「昨年末、文春砲とかいろいろあったと思うんですけど、僕らファンから見てるとうやむやになってる。今ジャニーズでもやってるように、第三者委員会みたいなものを立ち上げるとか、歌劇団では考えてないのか」
6月16日に開かれた阪急阪神ホールディングス(HD)の株主総会。例年、阪神タイガースの監督采配など、株主からユニークな質問が飛び交うことで知られる。冒頭のように、今年はエンターテインメント事業のひとつである宝塚歌劇団に関する質問も出ていた。
本人が語った「性加害報道の真相」
株主から質問を受けた角和夫CEOはこう答えた。
「当初は加害者や被害者が分からないようにしたいと思っていました。(中略)我々としては文春や文藝春秋が何を言おうが一切ノーコメント。法廷で我々の主張をしますので、ご理解ください」
「文春砲とかいろいろ」、「文春や文藝春秋が何を言おうが」について説明が必要だろう。遡ること半年前の昨年12月、『週刊文春』が、歌劇団所属の演出家・原田諒氏が男性演出助手へのセクハラ行為や生徒へのパワハラを報じ、原田氏は同26日付で退団した。
それから5か月後、異例の展開をみせる。
『週刊文春』と同じ版元の『文藝春秋』6月号(5月10日発売号)で、原田諒氏本人が手記「宝塚『性加害』の真相」を寄稿したのだ。原田氏は《内情は大きく異なり、歌劇団は私の退職まで真相を、今日まで隠蔽している。様々な意見と批判、憶測が飛び交う中、私はこれまで反論する機会を持ち合わせなかった。あのとき、私の身に何が起きていたのかをここに記し、組織としてのコンプライアンスはおろか、人権問題さえをも孕む一連の問題を詳らかにする》(以下、《》は『文藝春秋』当該号より引用)と、退団までの顛末を綴っている。
原田氏は《明確に否定したいのは、週刊文春誌上の「何度もホテルに誘い」「一緒に裸で寝よ」といった言動を、常習的に繰り返したとする部分だ。Aに対して恋愛感情や性的欲求を抱いたことは一度としてない。当然、指一本触れたこともなければ自宅に入れたこともない》と、『週刊文春』報道に反論。また、日記や録音をもとに、劇団理事長らが原田氏に自主退団を迫っていく様子を再現している。
それによれば、Aさんの母親が、理事長らに対し原田氏を歌劇団から追放しなければ「文春に情報を渡す」「文春記者に連絡します」と、繰り返し要求。劇団幹部は原田氏にAの母の話を伝えた上で、原田氏に「Aの脅しを免れるために、異動してもらうことに決定した」「とにかく時間がない。来年に控える外部公演の仕事もいたければ、自主退職以外に道はない」と発言したという。
劇団からは当初、懲戒委員会の場でハラスメントに関する聴取があると説明があったものの、退団まで懲戒委員会が開かれることはなく、《劇団幹部とのやり取りは弁護士などの第三者が立ち会うことはなく、常に密室で行われた》と振り返る。
手記を受け、とりわけ演劇界がザワついた箇所が、A氏の母が『文藝春秋』編集部に回答した内容だ。
「アタシってわかるじゃないの」
《「最初の段階で原田さんからきちんと謝罪があれば良かったのに、
(劇団幹部で演出家の)先生から『反省するどころか横柄な態度を取っていた』と聞き、何なのと。謝罪が遅すぎました。この先生には、今回の件を、一から百まで相談しています。劇団に対して『文春に言う』と話したかもしれませんが、これは先生のアドバイスです。ただ、執拗には言っていませんし、私の鶴の一声で辞めさせるような会社ではない」》
「劇団幹部で演出家の先生」とは誰を指すのか――。
演劇関係者が声を潜める。
「A先生説が飛び交っています。仲間内で『あれってA先生のことだよね?』『でもA先生は劇団幹部に当たるのかなあ』『あの人ならやりかねない』といった会話で盛り上がりました」
「A先生」とは、日本ミュージカル演出の第一人者であり、原田氏と同じく宝塚歌劇団の座付き演出家出身の“大御所中の大御所”である。
「『文藝春秋』の報道後、Aさん自らが演劇関係者に『あの書き方じゃ、(「劇団幹部」は)アタシってわかるじゃないの』と言い回っていました。つまり自分で認めているようなもの。原田さんは近年、宝塚以外の外部公演で活躍の場を広げており、海外公演も控えていました。Aさんが後輩の躍進を快く思っていなかった節があり、『週刊文春』の原田氏セクハラ報道に喜び周りに『読んだ?読んだ?』と触れ回っていたと聞きます」(宝塚関係者)
さらに、手記の余波は政界へも広がっている。手記では、原田氏がA氏と知り合うきっかけは、真矢みき氏の主治医からの紹介だったことが明かされている。実はこの人、昨年7月8日に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の主治医だという。
「有名人が御用達の都内大病院に勤務し、潰瘍性大腸炎を患っていた安倍氏の主治医を担当。また芸能界にもパイプがあり、2019年に合成麻薬の所持で逮捕された沢尻エリカを自身の病院で匿っていたことが報じられたこともありました」
原田氏は4月17日付で、神戸地裁に歌劇団に対して復籍などを求める訴状を提出。間もなく宝塚側の答弁書が提出されるとみられる。