2023年07月15日 07:01 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの5類引き下げで、海外旅行の計画を立てている人も多いだろう。そこで気をつけたいのが安全対策だ。特に、スリや置き引きは、海外旅行中の代表的な犯罪被害で、多くの日本人が巻き込まれている。
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「本当に一瞬の出来事だったんです」。数年ぶりの海外旅行でイタリアに行った都内在住の会社員・ユカさん(30代)も、ローマの地下鉄で女性2人に囲まれて財布をすられた。当時の状況を振り返ってもらった。
体の前にボディバッグを下げ、混雑する夕方の地下鉄に乗ったユカさん。ドアが開き乗ろうとしたところ、2人の女性がワーワー言いながら、ユカさんの体を車内に押し込むようにして乗ってきた。
「乗車後、2人の女性は私に対し、ドアについているボタンを指差したり手すりを掴むように言ったりしてきました。『親切な人なのかな』と思いながら、なんとなく応じていると、一緒に旅行していた夫が『え、財布盗まれてない?』と声を上げたんです」
すぐにユカさんがバッグを確認すると、たしかに財布が消えていた。夫は女性に向かって「盗ったでしょう」と大声をあげ、スカーフを巻き体を隠すようにしていた女性の手をつかんで振り払った。すると観念したのか、女性はぽとっとユカさんの財布を地面に落とした。
「夫は一瞬、財布らしきものが抜き取られる様子を見かけたようなんですが、私はバッグを触られた感覚がまったくなかったので、本当に驚きました。思い返せば、電車に乗る直前までバッグの中を整理していて、チャックが少し開いた状態で乗っていたかもしれません。本当に反省して、それからは体の前のバッグを常に腕で隠すように持っていました」
声をかけてきた女性2人が、スリのグルだったことも衝撃だった。
「誰を信用していいのかわからず、不安な気持ちになりました。こうしたスリは日常茶飯事なのか、他の乗客からは見向きもされませんでした。中にはクレジットカード2枚と少量のユーロを入れていましたが、盗られていたらカードを止めて警察に行かなくてはならないし、大変なことになっていました」
間一髪で財布を取り返したユカさん。次の駅に着くとスリ2人はささっと電車を降りて行った。
イタリア内務省によると、2022年にスリなどの犯罪で起訴された件数は、ミラノで2万1560件、ローマで1万7234件だ。同じ年、日本ではスリの検挙件数は521件であり(警察庁の犯罪統計)、いかにイタリアでスリが多いかがわかる。
こうした巧妙なスリには、イタリア人も被害にあっているという。ローマ在住34年となるタケイ・ルチアさんは「他のEUの国に比べて凶悪犯罪は少ないですが、軽犯罪者はなかなか罪を問われたり拘束されたりしないので、観光客を狙うスリや置き引きが減らない」と話す。
「ここ数年はコロナ禍であったために観光客が減り、それでスリグループの活動が減るかと思ったら大間違い。今でも朝や夕方の通勤ラッシュを狙い、地下鉄の中でのスリが続いています。ですから、地下鉄に乗る際はリュックサックは体の前方向に抱えて押さえながら乗ると言うことが当たり前となっています」
どうしてイタリアでスリ被害がなくならないのか。その背景に、イタリアの刑法の規定があるという。
「妊娠をしている女性や1歳以下の子どもを養育している女性は、必ず執行猶予が付されるとされているため、これを利用して女性スリグループが繰り返しスリをおこなっています。また、14歳以下は軽犯罪を犯しても拘束されることがないので、大人と組んでスリをすることもしばしばです」
こうしたスリを抑制しようと、スリグループの実態を追うような動きもあるそうだ。
「最近はYouTubeなどで、ミラノやローマの若者たちが自警団となり、地下鉄内を撮影しながら、スリグループの常習者の顔をさらけ出し、周囲に勧告しながら追い払う動画をアップしています。
テレビの特番でも常習犯の顔や犯罪の瞬間を映し出して、国民に警告し、国の問題として捉えるように警鐘しているんです」
タケイさんは「イタリアはスリや置き引き以外を除けば安心して過ごせる国。スリ被害は注意することで防ぐことができます」と呼びかける。
「日本と違って、取り出しやすいところに財布やパスポート、携帯電話を入れないことです。充分注意すれば、犯罪から身を守ることができると思います。そして必ず周りにいる人が『ここにスリがいるよ』と声をかけてくれます。ですから、イタリアと言わず、旅行する場合は、貴重品は取られないところに入れるというのが重要です」
「たくさんの観光客が戻ってきましたが、日本の方だけはまだまだ少ないです。スリに注意して、芸術や遺跡が多く食事も美味しい太陽燦々の素晴らしい国イタリアへどうぞお越しください」