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違法な児童ポルノじゃないの? ネットに溢れる生成AI「子どもの裸画像」の法的問題

2023年07月12日 10:11  弁護士ドットコム

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そのサイトには、あどけない少女たちが制服をはだけて、下着や胸をあらわにしている画像が、何枚も掲載されていたーー。


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これらの子どもの裸画像は、AIによって生成されたものだという。写真と見まごうほどリアルな画像で、生成AIの画像と明記されていなければ、本当に実在する少女たちだと思ってしまう。



急激にAI技術が広がり、グラビアや成人向けのリアルな画像が生成され、ネットで無数に公開されるようになった。その中には、子どものポルノにみえる生成AI画像も含まれている。



「児童ポルノの単純所持にあたるのではないか」「同級生の写真を利用して画像をつくろうとしてしまった」など、弁護士ドットコムにも相談が寄せられている。



生成AIの子どもの裸画像にはどのような法的問題があるのだろうか。児童ポルノ問題にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。



●児童ポルノ認定はかなり困難になる

——生成AIによる子どもの裸画像は、いわゆる「児童ポルノ」にあたりますか?



日本の児童ポルノ法では、「児童とは、十八歳に満たない者をいう」(同法2条1項)とされて、被写体が「実在する児童であること」が要件になっています。生成AIによる裸画像であっても、実在する児童を描写したものであれば、児童ポルノとなる可能性があります。



ただ、生成AIの場合、実在する児童の裸の画像が、部位ごとに分解されたり、加工されたりして用いられると思われますが、そうなると、児童の実在性、18歳未満であることも部位ごとに判定されることになり、児童ポルノの認定はかなり困難になります。



顔だけ、手足だけが実在の児童の画像という場合も、児童ポルノの要件(2条3項各号)を満たさないと思われます。



また、身元不明の画像について、胸部と陰毛の発達具合から年齢を推定するという捜査方法(いわゆるタナー判定)を用いるにしても、胸部と陰毛が別人の場合には判定できないでしょう。



●裁判所も「事実認定の困難さ」を吐露している

——これまでの有名な判例としては、最高裁が2020年1月に決定を下したCG児童ポルノ事件が挙げられます。これはCGソフトで裸の女児をリアルに描いた画像が「児童ポルノ」にあたるかどうかが争われました。奥村弁護士はこの裁判で弁護人をつとめていますが、裁判所は、実在する児童の裸の画像の認定について、どう判断したのでしょうか?



CG児童ポルノ事件は、被告人が多数の写真集を参考にしてグラフィックソフトで手描きしたという事案でしたが、1審の東京地裁は次のように「事実認定の困難さ」を吐露しています。



「CGや絵の場合には、モデルとした実在の児童を描く意図で描かれた場合であっても、それを描いた者の表現能力が稚拙なために、一般人からみて、当該CGや絵が同児童を描いたものとはおよそ認識できず、同児童とCGで描かれた者とが同一とは認められない場合や、一般人からみて顔や身体全体の輪郭等は同一であると認識できるものであっても、胸部や陰部に加工するなどしたために(一般人をして児童ではなく成人であると認識されるほどに加工する場合などは典型である。)、同部位においてモデルの児童との同一性が認められない場合がある。また、昨今のカメラやコンピュータソフト等の技術向上に伴い、写真や画像データに改変を加えることが容易となっていることからすると、CGを描く基となった写真について改変が加えられている可能性にも留意する必要があり、特にCGの基となった写真の画像データのみが存在し、その出典が不明である場合には、出典となった写真集が存在する場合と比べて同画像データ作成の過程において改変が加えられている可能性が高いことになるが、同画像データのみからその可能性を判断することは相当に困難である。以上からすると、CGや絵について基となった写真との同一性等を判断するに際しては、上記の観点からの慎重な検討が必要となる」



1審判決でも、問題とされた34画像中3画像だけが「児童ポルノ」と認定されたに留まっています。検察による求刑は「懲役2年罰金100万円」でしたが、1審判決が「懲役1年(執行猶予)罰金30万円」、控訴審判決は「一部無罪・罰金30万円」とかなり軽くなりました。



●「実在する児童」を描写すれば児童ポルノになるが・・・

——では、生成AIによる子どもの裸画像を所持していた場合、罪に問われることはないのでしょうか?



生成AIによる裸画像であっても、実在する児童を描写したものであれば、児童ポルノとなる可能性があるので、自己の性的好奇心を満たす目的で、画像を所持すると、単純所持罪(同法7条1項)を疑われるおそれがあります。



一方で、すでに述べた通り、児童ポルノ性の認定は困難ですから、行為者においても児童ポルノという認識(故意)を持つことは少なく、「実在する児童の裸だとは思わなかった」という弁解が通りやすいと思われます。



——もしも実在の子どもの画像を学習させて生成された画像が、その子どもに似てしまった場合は、何かの罪に問われる可能性はありますか?



CG児童ポルノ事件でも、元の児童ポルノ写真集から、少しポーズを変えて手描きした程度であれば、児童ポルノと評価されていますから、実在児童の裸を学習させて生成した場合には、児童ポルノになる可能性はあります。



しかし、これも先述の通り、児童ポルノ性の認定は困難ですから、「実在する児童の裸だとは思わなかった」という弁解が通りやすいと思われます。



——生成した子どもの裸画像が偶然、実在の子どもに似てしまった場合、何かの罪に問われる可能性はありますか?



偶然似た場合は、児童の姿態を「描写したもの」(同法2条3項本文)とは言えないので、児童ポルノにはなりません。




【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/