2023年07月13日 10:21 弁護士ドットコム
2023年7月1日から改正道路交通法が施行され、電動キックボードは「自転車並み」の扱いに緩和されました。利便性の高さもあり、今後は利用者の増加が予想されます。
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そんな中、知人から「そういえば、子ども用のキックボードは法律上、どんな扱いなんですか? 歩道は走ってもいいんですか」と聞かれました。そこで、この原稿では、電動ではない「子ども用のキックボード(キックスケーター)」の正しい乗り方について解説したいと思います。(ライター・元警官/鷹橋公宣)
まず初めに、電動キックボードについて整理します。
2023年7月1日から、道路交通法に定められている車両の区分に「特定小型原動機付自転車」(法17条3項・2条1項10号ロ)が創設され、一定の基準を満たした電動キックボードはこの新区分に該当することになりました。
一般的な電動キックボードには走行モードの切り替え機能がついており、時速6キロメートルを超えない制限がかかったモードにすると歩道走行が可能です(法17条の2第1項)。
ただし、歩道を走行する際はかならず歩道の中央から車道寄りの部分を徐行し、歩行者の通行を妨げるときは一時停止をしなければなりません(法17条の2第2項)。
改正前は原付扱いだったので運転免許が必要、ヘルメットを装着しないと違反になるというルールでしたが、新ルールでは16歳以上なら免許不要、ヘルメットの着用は努力義務へと変わりました。ただ、ナンバープレートの取得・装着や自賠責保険への加入は依然必要です。
次に、子ども用のキックボードは道路交通法によってどのように定義されているのか確認しましょう。
国家公安委員会は2021年、次のようにキックボードは「歩行者」に該当するとの見解を示しています。
キックボード(原動機を有さないものに限る。)は、現に広く一般的に人又は物の運送の用に供されておらず、また、車体の大きさや安定性、動力源等の構造を総合的に勘案してもそのように用いられることが想定されないため、道路交通法上の「車」として何らかの規制を行う必要性が認められず、「車」には当たらないと解されることから、当該キックボードを用いている者は、道路交通法上の歩行者になると解される。したがって、当該キックボードは道路交通法第2条第1項第11号イに規定する「軽車両」には該当しないと解される
では、子ども用のキックボードは「歩道と車道、どちらを走るべきなのか」を考えてみましょう。結論としては当然、歩道ですが、せっかくなので何故そうなるか、検討します。
車道は「車両の通行の用に供するため縁石線もしくは柵その他これに類する工作物または道路標示によって区画された道路の部分」です。
そして、道交法10条は、歩行者は「車道を横断するときや道路工事などの理由で歩道を通行できないなどやむを得ない場合を除き、歩道・車道の区別がある道路では歩道を通行しなければならない」と定めています。
この規定があるので、車両に含まれず歩行者と同じ扱いになる子ども用のキックボードは、歩道・車道の区別がある場合は「歩道を通行しなければならない」というルールを守らなくてはいけません。
ただ、注意が必要です。歩行者と同じ扱いになるのだとしても「歩道なら自由に走っても問題ない」と考えるのは誤りです。
道交法76条には、次のような規定があります。
4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。 三 交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。
【引用】道路交通法|e-gov
これは「道路における禁止行為」の規定で、例示としてローラースケートが挙げられています。車両に含まれず歩行者と同等の扱いになるなら、子ども用のキックボードは「これらに類する行為」に該当すると考えられるでしょう。
スケートボードの規制にもこの条文が引き合いに出されるので、子ども用のキックボードも同じです。
ここで問題になるのが、条文(道交法76条)に登場する「交通のひんぱんな道路」という点です。
この点については、広島県警がホームページで次のように回答しています。
Q2:交通ひんぱんな道路とは、どういうところですか?の回答
交通の状態がどの程度になれば「交通ひんぱん」と言えるかは、道路の広狭、通行する歩行者や車両の量等との関係で違ってきます。例えば、昼間の広島駅前通りなど交通の往来が激しい道路は、一般的に交通ひんぱんと言えますが、深夜や早朝のように交通が閑散になると、交通ひんぱんな道路とは言えない場合もあります。
(【引用】自転車交通ルール|Q&A |広島県警察 )
要約すると「同じ道路でも『交通ひんぱん』といえるかどうかは状況次第で変わる」ということですが、少なくとも、行き交う歩行者の間を縫うように走ったり、ぶつかるような危険があったりするような状況だと違反になるのは避けられないでしょう。
この規定には罰則があり、5万円以下の罰金が科せられます(道交法120条1項10号)。
子ども用のキックボードは歩行者と同じ扱いなので、道交法の定めに従うと、車道を走ってはいけないというのがルールです。
では、次に、通行区分以外で守るべきルールを考えてみましょう。歩行者と同じ扱いという前提で考えると、子ども用のキックボードは次のルールを守らなくてはなりません。
●信号を守る(7条)
●通行禁止部分を通行しない(8条1項)
●右側通行(歩車道の区別がない場合、10条1項)
●道路を横断するときは横断歩道を利用する(12条1項)
●斜め横断をしない(12条2項)
●車両の直前直後で道路を横断しない(13条1項)
●横断禁止の標識がある道路を横断しない(13条2項) など
これらの規定は歩行者の保護を目的としており、信号無視と通行禁止区分違反以外には罰則がありません。
子ども用のキックボードも、明確な規制がないとはいえ歩行者という交通社会の一員として法律に定められた交通ルールを守るべきです。歩行者であっても罰則規定がある以上は「子どもの遊びだから」で見過ごすわけにはいきません。
もっとも、キックボードで遊んでいる子どもが違法行為として取締りを受けるなど、たとえ法律の定めに反していてもあまりに乱暴です。もし警察官が現認しても、注意や指導で済まされる流れになるのは確実でしょう。
だからといって、処罰されないなら問題ないと考えるのは間違いです。
キックボードに乗った子どもが不意に道路に飛び出したためにそれを避けた車がほかの車と衝突して重大な事故に発展した、人込みのなかで歩行者に接触してケガをさせたなどのケースでは、監督責任を含めた賠償問題に発展するかもしれません。
もちろん、車道に出たり、人込みのなかでキックボードに乗っていたりすると、子ども自身が事故に遭って取り返しのつかない事態になってしまう危険もあります。
「人や車が少ないから」「自宅前の道路だから」などと軽く考えてはいけません。
そもそも道路や歩道は「遊ぶ」ためにあるわけではないので、子ども用のキックボードは、キックボードの使用が認められている整備された公園などで乗るべきです。その際は、転倒などの事故に備えてプロテクターやヘルメットの装着もお忘れなく。
法律がどのように定めているのかを知ることも大切ですが、もっと大事なのは「子どもの安全」です。
法律違反でも軽微なものなら許されるといった考えではなく、子どもの安全を第一に考えるなら「ルールに反している」と説明するよりも「あなたがケガをすることが心配だ」と諭したほうが効果的だと思いませんか?
歩道でキックボードに夢中になって遊んでいる子どもを見かけたら、スマホで撮影してSNSに「法律違反だ」なんて投稿するのではなくて「ケガをしてしまうよ」「危ないから広いところで遊ぼうね」と声をかけてあげるやさしさをもってください。