れた。引越しまでして大変だっただろうが、おかしな人との縁が切れてなによりだ。