職場の雰囲気や激務により、仕事を辞めたくなることもある。東京都の40代前半の女性(その他/個人事業主/年収100万円未満)は、過去に中小出版社の編集職を7か月で辞めたことがある。理由は社風や働き方の問題だ。女性は当時の職場の雰囲気について、「社長に絶対服従」だったと振り返る。
「編集部にいた私が、入稿前で急いでいたので階段を駆け上がっていた時のこと。前に社長が上っているのが見えたが、横が空いていたので社長を追い抜かしたら、『君、無礼だな!』と怒られた。『入稿前で急いでいて』と一応言い訳したが、冷たい目で見られ無視された」
“社長に絶対服従”の事例は他にもたくさんあったという。(文:コティマム)
「社長が部屋に来たら全員起立」「ビアパーティに強制参加」「3か月に1回の配置換え」
「社長が部屋に来たら、全員起立しないといけない、ばかみたいに。当然、仕事も中断する。毎月、社内の中庭でビアパーティに強制参加させられる。仕事よりも優先しないとならない。開催時間は7時から9時くらいまでだったと思うが、終わっても帰れず9時過ぎからみんな仕事に戻る。この時にも社長が来たら、もちろん全員が起立。酔って顔が真っ赤なのに仕事してる上司を見て、しらふの私は滑稽だと笑ってた」
働き方の面でも不満があったという。
「3か月に1回、配置換えがある。例えば、私は週刊紙から月刊誌に異動になった。理由は『取材先や顧客と社員が癒着しないため』と、私より長く勤めていた同僚に聞いた。社員を信用してないのだと思う(管理部という名のスパイもいることだし)」
3か月に1回の配置換えについて女性は、「週刊紙から月刊誌になるだけでも慣れるのに大変だった。もし慣れたとしても、その頃にはまた異動させられる」と振り返る。
「異動先は編集部とは限らない。教育部かもしれない。『やってられない』と心底思った。この変な異動ルールが、私の辞めた理由!」
眩しくてもブラインドの位置は社長指定「一直線のほうが美しく見える」
また職場環境も独特のこだわりがあったという。
「当時はほぼ全面がガラス張りの建物だったのですが(今は知らない)、眩しくても好きにブラインドを下せない。ブラインドを下ろすなら、『全ての窓のブラインドを同じ位置まで下げ、一直線にしないといけない』。その場合でも完全に下げてはいけない。理由は『外からお客さんが見た時に、中が見えるように、かつ一直線のほうが美しく見える』という社長の考えだと、上司から聞いた」
ブラインドの位置にまで、社長の意見が反映されている職場。さらには服装にも厳しいルールがあったようだ。出版社の編集部では服装自由とされていることが多いが、
「編集部だろうが、黒いスーツか地味な黒っぽい服を着ないといけない。私はやってられなくて、普通のスーツは着なかった。代わりにVivienne Westwoodのアバンギャルドなスーツは時々着ていたけれど(さすがに会社ではロッキンホースははかなかった)。基本は、全身黒い服で通した(ってバンギャか?と懐かしくも思った)」
退職に後悔なし「こんなに空が青かったなんて!」
また、「有給を月曜に取ることができない」など、休日や労働時間も納得のいかないものだったという。
「『編集会議がある』という理由だけでなく、『社会人で仕事始めの月曜に休むのは非常識であり、みんなの士気が下がる』という理由だった。それを知ってか知らずかわからないが、月曜を休み連休にして家族旅行をしようと有給を取った同僚は、有給申請がいつまでも下りず、旅行会社にキャンセル料を払う羽目になった。出社は8時半で、帰りは終電ということが珍しくなかった。編集部の人数が少なく(編集長以外に、2人か多くて3人の社員で一つの雑誌を作っていた)、仕事量は多い」
さらに「面接で提示された給与は交通費込みだった」と、エピソードは止まらない。しかし女性にとって、給与の件が「この会社で一番小さな出来事に思えるくらい、異常な職場だった」と語るほど、この会社での日々はあり得ない状況だったようだ。
女性は7か月で退社し、「シャバに出られた!と本気で思った」という。
「こんなに空が青かったなんて!街路樹の緑も鮮やかで綺麗!と泣けてきた。もっと早く、1か月で辞めてもよかったと今は思う」
退職に悔いはない女性だが、「同時期に中途採用で入った同僚との仲は良く、ランチや勤務時間外に楽しい時間があったので続けられた」と思い返す。
「トイレで泣いてる私をいつも慰めてくれた。その人たちも1年ほどでみんな辞めたけれど、本当にみんなに救われてた。どんな環境でも、一緒に働く人を大事にしたいと思うようになったきっかけでもあり、体験できてよかったと思う」
※ロッキンホース:Vivienne Westwoodの代表的な底の高いシューズ。
※バンギャ:ヴィジュアル系バンドの熱心なファンである女性を指す言葉
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