2023年07月14日 10:31 弁護士ドットコム
巨大な顔写真の看板広告で知られる「きぬた歯科」(東京都八王子市)の院長が、歯科医を名乗る人物の「ヤフコメ」によって名誉を傷つけられたとして、特定した投稿者を相手取り、計3333万円の損害賠償をもとめる裁判を起こしている。
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「K歯科からの不良症例をたくさん診てきた」などと指摘するヤフコメ投稿者の特定をすすめたところ、都内にある大学病院の寮から発信されていたとされ、投稿者は歯科医だったことが明らかになった。
訴えを起こした院長の羅田(きぬた)泰和さんによると、刑事でも手続きを進めているという。
訴状などによると、羅田さんが問題としているのは、2021年10月17日に公開されて、Yahoo!ニュースに配信された「J-CASTニュース」の記事に投稿されたヤフコメ。<品川駅「社畜広告」騒動がまさかの展開に きぬた歯科が進出検討、院長明かす「火がついた」>というタイトルだ。
記事では、駅のメッセージ広告がSNSで話題になったことを受けて、羅田さんが取材に対して「きぬた歯科が、普通でない広告をやってみようかと考えた」というコメントを寄せている。同日、次のようなヤフコメが投稿され、ヤフコメ欄の1番上位の場所に表示されて「いいね」が少なくとも2925件つけられたという。
<K歯科からの不良症例をたくさん診てきた歯科医師として一言。インプラントは理入すれば終わりじゃなく、その後、ちゃんとメインテナンスをしてこそのもの。看板設置する費用あるなら、その分患者さんの長期予後のための費用に回してください。このニュースもただの広告としか受け止められません。責任持った治療計画をお願いします。>
羅田さんは、この投稿は、きぬた歯科が適切な治療計画もなく、ただ漫然とインプラント理入手術をおこない、その後のメンテナンスもしていないという事実を摘示するもので、名誉を傷つけるものだとして、投稿者を特定する手続きをすすめた。
この中で、プロバイダから開示された情報(IPアドレス)によって、都内の国立大医学部附属病院の関係施設から投稿されたことがわかったという。しかし、病院側に調査依頼したが回答を得られなかったため、2022年4月に発信者情報開示をもとめる裁判を起こした。
東京地裁は同年9月、「歯科医師という専門的知識のある立場の人物から見て、きぬた歯科の症例の中にはメンテナンスが不十分で不良といえる症例が複数あると受け止められるもので、原告の社会的評価を低下させるものであるなどとして、名誉権侵害にあたる」などとして、発信者情報の開示(住所・名前・電話番号)を命じた。
羅田さんは2023年4月、特定した投稿者を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
きぬた歯科側は、適切な治療計画を立案し、メンテナンスも実際に実施しているとして、ヤフコメにあった指摘は真実ではないと主張している。
裁判記録によると、開示された連絡先に羅田さんが電話したときのやりとりが明らかにされている。
そこでは、被告が「わたくしのほうとしても実に軽率なことをしたなと思い」などと投稿の事実を認めたほか、「できる限り先生にお詫び申し上げる形でいろいろと考えております」と謝罪の考えも示している。
裁判では、被告側も投稿は本人がおこなったことを認めている。一方、「不良症例」の具体的なケースを示していないことなどから、社会的評価を低下させる事実の摘示ではなく、名誉毀損にあたらないとして請求棄却をもとめている。
編集部は、被告側にコメントを求めたが、代理人の弁護士事務所は「事件が継続中であり守秘義務の問題もある」として回答を控えた。
羅田さんは取材に次のコメントを寄せた。
「きぬた歯科がヤフーニュースに掲載された際のヤフコメで『きぬた歯科のトラブルを多数見てきた歯科医師云々~』という同業者と思われる人物から書き込みがありました。そもそも歯科医院は6万軒以上存在します。なにゆえ、その人物の医院に集中するのか?常識的に考えてあり得ません。よって誹謗中傷と判断し、提訴に至りました。同業者の書き込みは、一般の人の書き込みよりも、信憑性があります。よってキチンと責任を負うべきだと考えました。同業者はあくまでもライバルですが、しかしそれは正々堂々とした関係でなくてはいけません。技術、接客、様々に競ってこそのライバルです。匿名での卑劣な書き込みは犯罪に値すると思います。これが公になって、医療関係者はもちろんの事、様々な業界での同業者同士の誹謗中傷をとめるべく一石を投じたいと思っています」
羅田さんによれば、八王子警察署が名誉毀損事件として、検察に書類送付したという。警視庁は取材に「個別の事案については回答を差し控えさせていただきます」とした。