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高齢ドライバーが駐車場で「大暴走」、従業員決死の制止も振り切り計3台に衝突 SNSで話題に

2023年07月21日 16:31  弁護士ドットコム

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群馬県館林市内の店舗駐車場で、高齢ドライバーの運転する車が次々と他の自動車に衝突していたとする「暴走事故」動画がSNS上で拡散され大きな話題となっている。


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動画はすでに黒い乗用車1台と衝突した直後とみられる場面から始まる。従業員2人が駆けつけ運転席のドアを開けて止めようとするも、車は停止することなく勢いよくバック、白い乗用車に衝突した。従業員の1人が車の後ろに回っていたため、危うく挟まれそうになっていた。



衝突して止まるかとも思われたが、今度は前進し始めた。店舗方向に徐々にスピードを上げて進み、ブレーキをかける様子もなく乗用車に正面衝突。動画では、ようやく停止した車の運転席ドアを、従業員が再度開けて対応するシーンまでが写っていた。



上毛新聞(7月16日)が、85歳男性の軽乗用車が館林市内のホームセンター駐車場で計3台の乗用車と衝突したとする事故を報道。今回の動画で写っていた事故の件とみられる。店舗側は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し「けが人はいなかった」と話した。



●駐車場でも「報告義務」発生しうる

「暴走事故」でけが人が出なかったことは不幸中の幸いだが、衝突された側の車の持ち主としてはたまったものではない。



ドライバーの当時の心身状態などは不明だが、物損事故を起こして他人の物を損傷した場合は、原則として本人が民事上の損害賠償責任を負うことになる。



ただし、ドライバーが認知症やその他の精神疾患のために判断能力が失われている場合には、本人ではなく、家族が賠償責任を負う可能性もある(民法713条、714条)。



死傷者が発生しない物損事故も「交通事故」(道路交通法67条2項)に当たるので、事故を起こしたドライバーは、警察に事故の報告をしなければならない(道交法72条1項後段)。報告義務違反をした場合、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されるおそれがある(道交法119条1項17号)。



今回のケースで報告義務が発生するのか否か、すなわち駐車場内の事故に道交法が適用されるかどうかは、道交法上の「道路」(2条1項1号)に当たるか否かによる。



同条は、一般的にイメージされる道路法上の道路のほか、「一般交通の用に供するその他の場所」も「道路」に当たると定めており、判例上、私有地でも不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は「道路」とされている(最高裁昭和44年7月11日判決)。



今回の事故が報道のとおりの場所ならば、現場は車が数十台停められる駐車場で、買い物客など不特定多数の人や車が自由に通行する場所といえ、道交法上の「道路」に当たる可能性が極めて高いだろう。



事故は、高齢ドライバーによる「アクセルとブレーキの踏み間違え」によるものと報じられている。警察庁の統計によると、2022年における75歳以上のドライバーが最も過失の重い「第1当事者」になった死亡事故は379件(前年比33件増)で、死亡事故全体(2267件)の16.7%を占め、統計が残る1986年以降もっとも高い割合だった。



交通事故を起こせば、被害者や加害者だけでなく、その家族をも不幸にしかねないが、一方で鉄道やバスなどの公共交通機関が発達した都市部以外の地域では「車が生活に必要」の意見も根強い。高齢ドライバーへの自主返納を促すとともに、多様な交通手段の確保にも引き続き取り組む必要がある。