2023年07月10日 17:51 弁護士ドットコム
医師免許を持たない「彫り師」がタトゥーを施術しても、医療行為にはあたらないとする最高裁の判断が示されてから3年。
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タトゥーと同じように皮膚に針を刺して眉やアイラインなどを描く「アートメイク」の取り扱いを検討していた厚労省はこのほど、「アートメイクは医療行為に該当する」とする従来からの見解をあらためて各都道府県に通知した。通知は7月3日付で、最高裁の判断以降初めてという。
アートメイクをめぐっては、健康被害が相次いだことを受けて、厚労省が2001年、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為には医師免許が必要」とする通知を各都道府県に出している。
つまり、医師免許を持たない人が施術した場合には、医師法17条に違反するというものだった。
このときの通知は「指導を行っても改善がみられないなど、悪質な場合においては、刑事訴訟法第239条の規定に基づく告発を念頭に置きつつ、警察と適切な連携を図られたい」とも求めている。
その後、大阪府の彫り師の男性が医師免許がないのに客にタトゥーを施し、医師法17条に違反したとして30万円罰金の略式命令を受けたが拒否して、「タトゥーの施術は医療行為にあたるのか」ということが、最高裁まで争われた。
1審(大阪地裁)は罰金5万円を命じたが、2審(大阪高裁)は逆転無罪判決を言い渡した。最高裁は2020年9月、2審判決を支持する決定を下して、男性の無罪が確定した。
検察側は医師免許のない人によるアートメイクは医師法違反で多数処罰されているとして、タトゥーも同様だと主張していた。しかし、大阪高裁は、タトゥーとアートメイクについて、次のように述べて「同一に論じることはできない」としていた。
「アートメイクの概念は、必ずしも一様ではないが、美容目的やあざ・しみ・やけど等を目立ちづらくする目的で、色素を付着させた針で眉、アイライン、唇に色素を注入する施術が主要なものであり、その多くの事例は、上記の美容整形の概念に包摂し得るものと考えられ、アートメイクは、美容整形の範疇としての医行為という判断が可能であるというべきである」
今年7月の通知は、福島県が、厚労省に対して、医師免許のない人が「針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨などの色素を入れて、(1)眉毛を描く行為 (2)アイラインを描く行為 を業として行った場合、医師法17条に違反するか」と問い合わせたことがきっかけ。
福島県保健福祉部の担当者によると、アートメイクの事業を始めたいという問い合わせがあったため、あらためて厚労省に確認したという。厚労省は、医療行為にあたり、医師免許を持たない人がおこなえば、医師法違反にあたると回答している。
通知では、この回答だけでなく、タトゥー裁判の最高裁決定についても説明されている。
厚労省医政局医事課の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、タトゥーについての最高裁判断が出されたことを受け、2022年度の科学特別研究事業として、医師法17条をめぐる学説や判例を整理し、今後の運用の検討したと述べた。
通知は、最高裁決定について、「タトゥーは、歴史的に、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があることである」と示された上で、「すなわち、タトゥーの担い手は歴史的に医療の外に置かれてきたものであり、そのこと自体がタトゥーの社会的な位置付けを示すものとして理解されうる」とした点が「最も重要かつ本質的」と指摘している。
一方、アートメイクについては「医師・看護師などの医療従事者が関与している実態」があり、「医療従事者による安全性水準の確保がきわめて重要」といった最高裁の決定について説明している。