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ビッグモーターが「違約金」払う? 佐藤隆太さん事務所が「CM契約解除」発表

2023年07月21日 13:51  弁護士ドットコム

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中古車販売大手「ビッグモーター」のCMに出演する俳優・佐藤隆太さんの所属事務所が7月21日、20日付でCM契約を解除したと発表した。


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ビッグモーターをめぐっては、損保会社に対して自動車保険の保険金を水増し請求していたことが判明。特別調査委員会の報告書によると、物理的に修理車両の車体を傷つけるなどして、入庫時にはなかった損傷を新たに作って修理範囲を拡大させていたことなどが報告されている。



タレントが不祥事を起こした場合には、CMや番組が打ち切られ、ときに莫大な違約金が発生するとも言われているが、企業側の不正が発覚した場合、違約金はどうなるのだろうか。芸能問題にくわしい太田純弁護士に聞いた。



●双方に「品位イメージ保持義務」があるかどうか

——タレント側は不祥事をおこした企業側に違約金を請求できるのでしょうか?



広告出演の契約では、契約条項の中で、タレント側の義務として、「品位を保持し、広告主や商品等のイメージや名誉・信用等を損なわないようにすべき義務」(以下「品位イメージ保持義務」といいます)を規定し、これに違反した場合に備えて、契約解除事由や違約金などを定めることがあります。



逆に、広告主側に対して、タレントのイメージに配慮すべき義務として、よく見られるのは、まさにその広告の内容や制作場面において、タレントのイメージが損なわれないように、制作内容それ自体に関して、タレント側から口出しできるように、「この広告内容でOKですよ」というゴーサインのような条項が規定されることがあります。



このような、広告内容や制作内容に関する許諾を超えて、広告主の企業活動や事業上の不祥事が発覚した場合、それをもってタレント側からの契約解除や違約金条項まで定めるのは、これまで例が少なかったと感じます。



——一体なぜでしょうか?



そもそも広告出演は、タレントの持つイメージや顧客誘引力に期待して、依頼するものですから、事柄の性質上、タレント側での品位イメージ保持に着目されることが多いからです。



しかし、契約上、対等な立場であることを標榜し、先ほどの「品位イメージ保持義務」を、広告主側とタレント側との相互に課す契約も、経験上、数は少ないですが存在します。



このような条項が契約書にあれば、それを根拠として、契約解除や違約金などを請求できることになります。



契約書に、こうした義務を相互に規定しておくことが肝心ですので、今後、そのような契約書が増えていくのではないかと思われます。



なお、広告出演の契約は、ふつう、広告主、広告代理店、(タレントの所属する)事務所の三者で締結し、タレント本人は契約当事者ではないですから、多くの場合には、事務所が解除の交渉をしていくことになります。



●損害の立証が必要になる

——契約書に根拠となる規定がないときはどうなりますか?



契約に付随する信義則上の義務として、相互に品位やイメージを保持すべき義務を観念できる場合には、それを根拠とすることが考えられます。



一種の安全配慮義務に類する考え方ですが、その広告の目的、性質、内容、媒体の種別、範囲や頻度、広告によって世間に定着するイメージや観念、不祥事の原因、程度、内容等を総合的に考慮して、判断されることになると考えられます。



ただし、契約の解除ができるレベルと、損害賠償請求が認められるレベルとでは異なります



不祥事発覚後もテレビCMが放映され続けているときに、契約を解除することの正当性は認められやすいでしょう。



ただ、違約金の定めが契約書にない以上は、損害の立証は必要となり、抽象的に広告主側の不祥事があったというだけで、即、タレント側からの高額な損害賠償請求が可能とはならないでしょう。



解除から当初予定された期間までの出演料相当額程度にとどまるのではないかと考えます。



●高額賠償が認められるケースとは?

——契約書に根拠となる規定がなくても高額な賠償請求が認められることはありますか?



企業それ自体が反社会的であれば、反社勢力の排除条項に基づく賠償請求が考えられますが、ここでは反社排除条項をひとまず置いておきます。



広告主が故意や重大過失で、消費者に健康被害をもたらすような粗悪な商品を広く販売したような場面や、投資商品において、悪質な手口で高齢者を騙すような仕組みで勧誘や販売がされた場面で、どちらも、広告主がタレントを起用して世間に広く売りつけようと企み、タレントがこうした背景を知らずに広告に出演して、結果的に、被害拡大に一役買わされてしまった、そして現実に消費者からそのタレントに対し、何らかの責任追及が向けられるおそれがあるようなケースが考えられます。



このようなケースでは、タレント側も騙された側面がありながら、被害者や世間に対しては各種対応を余儀なくされる板挟みとなり、看過できないイメージの損失や、タレント生命を害されるおそれが生じることになりますので、そうした事例ではタレントから広告主に対する賠償請求を認める余地があると言えるでしょう。



(編集部注)佐藤さんの事務所が契約解除を発表したため、見出しと本文を修正しました(7月21日18時25分)。




【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(エンタメ、知的財産権、名誉毀損等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:太田純法律事務所
事務所URL:https://www.jota-law.jp/