Text by 柴那典
Text by 川浦慧
Text by sotobayashi kenta
Text by cazrowAoki
Text by Keiichiro Natsume
Text by Yukihide'JON...'Takimoto
Photo-by-Yukihide'JON...'Takimoto
とても美しい場所だった。
6月29日に開催されたBiSHのラストライブ『Bye-Bye Show for Never』。筆者はそれを観ながら何度も「有終の美」ということについて考えていた。言葉で言うのは簡単だ。けれど、それをかたちにするのは、とてもむずかしい。約8年3か月を駆け抜けて、ずっと抱いていた大きな夢を叶えて、別れを告げる。集まった約5万人がそれを祝福する。すべてをきれいにやり遂げて、解散する。簡単にできることじゃない。
でも、BiSHの6人はそれをやりきった。東京ドームでのワンマンライブは、「楽器を持たないパンクバンド」としてメジャーデビューを発表した2016年1月の恵比寿リキッドルーム公演で宣言した目標だ。始まってみたら、それは思っていた以上に「いつも通り」のライブだった。
ときに激しく、ときに笑いもあり、でも最後は愛と感謝に包まれる場所だった。そしてステージ上のアイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人と同じかそれ以上に、客席を埋め尽くした5万人の清掃員(BiSHファンの呼称)が主役のライブだった。
開演時刻になると、まずはピンクの着ぐるみのウサギがステージに登場してファンを煽る。オープニング映像を経て、サポートバンドのメンバーとともにステージに登場した6人を大歓声が迎え入れる。1曲目は“BiSH-星が瞬く夜に-”。地鳴りのようなコールが巻き起こる。続けて“ZENSHiN ZENREi”、“SMACK baby SMACK”と序盤はパンキッシュな楽曲を続けざまに披露する。会場の熱気は一気に最高潮に達する。
Photo by cazrowAoki
「東京ドームにお集まりの皆さん、初めまして、BiSHです」との挨拶から、メンバーの自己紹介、そして“HiDE THE BLUE”から“FOR HiM”へ。
広いステージには背後と左右に巨大なLEDビジョンが設けられ、メンバーたちが歌いながら見せる表情がありありと見える。“JAM”に続いて「5万人のライブハウス、ついてこいよ!」とモモコグミカンパニーが煽り、“デパーチャーズ”へ。前半は強い求心力を持つ楽曲を立て続けに披露していく展開だ。
「ついに来ちゃったね!」とモモコグミカンパニーが告げ、MCではメンバーたちが東京ドームの思い出を語り合う。アユニ・Dは、メンバー6人で目の前の遊園地に行ったとき、リンリンと一緒に乗ったアトラクションからドームを見下ろして「こんなところに立てたらいいね」と話したのだそうだ。
Photo by Keiichiro Natsume
ダークな演出に目を奪われた“遂に死”に続いて、“stereo future”ではサビでメンバー6人が花道を走って中央ステージへ。“My landscape”ではピアノとストリングスに乗せて膝を着いたまま歌い、続く“サヨナラサラバ”から特効の炎も上がった“NON TiE-UP”は激しく盛り上げる。中盤は静と動の両極のダイナミクスを見せるセットだ。ときに尖った、ときに美しく深遠な世界に惹き込む。
インタールードの映像では誰もいない部屋が映し出され、その中に置かれたテレビには過去のBiSHの映像が流れる。後半は初期の代表曲“スパーク”からだ。お馴染みとなってきた「花いちもんめ」の振り付けに、グループが歩んできた約8年3か月の日々を思う。
BiSHは何が特別だったのか。グループの歩みのなかで、6人の個性と生き様とBiSHの活動が不可分に結びつき、それゆえに唯一無二の存在になっていったことが何より大きいと筆者は思う。メンバーそれぞれが作詞にも携わり、アイナ・ジ・エンドが振り付けを担当し、メンバーの個性もクリエイティブに反映されてきた。
続く“FREEZE DRY THE PASTS”はリンリンがアイナの髪を掴む仕草から始まり、シャウトが折り重なる、BiSHのなかでも1、2を争う不穏でカオティックな曲。それを東京ドームでやりきったことにも価値があるように思えた。
Photo by sotobayashi kenta
BiSHのライブではお馴染みのハシヤスメ・アツコ主導による「コントパート」も、東京ドームでちゃんと繰り広げられた。冒頭に出てきたウサギの着ぐるみの「中の人」が渡辺淳之介であることが明かされ「お前かよ!」とハシヤスメ・アツコが叫ぶ一幕もあった。
続いては「美醜繚乱」と大書され、提灯が飾られた2台のフロートに乗ったメンバーが客席をぐるりと回る。“ぴょ”“ぴらぴろ”とノリのいい曲を続けて披露し、“DA DANCE!!”では「ダンスしようよ」のコールが巻き起こる。ドームはお祭りムードのテンションに包まれる。
Photo by sotobayashi kenta
Photo by Keiichiro Natsume
そして、終盤へ。BiSHの何よりの魅力になってきたエモーショナルな楽曲の数々を真っ直ぐに届ける展開だ。まずは2017年に発表した代表曲“プロミスザスター”。思いのこもった歌声に万雷の拍手が湧き上がる。そしてコロナ禍でグループと清掃員を繋いだ“LETTERS”へ。
ハシヤスメ・アツコが「アリーナ! スタンド!」と煽り、炎が立ち上がり、レーザーが飛び交う“GiANT KiLLERS”“MONSTERS”“サラバかな”と、清掃員のコールやシンガロングはどんどん大きく、会場のボルテージはどんどん上がっていく。
Photo-by-Yukihide'JON...'Takimoto.
まるでライブハウスのような雰囲気だった。東京ドームは「楽器を持たないパンクバンド」としてBiSHがやってきたことを、そのまま大きなスケールで見せた場所だった。これで解散してしまうという終わりの切なさよりも、夢を叶えたことを祝福してその場を全員で楽しむエネルギッシュなムードが終始漂っていた。それは清掃員1人1人が人生を懸けてきた、その全力の思いをぶつける場でもあった。
「私たちは清掃員といくつもいくつも約束を交わして、約束を果たして、一緒に夢を見て、一緒に夢を叶えてきました。今日は今までで一番大きな夢が叶いました。みんなが愛してくれたおかげです。ありがとうございます」とセントチヒロ・チッチが告げると、大きな歓声が巻き起こる。
続けて語った「今日という日がみんなの人生のお守りになるように――」という言葉も印象的だった。そして本編ラストは“ALL YOU NEED IS LOVE”。メンバーたちがステージで肩を組み、清掃員たちも肩を組んで揺れる。6人は笑顔で歌い上げ、ステージを下りた。
Photo by cazrowAoki
アンコールでは白い衣装に着替えた6人がふたたび登場し、代表曲“オーケストラ”を歌う。すべてを出し尽くすようなパフォーマンスだ。そして、メンバー1人1人が清掃員へメッセージを告げる。
「うまく眠れなった日には清掃員からの手紙を読んでました」とアユニ・D。「私の人生にBiSHがいて、本当によかったと思います」とリンリン。「BiSHのことを愛してくれて、応援してくれて、本当にありがとうございました」とハシヤスメ・アツコ。
「これが生きるってことなんだって私はBiSHに教わりました」とモモコグミカンパニー。「いつも振り付けを考えるときはお家のなかのベッドの上やシャワー、みんなで移動したハイエースのなかとかで。踊ってくれるかなと思っていると、いつも全力で踊ってくれました。本当に救われました。ありがとう。清掃員も立派なBiSHのメンバーです」とアイナ・ジ・エンド。
「私はいまだに解散したくないと思う自分と戦ってます。だけどこの6人で生き抜いてきた日々に何一つ後悔はありません。一生懸命みんなで駆け抜けた青春は一生の宝です」とセントチヒロ・チッチ。それぞれが大きな感謝を告げてからの“beautifulさ”は、ひときわ感動的だった。
バンドメンバーを紹介し、最後はもう一度“BiSH-星が瞬く夜に-”へ。銀テープが舞い、盛大なシンガロングが響き渡る。
涙を目にたたえたセントチヒロ・チッチが「BiSHは生まれてきてよかったです。以上、私たちBiSHでした!」と言い、ラストは「バイバイ、ウィー・アー・BiSH!!」と肉声で告げてステージを去った。
Photo by Keiichiro Natsume
Photo by sotobayashi kenta
それでもアンコールを求める声は鳴り止まない。ダブルアンコールは“Bye-Bye Show”だ。ビジョンには枝を広げた大きな桜の木が映し出され、ドームには紙吹雪が舞う。5万人がピンクのサイリウムを振り、客席が桜色に染まる。
Photo by sotobayashi kenta
<桜吹雪の中 最後に目と目合わせて ほら 言葉にならなくて涙になった>というこの曲の歌詞の通り、最後は満開の桜吹雪のなかで別れを告げ、歌い終えた6人はゆっくりとステージをせり下がり、消えていった。
終演後には「ばいばい」という文字とメンバーのサインがビジョンに映し出された。とてもドラマティックな解散ライブだった。東京ドームから外に出ると土砂降りの豪雨に見舞われて、たくさんの人がずぶ濡れになっていた。そんなことも含めて、長く記憶に残る一夜になったのではないかと思う。
Photo by sotobayashi kenta